第39話 会議直前
決意新たに勇者カケル再々スタートと簡単にはならない。
現在の問題点は、目撃者の処遇と方針決定会議の2点。
方針決定会議とは、城に引き返すか否かを決める会らしい。
城へは既に早馬が飛ばされたが、それが戻り次第集まる手筈になっている。
「やはりサーシャはしょ・・・追放に致します!」
「まぁまぁ落ち着いて。追放したら問題になるでしょ」
先程まで強烈な姫オーラで俺を叱咤激励していたエステルは、なぜか怒っている。
どうも個人的に彼女の事がお嫌いらしい。
それを宥めているのが俺。
「どうしてサーシャの味方ばかりするのですか!」
「そんなこと無いけどなぁ。ね、ユズハ」
「・・・私は何も」
平行線を打破しようとメイドさんに話を振るが、空振り。
ちなみにリンちゃんは、横でご飯タイム。
「美味しい?」
「おいし、です」
多分噛まないように言葉を区切っているんだろうな。
アンジェとはまた別の可愛さがある。
「カケル様!」
「なんでしょうエステル」
「話をちゃんと聞いてください!」
「聞いてるよ、うん」
そもそもエステルがここまで怒っている理由が分からない。
ユズハによれば怪しい動きもしていないようだし、放置しても良い気がする。
「アンジェの団員なんだし、大丈夫なんじゃ」
確証はないが、義兄としては義妹が悲しむ顔は見たくない。
「そこが問題なのです!アンジェはカケル様のことを探っているに違いありません」
「あはは、ないない」
「わたくしは真面目に言っているのです!」
大天使アンジェに限ってあり得ない話だ。
確かに家族団欒の時に若干違和感はあったし、サーシャもなぜか俺のことをよく見ていた気がするけれど。
それに森に入った俺をサーシャだけ気付いたっぽいけど。
「あれ、まさかあり得るの?」
「きっとあの子はカケル様を奪うつもりですわ」
「えぇ、それだけのために副団長を使うの?」
「絶対そうですわ。どうせ女の子をあてがえば弱みを握れると思ったのでしょう。まんまと引っ掛かりましたわね」
そんな馬鹿な話があるか。
愛する義妹が、俺を欲しいがためにサーシャをスパイにするなんて。
話のネタが欲しいとかに決まっている。
(アンジェは天使、俺にとっての癒し。純粋な子なんだ・・・!)
例えエステルの妹で、王妃様の娘であっても。
「それに、お母様が恋愛は戦争だと仰っていましたもの」
「・・・もうやめよう」
これ以上聞きたくない。
しかし歪みの元凶はやはり彼女たちの母親だった。
「カケル様は、サーシャのような子が好みですの?」
「え!?」
前の世界での仲間と瓜二つのサーシャ。
好みで言えばストライクゾーンど真ん中。
あくまで外見の話だが。
「か、カケル様?」
「いや!まだ彼女の事なにも知らないし!これからっていうか・・・あっ」
「や、やはり浮気する気なのですね・・・わたくしやユズハに飽き足らず!」
「いだっ!?待って!誤解です!」
ノータイムでグーパンが飛んで来た。
椅子から転げ落ちた俺は、勢いそのまま土下座を敢行。
「ごめんなさい!許してください!」
「わたくしが!どんな思いで!この!許しませんわ!」
「痛い!靴!靴は脱いで!」
「カケル様は!痛いのが!お好きなのでしょう!」
げしげしと硬い靴で頭と背中にダメージを与えてくるエステル。
暴力ヒロインが許される時代ではないのに。
しかしここは現代日本ではなく異世界。
姫様の行動は国が許容するのだ。
「あの、姫様そのくらいで・・・」
「ユズハも甘やかしすぎですわ!あなたもやりなさい!」
「え、それはそのう」
あろうことかメイドに命令する姫様。
集団リンチでもする気なのだろうか。
「待って!浮気なんてしてない!」
「お黙りなさい!ユズハ!」
「は、はい・・・ごめんなさい」
