第15話 攻略2

 俺の名はアモン。勇者である。俺達のパーティは今ダンジョンの町パルムに来ている。何のためかって?当然ダンジョン攻略のためである。

 別にこのダンジョンで魔物の大発生、スタンピートが起きていたり、ここが誰も攻略したことのない難攻不落の大迷宮と言うわけではない。ここは大陸に何ヶ所もある普通の中級ダンジョンだ。


 ではなぜここにきたかと言うと、昔から勇者はダンジョンを攻略してレベルをあげると言う伝統があるらしい。

 確かに短期間に沢山の魔物と戦えるため訓練には最適かもしれない。

 だが、俺達の、いや、俺の一番大きな目的はぶっちゃけ金だ。

 ブランカから少なからぬ金銭を貰い、今でも多額とは言わないまでも、困らない程度の額の送金がギルドを通じてなされているのだが、

同行の3人の女達の金遣いが荒いのである。

 皆、王侯貴族の生まれじゃない。能力と才能を見込まれて集められた先祖代々の大平民である。持ちなれない金を持って舞い上がったのか、最初に準備金として貰った金も、やれ化粧品だ、スイーツだ、宿は最高級でないと泊まらないとすぐに使い果たした。

 そしてその後もその生活を改めない。


 そのくせ、俺に甲斐性が無いのが悪いとか、女を養うのは男の義務だとか3人で責め立てるのだった。

 勇者である以上、ドラゴンを倒して困っている人を助けても冒険者と違って金品を受け取る訳にはいかない。

 冒険者のように魔物を倒して素材を売るわけにもいかないのである。

 世間体良く無く金を稼ぐ手段は限られ、ダンジョンで魔物を倒して魔石を集める事はその数少ない手段の一つであった。


 先日ドラゴンを討伐した時、ベルゼが裏で領主に金を要求していた。慌てて止めて誤魔化したが、あんな事をしていたら、国の面子を守るため、勇者が魔王化したとか言われて討伐されかねない。俺の悩みは尽きない。


 公園の噴水の周りのベンチに座ってぼんやり辺りを見ていると背中に剣を背負った子供と、母親だろうか?見たことも無いような綺麗な女の人が手を繋いで目の前を歩いてゆく。

 子供の背負った剣に目がゆく。おもちゃにしてはよくできている。妙に重量感のあるリアルな作りだ。そのせいか、子供の歩き方も様になっている。

 女性が子供に優しく微笑む。あぁ、女の人ってあんな風に笑うんだ。あの人はうちの女共とは別の生き物に違いない。女の人が歳を経ると

天使が夜叉になるって剣を教えてくれた師匠が言っていた。

 それならベルゼ達は何になるんだろう。いっそのこと魔王にでもなってくれれば、俺が討伐するのに……



 私とジップは20階層のキメラの部屋の扉の前に立っている。

 キメラもまたコカトリスの様に、獅子の頭、ヤギの体、毒蛇の尻尾を持つ合成魔物とでも言うべきものである。

 強力な火炎を口から吐くものの、コカトリスの石化ブレスよりマシかもしれない。強力な頭と尾に対してヤギの体が弱点であるのは言うまでもない。従って頭と尻尾を避けて体を攻撃するのが攻略の定石であるが、元々私の使っていたような大魔法が使えるなら、炎だろうと氷だろうと一発で仕留められるレベルの魔物なのだ。

 我に秘策あり。私達は扉を開けて部屋に入る。


 部屋の奥にいたキメラが吠える。獅子の咆哮だ。弱い者が聞けば足がすくむだろう。

 私も一応吠えてみる。キメラがこちらに気を取られた瞬間にジップが槍を投げる。それを避けたキメラの顔にトルネードカッターを当てる。致命傷とかにはならないが、自慢の立髪が虎刈りになる。

 頭にきたキメラが超高熱の炎を吐こうとした瞬間、近づいた私がウォータで口の中に水の塊を作る。

 水にあたった超高熱の炎は水蒸気爆発を起こしキメラの口はズタボロになる。

 すかさず飛び込んだジップが虎月で首の血管を刎ね切り返す刀で尻尾の毒蛇の頭も切り落とす。

 

