第3話 クロエ3
また小犬に戻ってしまった。一昨日寝る前に何か特別な事をしなかったか必死で考える。何故1日とはいえ戻れたのだろう。
ショックで何もする気になれない。喉の渇きと空腹で我に帰るともう夕方であった。小川に水を飲みに行き、昨日の残りの肉を食べた。
物置小屋に住み、野鼠などの小動物を狩りながら生活する。小さな怪我はヒールで治すことができるのはありがたかった。
季節が変わり秋になった。あれから3回元に戻り、満月の日の1日だけ人間に戻れる事がわかった。やはり口はきけない。魔法の詠唱もできず、使えるのは前から無詠唱で使えた、ファイアボール、ウィンドカッター、ヒールだけ。家には相変わらず入れない。この辺りは冬に雪に埋もれるような事は無いが、少なくとも冬になると、獲物は減るだろう。この小屋で春まで生きる方法は無い。生きるためには南に移動しなければならない。
干し肉は塩がないので作れない。岩塩なんて都合よく見つからない。燻製もどきは作れそうだが、小犬がそんな物を持ってウロウロしてたら、襲ってくれと言っているようなものだろう。
私は今首輪を作っている。南に向かえば人と接触することもある。首輪をしていれば誰かの飼い犬に見えるかもしれない。前回人の姿に戻った時に狩ったグリーンスライム。これは魔石を取り除いて陰干しすると黒い革のようなものになる。
普通の革で首輪を作るとヒトに戻った時に首が締まって死ぬ。かといって犬の姿では首輪は外せない。犬にだって指はあるけどそんなに器用に動かない。グリーンスライムの革もどきは柔らかく丈夫で、とても良く伸びるのだ。
ボディスーツのような物もできないかと考えたが、伸びると言っても首輪と違って子犬サイズからヒトのサイズまで伸びない。リュックのようなものに入れて犬の姿で背負うのも、他人に背負わせてもらわないと背負えない。
それにグリーンスライムは普段、そんなに見つからない。
で首輪、物置にあった真鍮の小さな板を精密に制御したウインドカッターで丸く加工。割れた器の断面で磨き、古釘で小さな穴を開け、片面にクロエと名前を刻む。そして裏側に隠蔽の魔法陣を刻む。
魔法陣も小さく、直接魔法を流し込むわけでは無いから、強い力は発揮しないが、魔力を持つ者が身につければわずかではあるが効果がある。お守りや服の裏地に魔本陣を描いて防御力を上げる方法と同じである。
無いよりはマシなはずだ。プランは簡単。何とか町に出て親切な人を見つけてペットとして飼ってもらう。変な意味じゃ無いぞ。飼い主は女性希望。
そして、冬のにおいがしてきた満月の次の日に私は旅立った。
旅立ちから12日目。
もう7日も雨が続いている。何かにあたったのか、川の水が雨で濁っていたため、溜まった雨水の上澄みを飲んでいたのが悪かったのか、3日前からお腹を壊して酷い熱が出ている。
今は大きな木の根元に空いた穴の中で雨宿りしているが、体に力が全く入らない。ヒールは怪我は治してくれるが、病気には効かない。
このままではいずれ動けなくなる。それもそれほど遠い未来じゃない。
空腹のあまり、今日はミミズとバッタを食べた。ミミズは干すと寝小便の薬になるらしいし、バッタを食べる地方もあるらしいが、お腹の調子はさらに悪くなった。
足元がふらつくが、もう限界だ。ここにいではいけない。雨の中私は歩き始めた。山の斜面に沿って歩いている時、鉄砲水のようなものに押し流され谷底の川に落ちた。
悪い人生じゃなかった…なんて微塵も思えない。最悪だ。あの魔法は呪法とか、呪詛じゃなかったのかなんて思いながら意識を手放した。
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