第7話 オーク

 次の日、昨日屋台で買ったパンを食べて、昼ごはん用のパンとベーコンを持って、革の水入れに水を入れ出発する。

 装備は食料と水、何かの時野営ができるように厚いロウ引きの布とタオルを背負い袋に入れて背中に剣。左右の腰に昨日のシャベルナイフと、刃が『く』の字にカーブした薄刃の山刀みたいな物を装着して終了。

 食料が妙に多い気がする。冒険者稼業は何が起こるかわからないとは言え、岩塩の固まりなんて要らないだろう。

 厚手の長袖の服とマント、腰には細めのロープが巻かれている。頭には前にも巻いていたターバンみたいな物。何かの時は布として使えるから便利そうだ。


 子供の足でも町を出て2時間くらい歩くと森に着く。普通はこんな町の近くにはオークは出ない。体の大きな冒険者でも見間違えたのかとも思うが、寒くなって食べ物が減ってヒトの領域に出てきた可能性もある。だからこそ調査依頼が出たのだろうが。

 森の中に入って下草や蔓を山刀で払いながら進む。1時間以上進んだ時、小さな泉があった。

この辺りで目撃されたらしい。

 ここを目指して進んだのだけど、途中からジップの歩みはとんでもない方向に向かってゆく。その度に私が警告してちゃんとした道筋に戻す。泉に着いた時は、今日中に着くなんて思わなかったよ。クロエはすごいねー。やっぱり君は幸運を運んでくる犬だなんて言って感心している。

  

 やはりオークがいたらしい。私の鼻からは逃げられない。何ヶ所かでオークの体毛を採取して依頼終了。一休みして帰ることになった。

帰りもやっぱり変な方向に向かって行くので私が補正する。

 少し遅くなっちゃったけど、森から出たらお昼にしょうとジップが言って東に向かう。

 もう少しで森を出るという時、左手から奴が来る。ジップに警告するが逃げられない。ジップが荷物を下ろして剣を構える。

 オークは美味しいけど大きいから持って帰れないんだよねーとか言ってる。

 いくらなんでも子供が相手にする魔物じゃない。オークは雑食性で何でも食べる。奴にとっては私もジップも獲物だ。

 

 木の向こうから姿を表したオークは人型の魔物で身長(体長?) 2.5m。猪のような顔をしている。首も太くてホーンラビットみたいに首の血管を剣先でちょっと切ってというわけにもいかない。

 体重も300キロ以上ありそうだ。剣を抜きジップがオークに向かって行く。大きく振り上げたオークの右手に私のファイアボール。牽制にしかならないがないよりマシだ。拳を開いて

体にてを叩きつけて火を消すオークの指をウインドカッターで切り飛ばす。吠えるオークに向かってジップがジャンプ。その瞬間ジップが白く光り剣の色が青い光となり、ジップとオークが交差する。

 オークの首が落ち、体は心臓が動いている数秒間、首から血を吹き上げながら立っていたが、血が止まるとそのまま後ろに倒れる。


「すごいねー君は魔法が使えるんだ。助かったよ。ボクの剣術もなかなかでしょ?」

「ワギューシンカゲリュー奥義 『虎月』 何でも斬れるんだよ」


 暫く考えていたが、持ち帰るのは諦めて、魔石と討伐証明になる牙と耳を切りとって持ち帰る事にしたようだ。残りは木と蔓で柵のようなものを作って獣に食べられないようにして町に帰ることにした。人を頼めれば取りに来れるらしい。


 帰り道、私は考えていた。ジップに感じていた違和感の正体が分かった。ただの力の強い子供じゃない。

 彼の体の中には一般に強い魔力を持っていると言われる魔法使い数人分にも匹敵する魔力が駆け巡っている。そのため彼の身体能力は訓練した大人並みであり、7歳なのに1人で魔物の討伐ができる程その戦闘力は高くなっている。

 だが、彼の魔力は出口を持たないため、体の中を駆け巡るだけで外に向かわない。その魔力を外に向ける術があるなら、彼は稀代の大魔術師とか、英雄とか呼ばれる存在になれただろう。


 彼のような子は稀に生まれるが、たいがい生まれて直ぐ自分の魔力に耐えられずに死んでしまう。何かの拍子に育っても幼児期を超えることは難しい。これは大魔女である私でも解決する事はできない。

 彼にあの剣を与えて剣術を教えた者はある意味天才だ。

 魔術伝導性の良いあの剣を使って、戦えば魔力が漏れ出すのだ。

 体内の魔力を一瞬で何倍にも高めるあの奥義を使えば高まった魔力の圧力が一気に剣に漏れ出して、彼の体の中の魔力の圧が抜けるガス抜き効果があるのだ。

 しかも、それによって剣の威力も上がる。


 だがそれにも限界がある。根本的な解決法にはならないのだ。子供から大人になる15歳前後にヒトの魔力は何倍にも増える。彼がヒトである以上それに耐える事は出来ない。人の体はそれ程の魔力に耐えられないのだ。

 魔力の外への解放方法が見つからない限りジップは18歳まで生きられない。


 でも、犬になった私だって10年後に生きているかどうかわからない。犬の寿命なんて10年くらいだ。もし彼が死ぬ時私が生きているなら寂しくないようにそばにいよう……家族になったのだから……


 私の道案内で、迷わず町に着いた。ギルドに報告。ギルド職員の人の手が空いてるという事で馬車でもう一度森に戻る。今度も私の道案内で無事到着。オークの回収は無事完了した。


 夕方ご飯の前に町の公衆浴場に行く。もちろん私は入れないけど、浴場の人に頼んで桶にお湯を入れてもらってジップに洗ってもらう。

 気持ち良い。何回かヒトに戻った時も浴槽が無いため、湯で濡らしたゴワゴワの布で身体を拭くのが精一杯だった。

 体をプルプルさせてその後拭いてもらう。後はジップが出てくるまで周りに愛想をふりまく。また来たいからね。

 

 数日後、解体の終わったオーク肉の一部を食堂に持って行き、親父さんに焼いてもらった。

野菜とコンソメのスープパスタと、オーク肉はグリルで焼いて、塩と胡椒と芥子だけの味付けだったけど、抜群に美味しかった。


 今日は魔力草の採取。夏の終わりにジップが見つけた群生があるらしい。その時に殆ど採ってしまったけど、多分また増えているはず。今年最後の採取になるだろうとの事で、オーク肉で作ったハムと野菜を挟んだパンと青い竹筒に入れたスープを持って出かける。もちろんいつもの野営セットとか干し肉は持ってゆく。軽装で焚き火だけで野営したりすると凍死しかねない。

 群生地は荒らされておらず、1/5位を残して採取する。冬の前に全部採取してしまうと、力を無くして春に芽がでないからだという。スープを温めてお昼を食べて、襲ってきたホーンラビットを3匹狩って帰ってきた。今日も公衆浴場だ。冷えた体にお湯がありがたい。ジップは子供なので銅貨5枚。おまけの私は銅貨1枚。銅貨6枚でとっても幸せになれる。

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