第16話 攻略3

 ケルベロスの前に立って戦闘開始。ジップが槍で3つの頭とやり合っている。スピードでは負けていない。管槍の素早さもあって、ケルベロスに浅い傷を何ヶ所もつけている。

 後ろから私がファイアアローを連射する。最近曲射できるようになったので結構当たる。

 ケルベロス相手では小さな火傷を負わせる位の威力しかないが、ケルベロスは気になるらしく戦いに集中しきれないのがわかる。


 秘策ではないが、知っていればケルベロスとの戦いが楽になる知識というものがある。

 これはちょっと調べればわかる事なのだが、字の読めない冒険者も多く、ケルベロスと戦えるレベルまで上がれない冒険者も多い事から、知ってる人は知っている知識にとどまっている。

 頭の3つあるケルベロスだが、双頭ドラゴンなどと違って首が犬の長さなので、真ん中の頭は顔の向きは変えられても、ほぼ上下にしか動けない。

 そして双頭ドラゴンのようにそれぞれの頭に脳があるのでなく、ケルベロスの脳は真ん中の頭の付け根にあって、ここを破壊すれば勝てるのだ。動物なら、ありえない構造だけど、魔物である。なんでもアリだ。


 さっきからジップはジャンプして上からケルベロスに仕掛けている。

 足場がないので攻撃力はやや落ちるが、ケルベロスに当てた槍を足場にして後ろに飛んだり、結構器用に戦っている。

 暫くそれを続けて、ケルベロスがそれに慣れて来た頃、ジャンプするように膝を曲げる。

 それに合わせてケルベロスが頭を上に負けようとした瞬間、私が作った短めのアイスランスが下からケルベロスの顎を撃ち抜く。

 ジップは同時に上でなく正面に向かって地面を蹴りケルベロスの心臓を刺し貫く。


 ドロップ品はオリハルコンのインゴットであった。

 オリハルコンを扱える鍛治師はあまりいないが、そういう鍛冶師が稀と言うわけではない。

 オリハルコンも欲しい時に必ず手に入る訳ではない。これは売らずに取っておこう。

 キャンプを撤収しよう。あと4日で満月だ。今度は人の姿で露天風呂に行こうか。ジップは何をしたがるだろう。



 俺は今日もダンジョンに潜っている。ここ暫くは奴らの顔も殆ど見てない。

 そのせいか、セイフティエリアで1人きりでキャンプして干し肉と、堅パンを齧りながら魔物と戦うこの生活のなんと豊かな事か。

 剣以外の装備は宿に置き、今つけてるのは安い革鎧と小手とマントだけ。剣は安物では俺の力に耐えられないのでオリハルコンの物を柄に革紐を巻いて使っているが、ここで出会う冒険者達はおれが勇者だとは気付かず、気軽に声をかけてくれる。

 

 ギルドの話ではここのダンジョンマスターは稀にマジックバッグをドロップするらしい。

 今は国に貸し与えられたバッグを使っているが、ここで得られるマジックバッグは容量も民家一軒分程もあり、収納した物は中では時間も経過せず温かいスープは温かいまま、氷は氷のまま保存できるらしい。

 しかも大きさはポーチくらい。登録すれば登録者しか使えないため盗んでも全く役に立たず、防犯上も大変優れている古代文明の魔道具なのだそうだ。


 今俺の使っているバッグは魔道具として現在作られているもので、大きさも小型のリュック位ある。

 中は外と同じ時間が経過し、容量も小さな部屋の半分程度。便利ではあるが、話の通りならドロップされる古代魔道具のバッグと比べるとだいぶ見劣りする。

 それでも貸し与えられただけで、下賜された物ではないので、魔王討伐の旅が終わったら剣や防具と共に国に返還しなければならないだろう。

 性能は低いとはいえ、貴族の館が一軒が買えるくらいの高級品なのだ。

 

 俺が古代魔道具のバッグを欲しがっているのは便利だからではない。

 いつか魔王を倒して、パーティを解散した時、誰も知らない町で冒険者になる時の準備なのだ。

 とにかくあの魔女共と縁を切ってしまいたい。そのために1番必要なのは自分で自由になる資産である事は言うまでもない。

 魔王を討伐すれば、普通に暮らすなら一生困らない位の報奨金が出るらしいが、後を追われないなら明日にでも姿を消してしまいたい。

 誰にも知られず、色々なものを収納できて、自分しか開けられないバッグと言うのは俺にとってとても魅力的なのだ。


 ソロの戦いの訓練でもあるので、キメラ、ケルベロスと順調に倒して深層に進む。

 37層の探索を開始した時、子供と小犬が数体のオーガと対峙しているのを見つけた。

 なんでと思う間も無く体が動く。

 小心者のヘタレ勇者でも、場数を踏んできたので、最近はオーガ程度の小物相手なら流石に足がすくんだりはしない。

 下から切り上げて1番手前のオーガの馘を落として、返す刀で2体目をかさがけに切り落とす。

 そのまま走り寄って3体目の胸を貫くが、だめだ、あと1体は間に合わない。



 37層でオーガの集団と出会ったとき、横から冒険者が突っ込んできた。見事な手並でオーガを斬り倒す。

 なんだかわからないが、私達を害する気は無さそうだ。こちらに向かってきたオーガをファイアアローで牽制、ジップが首筋を槍の穂先で刎ね切り難なく倒す。


 

 信じられない事に、子供はオーガを瞬殺した。考えてみればこんな所を子供が1人でウロウロしている訳がない。

 偶には大人並みの力を持った子供の冒険者もいる。俺はどうやら余計な事をしたようだ。


 「済まない。どうやら勘違いして余計な事をしたようだ。魔石はそちらが納めてくれ」


 素直に謝る。


 「あっ、勇者様だ」


 装備は安物だが、剣はオリハルコン。確かにパレードでみた勇者だ。一緒にいた魔法使いや弓使いの少女はいない。

 詫びの印にと言って、火をおこして、茶を入れてくれた。私には干し肉の切れっ端。

 ジップは憧れの勇者を近くで見て興奮しているし、話をしてみれば中々の好青年だ。差し障りのない話をしているうちに、勇者もマジックバッグ目的だという事がわかった。ドロップ品は一つなので一緒に攻略はできないが、40層の転移石まで仮パーティを組んで一緒に行こうと言う事になった。


 

 

 

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