二度の命令に、おずおずと従うユズハ。
彼女は靴を脱いでスカートを少したくし上げた。
「し、失礼致します」
重いエステルの攻撃の中に、ふみふみと優しい感触。
めちゃくちゃ加減してくれている。
「ふ、ふふ・・・惨めですわ」
どうやらスイッチが入った姫様。
靴を脱いで頭を踏み始めた。
情緒がおかしいエステルをみると、不覚にも懐かしい気持ちになる。
「エステル様、そろそろ話を進めませんか・・・?」
2人に付き合ってあげたい気持ちはあるが、時間も無い。
それは姫様も理解しているはず。
「はぁ、ワガママな勇者ですこと」
「すいません」
人は慣れようとせずとも勝手に慣れる。
姫様に虐められ続けた俺は、真理の扉を開いたのかもしれない。
「・・・ユズハまでですからね」
「ん?うん」
意図が分からず生返事をしてしまった。
俺を足蹴にするのはユズハまでということだろうか。
それなら助かる。
♦♦♦♦
「サーシャとアンバーの件は、とりあえず放置で良いと思う」
一度場を整えた後に再度議論をスタート。
エステルはすぐ手が出るので正面に座ってもらった。
結構絶望的な顔をしていたが、これも俺たちの未来のためだ。
「直接見ていないアンバーはともかく、サーシャは」
「もし俺のことを監視しているなら手を出す方が逆に怪しい」
監視役が急に処罰されてしまったら、何かあったと考えるのが自然だろう。
俺なら監視を強化する。
「それに言い方は悪いけど、サーシャは平民の出なんだろう?だから波風を立てるつもりはきっと無い」
彼女の視点から見れば、相手は姫と勇者。
下手な動きをすればどうなるかは自分が良く分かっているはずだ。
エステルの言葉を鵜呑みにすれば、姫同士の勇者争奪戦にただ巻き込まれただけ。
「まぁそもそも俺を助けた彼女が罰を受けるのは間違ってる」
「・・・はい」
姫様も頭では理解しているのだろう。
何かのせいで心が追い付かなかっただけ。
大概は俺絡みなのだけど。
「エステルがどうしても心配なら、アンジェに頼んで勇者邸で監視する手もある」
「そちらの方が心配です!カケル様が何をするか・・・」
「じゃあエステルも一緒に住めば解決。なんてね」
冗談九割で姫様に笑顔を向ける。
今までそうしなかったのは何か理由があるからだろうし。
と、おもっていたのだが。
「確かにそれなら・・・ぶつぶつ」
「あの」
「カケル様と、同棲・・・すてき。同じ部屋で、一緒のベッドに入って・・・」
脳内で同棲生活が始まってしまった。
さっき俺の事を踏みつけていた子と同一人物とは思えない。
今更か。
「勇者様・・・」
「はい、すいません」
口は災いの元。
ユズハは軌道修正しろと言わんばかりだ。
「あ、アンバーも放置でいいよね?」
「はい」
「方針決定に関してだけど、進む方向で決めちゃうよ?」
「どうぞ」
あ、この人何も聞いてないや。
とにかく話は纏まったからヨシ。
「おはなし、おわり?」
「終わったよ。飽きちゃったかな?」
「へいき、でしゅ・・・です」
「そっかぁ。偉いね」
頭を撫でると恥ずかしそうに俯くリンちゃん。
ここまで一度も声を出さずに、食べたり飲んだりしていた。
俺が踏まれようがエステルが乱心しようが我関せずを貫いていたこの子は、きっと大物に育つだろう。
「勇者様、迎えが来たようです」
「よし行くか!エステルさーん」
「・・・うふふ」
「ユズハ、姫様を連れてきて」
「か、かしこまりました」
面倒事ではなく、重要な役をユズハに任せ、先に出ることにした。
適材適所というやつだ。
向かうは方針決定会議。
俺の心は既に決まっている。
強くなるため、守るために進むだけ。
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