 完璧なタイミング。キメラは上級ポーションでなく、ミスリルの短剣をドロップしたが、今回は全ての転移石に登録するのが目的なので構わない。ジップの短槍がそろそろそろそろ寿命なので、戻ったらこれを使って短槍を作ろう。

 私達は21階層に踏み出す。


 

 俺達はダンジョンに潜り始めた。最初の数日は付いてきたが、女共はダンジョンに潜るのを服が汚れるとか、弱すぎてレベルアップにもならないとか嫌がるようになり、やがて来なくなった。

 深く潜れば魔物も強くなると言ったが、聞き入れない。

 

踏破済みのダンジョンなんて踏破しても誰も褒めてくれないし、私達の訓練をしてくれた魔王を倒した事のある元勇者達だって、最後は私達に全然敵わなかったのだから、今更修行なんで必要ない。

 私達は今までに人の一生分の修行をしてるんだから、行きたければ1人で行けとほざく。

 ドラゴン討伐で金を取れなかったのが余程気に食わなかったらしい。


 1人で闘うのは久しぶりだ。俺たちは最悪のパーティだが、ドラゴンのような強い相手と戦った時は流石に全員が戦いに参加していた。

 俺が殺られたら自分達だけでは敵わないと思ったのか、サボってたのを人に見られたりしたらマズいと思っていたのかはわからないが……

 相手が弱くても、ソロで戦うだけでかなり修行になると俺は思っている。

 ソロだと攻撃に失敗した時、フォローしてくれる者がいないためそれは即、隙になってしまう。

 相手が複数あれば1人でその全ての動きを把握していなければならない。

 1対複数の接近戦は相手が弱くても決して油断できない戦いとなる。

 

 とは言え、俺もドラゴンを倒せるくらいの勇者である。

 勇者でないとしたら魔法剣士と呼ばれたであろう割とオールマイティな戦士なのだ。

 戦いのたびに改善点は無いか振り返りをしながらもサクサク進む。10階層の主、コカトリスも魔法を纏わせた剣の一撃で撃破。次に進む。



 私達は現在26階層を攻略中。24、25、26階層と一番ポピュラーな洞窟ダンジョンが続く。3層で一つのダンジョンになっているのか、この3層は出てくるゴーレム、デュラハン、毒を持った牛くらいある大鼠、吸血鬼などの魔物が3つのどの階層でも変わらない。

 そしてこの3つの階層には宝箱が出現する。魔物のミミックの場合もあるが、本当に宝が入っている事もある。

 ジップがこれにハマってしまい、この3つの階層は全エリアを捜索することになってしまった。


 魔物はだんだん強くなってきているが、問題ない。最初は剣技の延長として槍を使っていたジップだが、最近では独自の使い方を覚え、槍術と言うべきものになっている。 

 穂はキメラがドロップしたミスリルの短刀。柄は魔鋼だが、軽量化の為に中が空洞になっている。石突もミスリルが使われ、柄の前半を自由に動く管が巻かれている。管槍というやつである。

 私は槍は使えないが、槍にこの間管があると突きの速度と穂先の動きがとても良くなると何かで読んだ記憶があって付けてみたところ、ジップから高評価を貰ったのだ。

 戦いの中、私も使える無詠唱魔法の数が増えている。低位魔法ばかりだが、組み合わせる事によりそれなりの効果を得る事もできるのだ。

 私は魔法のエキスパートなのだから。

  

 今回もキメラの時と同じく、26階層にあったセイフティエリアにベースキャンプを設置して30階層の転移石に挑む事になった。

 一度やったことなので無駄なく準備できた。

 そして15日後にはケルベロスの扉の前に至ったのである。

 ケルベロスは頭の3つある獅子位ある真っ黒な犬である。頭を1つ潰したり切り落としても、しばらくすると生えできてしまうのでなかなか厄介だ。炎などは吐かないが、敏捷で力も強い。メンバーの構成にもよるが、上級に近い中級パーティ以上でないと挑戦できないレベルの魔物なのだ。

 

 

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