第9話 冬とダンジョン
冬が来た。時には雪も降る。町の外の仕事は少なくなる。狩の獲物も減るし、商人の移動も減り町の中の仕事も減る。
アルジャンには教会所有の小さなダンジョンがある。最深部でも6層。ここで出る1番強い魔物は最深部のブラッディベアとハイオーク、ミノタウロスあたり。
教会が管理しており、階層ボスもダンジョンマスターも居ない小さなダンジョンである。
ダンジョン内で倒した魔物は、倒されると魔石を残して消えてしまうため、倒しても魔石しか得られない。稀にドロップ品なども出るが、ほとんど期待できない。
しかもこのダンジョンで得た魔石には、屑魔石と言われる最低品質の魔石以外は教会に2割、税金に2割、換金手数料が1割かかる。
なので儲けを考えると町の外で薬草採取をする方が効率が良いため、冒険者に人気があるとはいえない。
だが、町の中に入り口がある事。ダンジョン内は温度変化があまりなく夏は涼しく、冬は暖かい事。外と違って強い魔物が迷い込んだりしない事などから、戦いの練習用に入る者などもいて、通年一定数の利用者はいるのである。
そして仕事の減る冬の間だけはそれなりに人気がでる。稼ぎが無いよりはマシなのだ。
もちろん、力のある冒険者は冬は活動場所を南に移したりする。
1階層は屑魔石しか残さないスライムとマンドラゴラくらいしかいないため、子供と教会に許可を得た老人などにしか利用できない。仕事の減る冬の間に凍死者や餓死者が出るのを減らすための、教会による福祉活動の一環なのだ。
10歳以上の子供なら、数人でパーティを組めば倒せる魔物である。
2階層より深い階層はそれなりに難易度は上がるが、新人はともかく、なりたての中級冒険者位の能力があれば最下層まで到達するのは難しくはなかった。
「クロエ、今日からダンジョンで魔物討伐だよ。あそこは暖かいから薪代の節約にもなるからね」
ダンジョンはジップの部屋から子供の足で歩いて30分位。途中の屋台でパンに焼いた肉を挟んだものを買って背負い袋に入れる。
ダンジョンの入り口で首から下げるプレートを受け取る。ダンジョン内で魔物を倒すとこのプレートに記録されるため、魔石を誤魔化すことはできないらしい。念の為ジップの従魔として登録してある私にもベルトでプレートが装着される。
入ってすぐの1階層はジップより少し年上の子供達がスライムを狩っている。
「ほんとは子供が入って良いのは1階層だけなんだ。ボクは色々あってどこに行っても構わないんだけど、ゼイキンとかキョウカイゼイとかを大人と同じ様に取られちゃうんだ」
わずか7年の人生経験の中でいろいろあった子供ってどうなんだろう。
まず私達は最短距離を通って3階層に行く。ダンジョン内は時々構造が変わるが、ギルドに行けばその時点ででの最新の地図が手に入る。
広い草原とまばらに存在する林で構成される3階層で出るのはお馴染みのホーンラビットとウィンドフォックス。ウインドフォックスはウインドカッターを飛ばすので多少厄介だが、連続攻撃などはできないので気をつけてさえいればそれ程怖い魔物ではない。
外の世界の魔物は、人間を見つけても相手の人数や武器によっては襲って来ない。だが、
ダンジョンの魔物は人間を探して徘徊しているようにも思われる。相手の人数とかに関係なく出会うと襲ってくるのだ。
また、外の世界の魔物は仲間を倒されると怯むような行動をとったり、逃げ出したりするが、ダンジョン内の魔物は全滅するまで戦い続ける。
私達を見つけて襲ってくる3匹のホーンラビットを一蹴。小さな魔石3個を手に入れる。次に襲ってきた2匹のウインドフォックスの1匹は私がファイアボールで倒す。従魔である以上、1匹も倒さないのは変だろうと思ったからだ。
3階層は人も多く、ウインドフォックスを更に2匹倒して午前中が終わった。辺りを警戒しながら昼ごはん。午後はホーンラビット5匹を倒して今日の仕事は終わり。今日の稼ぎは小さな魔石12個。ジップによるとまあまあの稼ぎだそうだ。
私達は2日ダンジョンに潜って1日休みのペースで仕事をしている。途中満月が1回あって、ジップがまた土下座した。その日は臨時休業。街に出て遊んで、風呂に入ってジップに読み書きを教える。読み書きができるようになれば私の状態も説明できるようになる。
一月経つと冬も本格的になり、3階層も混んでくる。前ほど稼げなくなってきたのと、私達も慣れて連携して戦えるようになってきたので、下の階層に移ることにした。
4階層はオークとゴースト、スケルトン。オークやスケルトンはともかくゴーストは私もジップも相性が良いとはいえない。もう少し強い魔法が使えないと効率が悪いのだ。
そのため、5階層を主戦場にする事にした。ここはオークとポイズンスライム、ウインドウルフ。基本複数で襲ってくるが、対応困難と言うほどではない。
3匹で襲ってくるオークの右側のやつに私がファイアボール。中央のオークに切り掛かるように向かって行ったジップが直前に左にステップ。ジャンプして回り込むように左側のオークの首筋を切りながら、体のバネを使って空中で反転落下。光の粒子に変化しつつある左のオークの肩を蹴って再び飛び上がる。そして落下しながら中央のオークの首筋を切り飛ばす。
着地して右のオークの足の筋を切りながら、こちらから見てオークの右側へ移動。右側のオークは動こうとして転倒。その顔に私のファイアボールが命中する。顔と肺を焼かれたオークが光の粒子に変わり、ホーンラビットより少し大きめの魔石を回収する。
何度も一緒に戦ううちに、冬の終わりになる頃には私達の連携は相手を見なくても相手の動きがわかるほど確かなものになった。
あと、私がファイアボールの上級魔法であるファイアアロー、ウインドカッターの上級魔法トルネードカッター、水を出すウォータの無詠唱魔法を使えるようになった。訓練により使える魔法が増えることがわかったのは大きな収穫であった。
6階層の魔物もたいした脅威でなくなった私達は税を取られても、冬の間にかなりのお金を貯めることができた。公衆浴場と食事にしかお金を使わないからというのもある。
このお金を少し使って、ジップは新しい服、冒険者用のリュックと軽装防具を、私は畳むと非常にコンパクトになる、伸縮性の良い服と下着を買ってジップのリュックに入れて置くことにした。春になったら行きたいダンジョンがあるのだ。そこで閉じ込められて満月にでもなったら目も当てられなくなる。着ると体のラインがもろに見えてしまう程密着するのは難点であるが、裸よりは全然良い。
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