第13話 パルム

 パルムに着いたが、直ぐにダンジョンに潜る訳ではない。まずは冒険者ギルドに行って登録。アルジャンのギルドマスターからの紹介状をギルドマスターに渡す。

 普通は子供と小犬ではダンジョンには潜れない。その為に特例として認めてもらわなければならないのだ。

 実績なら、私達は充分ある。ちゃんとした紹介状があれば問題ない。また、滞在は数ヶ月から半年になる予定なので部屋も借りた。これも紹介状とお金があれば問題無い。


 そして、私達はオークやブラッドウルフなどの討伐依頼を受けてそれをこなしていった。

 いくら紹介状があっても、紹介状はあくまで紹介状である。子供と子犬だけてダンジョンにいては無駄なトラブルの原因になりかねない。

 中難易度の依頼をいくつか問題なく片付ければ、逆に目立つ私達の事は知られやすい。

 外の依頼を受けながら、薬草と魔力草を採取してくる。そして、最初の満月の日、私はいつものように遊びに行かずに、食事と入浴以外の時間はひたすらポーションを作ったのである。


 パルムのダンジョンは全部で40階層よりなり、最下層のダンジョンマスターはオーガジェネラル。10階層毎に階層主がいる。10階層はコカトリス、20階層はキメラ、30階層はケルベロスである。

 階層主とダンジョンマスターのいる層には転移石が置かれており、その階層に至れば、ダンジョン入り口の転移石から、その階層の転移石まで転移できるのである。

 転移石は中規模以上のダンジョンでよく見かける物だが、今の所空間魔法を利用したものらしいとはわかっているものの、その原理は不明で、今の技術では作れない、古代文明の遺品なのである。


 私の研究ではでは、20階層のキメラが上級ポーションをドロップして30階層のケルベロスがミスリルの剣をドロップした時、オーガジェネラルはマジックバッグをドロップする。

 階層主の攻略は一度攻略して同じ人間が再攻略しようとした場合、間に数日を必要とするが、1回攻略してしまえば、転移石を利用してキメラ、ケルベロス、オーガジェネラルは1日で攻略可能だ。


 いよいよ明日からダンジョンの攻略だ。体力や怪我を回復するスタンダードポーションと魔力を回復する魔力ポーション、コカトリス攻略用の石化解除薬や状態異常の回復ポーション、数日分の食料、新たな武器として短槍を準備した。

 ダンジョンの中の構造は時々変わるため、私の覚えている中の地図は200年以上前のものであり役に立たない。迷ってビバークする事もないとは言えない。水は出せるが、薬や食料などは荷物は増えても多めに持たねばならない。


 今の私達の実力は、4人組の中級のやや上のパーティ相当。オーガジェネラルを撃破できるか微妙なレベルだが、そんなに上手くドロップ品が揃うわけもない。

 一度40階層まで至れば、転移石を使える。それを使ってキメラとケルベロスの攻略を繰り返せば、この半年で長足の進歩を遂げた私とジップなら、更に上のレベルに行きつけるはずだ。


 ダンジョンに潜って20日目。現在9階層を攻略中。

 私達はドロップ品が目的なので、他のパーティと組んだり他人を仲間にする事ができない。売って分けるようなことができないからだ。

 2人というより1人と1匹のパーティなのだ。

 多少の食料なども持ってはいるし、ダンジョン内には魔物が出現しない、セイフティエリアと言うのが何ヶ所かあるのだが、極力日帰りで攻略する方針だ。

 そのため攻略スピードは遅いのだが、攻略が訓練でもある考えるとそう悪くもないと思う。


 ここ9階層の魔物は8階層と同じで、空から攻撃を仕掛けてくる物が多い。林の散在する広い草原で上から攻撃を受けているとすぐに方向や自分のいる場所がわからなくなる。

 下への階段を見つけられれば10階層の転移石が使える。あと少しだ。


 ここではジップは槍を使っている。空を飛ぶ魔物と戦うのに、弓が使えない以上、礫か、投剣、リーチのある槍などを使うしかないのだ。刃渡の短いジップの剣では、複数の上からの攻撃に対応するのは難しい。


