第6話 アルジャン

 やっとボクの住んでる街アルジャンに帰って来れた。あのまま曇りや雨だったら大変だった。

まずは冒険者ギルドに寄って依頼達成の報告と村長にサインしてもらった依頼達成証を提出。報奨金をもらう。

 毒消し草と魔力草、ホーンラビットを1匹買い取りカウンターに持っていって銀貨20枚と交換してもらう。

 今日からクロエと住む事を伝えて、来月分の家賃銀貨8枚を払って、残りはギルドの口座に預けて冒険者カードに記録してもらう。まだ懐には銀貨が数枚あるから貯金しても大丈夫。

 これは旅芸人や冒険者は長雨でお金が入って来なかったり、予想外のお金が出て行っちゃったりするとすぐにスラムの裏路地生活になっちゃうから余ったお金は安全なところに貯めておけって言うダンチョーの教え。

 ダンチョーはお金は貯金しないで、すぐにお酒に変えて呑んじゃってたけど。

 でも、お金が無くなって裏路地生活になる前に死んじゃったから、ボクにはお金を貯めておけって言ってたけど、自分は信じてなかったのかな?

 

 ボクの住んでいるのはギルドの持っているアパートメント。ベッド2つ半くらいの広さの部屋だけど子供のボクには充分。

 家賃2ヶ月分をホショーキンとして預けられるなら子供にも貸してくれる冒険者向けのアパートメントだ。

 宿屋みたいに食事は出ないし、お湯や洗濯を頼んだりできないけど、小さな裏庭に共同のトイレと井戸があるし、部屋には暖をとるための小さな火鉢があって薬缶があれば少しならお湯もわかせる。

 小さな鳥などの従魔を連れている人もいるので、事前に告げておけばクロエと住んでも全然問題ない。

 

 残りのホーンラビットを近くの食堂の親父さんと交渉してボクとクロエの夕飯10日分と交換する。僕は料理なんて焼いて塩をかけるか、煮て塩をかけるかしかできないから悪い取引じゃない。親父さんもホーンラビットの肉を安く仕入れられたし、毛皮や角、魔石などが売れるから悪い取引じゃない。

 部屋に戻って、お湯を沸かす。桶に入れ布を濡らしてボクとクロエの身体を拭く。清潔にしてないと病気になっちゃうからね。これもダンチョーの教え。病気が良くなったら、桶の中で洗ってあげよう。

 着替えたボクは汚れ物を麻袋に入れて洗濯屋さんに行って預けて食堂にご飯を食べに行く。

 

 部屋でジップに身体を拭いてもらって、また懐に入り外に出る。妙に自立している7歳児だ。 異世界転生か何かで中身は40歳とかじゃあるまいな。

 洗濯物の麻袋を洗濯屋に預けて先程夕飯とホーンラビットの交換を交渉していた食堂に向かう。

 夕飯は昼間ジップが話していたホーンラビットのシチューだった。僕が持ってきたやつはもう少し寝かさないと美味しくならないからこれは別の肉だよとか言っている。いつも獲物と食事の交換をしているようだ。

 朝のミルクや昼のスープも悪くなかったけど、これは美味い。犬には人間の食事は塩分が強すぎるからとか、変な知識を持ってなくて助かった。

 何人かの顔見知りらしい冒険者が声をかけてゆく。

 ほとんどの冒険者は子供の境遇を知っているし、自分も裏路地出身だったりするので子供に優しい。

 でも口振りからすると彼は大人達に好かれているのだろう。

 食堂の主人も犬の私を連れ込む事に何も言わないし。


 食事を終えて部屋に帰る。途中、オシッコをしてねと言われて草むらで下ろされる。

 一応レディなので、人前で放尿するのはすごーく抵抗があるのだが、事情を説明する訳にもいかぬ。

 ジップも見たい訳ではなさそうで、ぼんやり周りを見渡している。

 仕方ない。犬のふりをしてオシッコをしたのであった。 

 部屋に戻って、寝る準備。火を焚いたまま寝るのは危険なのでしっかり始末をして私はジップに抱かれて寝る。

 

 熟睡したのは何ヶ月ぶりか。朝起きると顔を洗ってくるねと言ってジップは外に出る。

 身支度を整えて朝ごはんを食べに行こうと誘われ、今度は自分の脚で歩いて彼の後をトコトコとついてゆく。

 冒険者向けなのか、家で調理する習慣がないのか、沢山の屋台が出ている。銅貨5枚くらいから買えるようだ。

 スコーンのような物とミルクを買って2人で分けて食べる。

 そのあと街の中心の噴水を見て公園で昼寝。今日は休みだからのんびりするのだそうだ。

 公園でジップが落ちていた木の枝を投げると、つい追いかけてしまう。体がムズムズして我慢できないのだ。

 そしてその時がやってきた。昨日から普通に食べていたせいか、遂に便意がやってきた。

 我慢できない。遂に子供とは言え男の前で排便してしまった。もう生きてゆけない。

 ジップはエチケットだよと言って、腰につけていた小さなナイフともシャベルとも言えない物で穴を掘って埋めて、噴水で濡らして絞ったボロ布でお尻を拭いてくれた。

 嫁に行けない身になってしまった。


 暫く落ち込んでいたが、どうせ犬だし、大体お尻の穴だって丸出しだし、一度死線をくぐった私には怖いものなんてないと開き直り、まだ枝を追いかける。

 実に楽しい。おまけに一休みした時、あごから胸をコチョコチョされたら、ついひっくり返って胸も乙女の秘所もゴカイチョーしてしまった。

 お昼も屋台で肉の串焼きを買って食べる。

ザ・肉である。堪らん。


 その後ジップはギルドに行って明日からの仕事を探す。

 薬草採取は冬になるからもう直ぐできなくなるし、それしか出来ない子供達の仕事を奪うので、たまたま群生でも見つけた時でないと手を出さないのがルールだそうだ。

 常時依頼だから何かのついでに採取でも問題ないらしい。

 私は情報を得るためと、獲物を換金する為、ヒトと敵対する者ではない事を周りに知らせるためギルドに所属していたが、初めて所属した時から上級扱いであったためその辺の事情は全く知らなかった。

 街の西の森でオークを見たという情報があって、それの調査依頼という依頼があったのでそれを受けるらしい。討伐しなくてもいる痕跡を見つければ銀貨3枚になるらしい。

 オークは縄張りを作って縄張り内の木に体を擦り付けたがるし、いるなら痕跡はわかりやすいよね。と言ってジップはこれを受ける。私も鼻が効くから協力しよう。


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