第17話 攻略4

 37階層で会った子供の名前はジップ。犬の名前はクロエだそうだ。2人?でパーティを組んで活動しているらしい。

 よく見れば前に見た美女と一緒にいた子供だ。

 オーガジェネラルを倒してマジックバッグを手に入れるためにこのダンジョンに潜っていると言う。

 ドロップ品は一つなので共闘はできないが、転移石の登録までなら一緒にいても競合しない。そこまでは一緒に行こうと誘った。

 決してジップと一緒にいた綺麗な女性の事を知りたかった訳では無い。


 ジップとクロエのコンビはかなり強い。単純な戦闘力なら、上級冒険者にも匹敵するだろう。

 実践経験が無く、訓練だけしていた同じくらいの歳の頃の俺より強いかもしれない。

 とくにクロエの魔法で牽制してジップが攻撃するコンビネーションは秀逸。俺のパーティよりはるかに良い。

 俺もジップと組んだことにより37〜40階層を3日で攻略できた。

 勇気を出してあの女性の事を聞いた。どうやらジップの姉や母親ではないらしい。クロエ師匠と言うらしいが、何故犬と同じ名前なのだろうか?訳がわからない。

 まぁ、知ったところで使命のある身。どうなるわけでもない。

 

 勇者が背負ったマジックバッグの中に結界石やら、テントや毛布、食料を持っていたので3日で40階層に行き着いた。ベースキャンプの設置や撤去なども考えると半月くらい短縮できた気がする。

 競合するわけではないので、マジックバッグを手に入れる方法を教えても良かったのだが、あれから200年以上経っている。今でも有効かどうかわからない。

 ジップもそれについては何も考えていないようなので、とりあえず言わないでおく。しばらくここに潜っているらしいので、また会う事もあるだろう。

 ヒトの姿の私を見かけたらしく、優しそうで見たこともない程綺麗だったと絶賛していたのて、こいつは良い奴に違いない。

 ついでに、今のパーティの同行者の女達の愚痴を垂れ流しにしていたが、10歳にもならない子供相手に何を言っているのだろう。

 女は恐いねー。でもクロエ師匠は牝犬だから大丈夫とか、聞き方によっては、とんでもない事を言っているジップの言葉は勇者の耳には入っていないようだ。勇者の背後に深い闇を感じる。

 

 40階層の転移石で勇者と別れる。私達は今オーガジェネラルと戦っても仕方ない。20階層に戻ってキメラを倒し、上級ポーションをドロップさせなければならない。


 4巡目のトライで、上級ポーション、ミスリルの剣とドロップが続き、いよいよオーガジェネラルの元へ。

 こいつは魔法も使わずひたすら剣技あるのみ。こちらの魔法も今の私の使える程度の魔法攻撃ではあまり効果が無いので、ほぼジップにお任せ。3日ばかりではあったが、勇者が剣の稽古をつけてくれた。

 素人にゼロから教えたわけではない。達人レベルが上級者に教えたのだ。3日でも得るものは大きかったはずだ。


 オーガジェネラルはオーガ2体を従えて部屋の中で待っている。私達が部屋に入ると奴らは動き出す。両脇のオーガがまず前に出てくる。一体は剣、一体は戦斧を、オーガジェネラルは槍を持っている。

 ジップが身を低く構えて踏み込む。降り下ろす剣を避けながら、剣のオーガの脚の筋を切って横に飛ぶ。

 戦斧を振り上げたオーガの喉に私のアイスランス。首を曲げて避けた分オーガの反応は遅れる。横跳びに跳んだジップは戦斧のオーガの足首を切断してオーガ達の機動力を奪う。側面の壁に手を突いて勢いを殺して床を蹴ってこちらに戻る。剣を納めて床に置いておいた短槍を持って再びオーガに向かう。

