第14話 攻略

 ギルドに行き魔石を売り、道具屋でドロップ品を売る。

 そして公衆浴場に行って仕事の後の汗を流す。ここパルムは山の麓にあるせいか、公衆浴場は温泉である。湧いて出る方が薪や石炭をを使って沸かすより安上がりであるし、手間もいらない。従って値段も安い。

 パルムに来て以来利用しているので顔馴染みになり、ちゃんと私用の桶も置かせてもらっている。


 借りている部屋の近くの食堂に行き、今日はちょっと贅沢をして牛肉のような肉のステーキを食べる。

 見た目も味も上等な牛肉だが、メニューにはただ、ステーキと書いてあるだけなので魔物肉かもしれない。


 意外と思われるかもしれないけど、魔物肉は美味い。普通に飼育されている家畜と比べて決して劣るものではないのだ。

 オークなんて、二足歩行で、服を着ていて、武器を持っている豚顔の人間に見えなくもないから躊躇する人はいるが、味はとても良い。

 ほとんどの人は、魔物だって人間を喰べるのだから、お互い様だみたいな感じて喰べている。

 家畜が飼われているのは、魔物の肉は流通が非常に不安定なのと、魔物は飼育できないからだ。

 家畜の飼育は、肉だけでなく、馬を使った荷運び、牛を使った労働力や牛乳、羊からの羊毛、畑の堆肥など手に入れることにもなり、魔物狩りでは代替できないのだ。


 「クロエ師匠の作戦でコカトリス楽勝だねー」


 ジップが私を褒める。

 ギルド近くの荒くればかりいる食堂で、明らかに私達のコンビは異質だが、お疲れと声をかけてくる顔見知りは居ても、絡んでくるような不心得者はいない。

 子供と小犬のコンビだが、パルムにいる冒険者パーティでも私達に勝てるパーティは20組もいないだろう。

 そして強いパーティは子供に絡んだり、子供を虐めたりしない。協調性が無かったり、頭の悪い冒険者は強くなる前に死ぬのだ。


 順調に攻略を進めていた私達だが、ケルベロスを目前に18階層でこの10日あまり足止めをされていた。

 ここに出るのは主にアンデッド。夜の墓場が延々と続くやたらと広い階層である。

 スケルトンやたまに出るリッチもまぁ問題ない。吸血コウモリやグールも実体があるので、死ににくい、いや、倒しにくいのではあるが、バラバラに切り刻めば復活せずに魔石になる。

 だが、実体の無いゴーストに対してジップの攻撃がほとんど効かないのだ。光魔法が使えれば、ゴーストなんて楽勝なんだが、あいにく使えない。私達のパーティで効くのは私のファイアボールとファイアアローのみ。どちらかと言うとスピードも遅く、強さは弱いが、当たれば有効範囲の広めなファイアボールの方が有効と言う状態。

 小犬だが、私の魔力量はそこら辺の魔法使いの魔力量など遥かに超えている。

 それでも、1人で対応するのは効率が悪く攻略は遅々として進まない。教会で寄付をして聖水をもらって試したりましたが、効果はあるが量が全然足りない。


 ある日、10階層でコカトリスを倒した時、『セント・ジョーンズの護符』と言うのをドロップした。

 私もなんの役にたつのか知らない。呪いの護符でもないようだ。ギルドならどんな効果があるのかわかるだろうし、不要なら後で売れば良いとそのまま持って進む。

 そして18階層。アンデッドとの遭遇率が全然少ない。ひょっとしてジョーンズ先生のおかげ?19階層への階段を見つけて撤収となった。

 ダンジョンでは時々こういう不思議な事が起きる。前にも、古代人の娯楽施設だったのではないかと言ったが、こんな経験をするとそう考える気持ちもわかってもらえると思う。


 18階層のアンデッド遭遇率は減ったとは言っても、18階層は広い。

 コカトリスがいない時に、10階層の転移石から19階層への階段まで最短距離で進んでも、日帰りで20階層の次の転移石まで行き着くのは厳しい。

 17階層にはセイフティエリアがある。そこをベースキャンプにして、そこから攻めてゆくしかないだろうという事になった。

 幸い連日のダンジョン攻略で集めた魔石を売って、ギルド預けていた代金もかなりの額になり、金銭的に余裕がある。


 私達はギルドの紹介してくれた店で、持っているお金の大半を使って結界石を買った。

 4個の拳大の魔法陣が刻まれた結界石は中に魔石をセットすると、その4個の結界石で作ったおよそ5m四方のエリアには設定者以外は何者も入れなくなる。

 もちろん強大な魔力を持った魔法使いや勇者なら結界を破壊できるが、そんな力を持った者が、食料や毛布を置いてあるだけの結界を破壊することは無い。

 

 それから、私達はせっせと17層のセイフティエリアに長持ちする食料、野営用の小さなコンロ、毛布などを運んだ。セイフティポイントは魔物が出現しないし入ってこない。そこに結界を張れば、考えられる限り安全なはずだ。


 そして5日後遂に19階層を攻略。20階層の転移石に登録ができたのであった。2日かけて17層のベースキャンプを片付けて(ゴミを放置したりするのはジップの教育にも良くないから。大人としてはこの辺はちゃんとしないと)

あと数日で満月なので、少しおやすみ。

 パルムに来て以来、ダンジョンにかかりっきりで、ジップにとっては初めての場所なのに観光もしていない。ダンジョンと公衆浴場と食堂以外どこにも行ってない。道は半ばだが、ここで数日休むのは決して悪いことじゃ無い。


 観光できる場所をギルドで聞くと、近くに火山があって、火口が観られるらしい。近くに露天風呂があって簡単な食事もできるそうだ。途中の道は結界が張られていて魔物も出ないので、町の一般人もよく遊びにゆくと教えてもらった。

 早速、剣と私の風呂桶、水筒とタオルだけの軽装で出かける。人の時は山道なんて歩きたくなかったけど、犬の時は匂いを嗅ぎながら歩くのがなんでこんなに楽しいのだろう。不思議だ。

 火山は町からも煙が見えるのだが、近くで見たジップはえらく感動して、その後の温泉は初めて2人で並んで入浴した。私は浴槽の横の桶の中だけど、外で入る開放的な温泉のなんと贅沢な事か……

 簡素な食事であったが、昼に食べたパスタのような料理も美味しく大満足な1日であった。

 

 人に戻った日もジップとデート?改めて教会を見学。お祈りをしてわずかな金額だが、寄進。街の真ん中の大きな公園で噴水を見てそこで果物のジュースを飲む。剣を背中に背負ってなければ普通の子供だ。まぁ、見る者が見れば、妙に隙が無いし、足運びも尋常ではないのだが。


 

 

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