 ジップの振るう槍の先から魔力の刃が飛ぶ。

ファイアホークと戦っているうちに会得した技だ。

 剣よりも刃先のスピードが早い短槍がカマイタチのような真空を生み、漏れた魔力がそれに載って飛び、相手を切り裂く。ウインドカッターより威力も大きい。


 「クロエ、一羽逃した」


 わかっている。私と魔物の間に現れた氷柱が魔物を貫く。アイスランス。私が会得と言うか、無詠唱で使えるようになった新技だ。

 左手から何かが地響きをあげて近づいてくる。ロックバッファロー。岩で覆われた牛の魔物である。刀槍は効きにくい。

 私がファイアアローを何発か放って放って額に当てる。そして直後にアイスランスを当てたところに、ジップが槍をかえして石突でバッファローの額を突く。

 高温の後急激に冷やされた岩はとても脆くなる。石突は額を貫きバッファローは魔石を残して消えてゆく。


 ここ何ヶ月か行動を共にしてきた私達のコンビネーションは完璧だ。言葉は交わさなくても息はピッタリ合っている。

 その後、何度か魔物と遭遇した後10階層への階段を見つけた。10階層の入り口の転移石に登録。ダンジョン入り口に転移して今日は終わりである。


 10階層は乾燥レンガで作られた廃墟が建ち並ぶ荒野である。ここの何処かにボスのコカトリスのいる部屋があり、そこに11階層に降りる階段があるはずだ。

 犬の時の私はなんとなく方向がわかる。マッピングができなくても、同じところを堂々巡りするような事は殆ど無い。

 目的地が勘で分かるようなことは無いけれど、マッピングができない私達にとっては貴重な能力だった。


 時々現れるサーベルウルフやポイズンラビットの群れを倒しながら10階層を探索する。

 10階層はとても広かったが、たまに大きなサンドスコーピオンに遭遇するものの、空からの攻撃が無いため、8階層、9階層より楽であった。

 探索4日目、ついに廃墟の中、下に降る大きな階段を見つけた。降りた先には青銅の大きな扉がある。扉には人の顔というより悪魔の顔と言った方が良い彫刻が彫られている。

 この扉には見覚えがある。ここに10階層の階層主コカトリスがいる。


 コカトリスは雄鶏の頭と尻尾に蛇の頭を待ち、口から石化のブレスを吐く、中級になりたて程度の冒険者にとっては結構厄介な魔物である。

 まぁ、前の私なら石化を防ぐ防御魔法を発動させながら大きな雷で焼き鳥にしたりとか、力技で簡単に倒せるのだが。

 でも今の私達には割と相性の良い魔物だ。強いニワトリは所詮ニワトリ。頭が悪いのだ。

 ジップが正面でコカトリスを牽制する。ニワトリ頭が前を向けば尻尾の蛇の頭は後ろを向く。体をひねって横や前を向いて周りを警戒してはいるが、ニワトリ頭の方で罵詈雑言を浴びせ挑発すると蛇頭もそっちに気を取られて前を向こうとして死角だらけになるのだ。

 言葉の通じない魔物に悪口を言ったり、馬鹿にしたりする冒険者はいないせいか、意外と知られていない。

 ジップに気を取られているコカトリスの足元に体が小さく背の低い私が滑り込み、下からアイスランスで串刺し。一瞬で片がついた。


 そらそろ外では夕方だ。魔石とドロップ品の魔鋼の包丁を手に入れて今日は帰る。料理人に珍重される魔鋼の包丁は結構良い値段で売れるので、それを売って今日は美味いものを食べて英気を養う。

 数日間私達が通過する時に限ってはコカトリスは出現しないので、明日から11階層層以降をサクサク攻略したい。

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