 膝をつきながらも、再び剣と戦斧を振り上げるオーガ達の腋の下に私のファイアアローが突き刺さる。

 一瞬怯んだ二体のオーガの間に飛び込んだジップは槍のリーチを生かしてオーガ達の首筋を斬りオーガジェネラルに斬りかかるが、ジェネラルの槍に阻まれる。


 暫くといっても数分だろうか。ジップとオーガジェネラルは激しく切り結んでいる。動きと体の位置を変える速さが速すぎて、魔法で援護ができない。突然動きが止まり、ジェネラルの頸から血が吹き出す。崩壊するようにジェネラルが消えて跡には3つの魔石と目的のマジックバッグが残されていた。私の見つけた法則はまだ生きていたらしい。


 公衆浴場でさっぱりして、多分牛かものステーキで祝杯をあげる。水だけど。

 不要なドロップ品も貯まり、売ればそれなりの額になる。ギルドに預けているお金も相当な金額になった。


 私の古い知り合いの魔女にララ・ロクサーヌというのがいる。

 私と同じように大魔女と呼ばれる魔女だが、魔力路の研究に凝っていて、背骨の魔力路の8つの魔力節を活性化できれば、人は変身できるとか、一段上の生命体に至れるとか、そのために魔力路を広げる研究とかを熱心にやっていた。

 放浪の大魔女とも呼ばれ、研究にために、気の向くままあちらこちらを彷徨い歩いているので、簡単に見つかるとは思えないが、彼女なら今の私達の苦境をなんとかできるのではないかと思うのだ。

 私はジップに、放浪の大魔女を探すことを提案したい。


 食事の後、部屋でそんな事を文字盤で伝えていると、ジップはもう少しだけここのダンジョンで遊んでいたいと言う。

 24〜6層の宝箱をもう少し見つけたいし、オーガジェネラルとももう少し戦いたいらしい。

 マジックバッグが高く売れるなら、私を嫁にもらう時のユイノーキンになるらしい。


 今まで私の言うことにずうっと付き合わせている訳だし、ジップも魔力路を今すぐになんとかしないと命に関わるほど切迫している訳でもない。

 オーガジェネラルとの命懸けの遊びが魔力の解放に役立たないとは言えない。温泉も気に入っているしもう少しここで遊んでゆくことにした。


 7巡目のケルベロスが『クニサダチュージの護符』というのをドロップした。きっと何か今の私達に役立つ物に違いない。

 結果、キメラの上級ポーションと、ケルベロスのミスリルの剣のドロップ率が大幅に上がった。これはどうも、くじ運や博打の勝率を上げる護符らしい。

 正直、これがあれば一生遊んで暮らせるのでは?とか思ったりもするが、この手の護符の恐ろしいところは、そう思わせて深みに誘い、抜け出せなくなったところで突然効果が無くなったりするのである。効果のあるうちだけありがたく使わせて貰うのが無難だろう。


 短期間で、マジックバッグが9個も集まり、剣や戦斧、メイスなど様々な武器を持ったオーガジェネラルとも散々戦った頃、ジェネラルの部屋の前で部屋から出てきたアモンと会った。10回程ジェネラルを倒したがマジックバッグは手に入らなかったらしい。

 流石に義務やしがらみの多い勇者がこの場所にこれ以上留まる訳にはいかず、今日が最後の挑戦だったと落ち込んでいる。

 可哀想に思ったのか、ジップが腰に付けているバッグから1つ取り出して沢山あるからあげるよと言って渡している。

 素直で良い子に育っている。きっと私の日々の薫陶による物に違いない。

 

 断るアモンにいくつか出して好きな物を選べと言っている。ほとんど変わらないが、色合いやデザインがわずかに違う。それを見て複雑な顔をしていたが、最後は受け取ってくれた。子供の善意は素直に受けるべきだろう。

 お返しには全然足りないけどと言って、オリハルコンの短剣を3振り渡された。討伐の礼に貰った物だそうだ。短剣はほとんど使わないので、大人になったら打ち直して剣を作れば良いと言ってた。

 ミスリルと違ってオリハルコンはお金を出せば買える物ではない。

 ありがたくいただいてディール成立。またの再会を約して別れた。

 

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