第一章 勇者召喚編
第2話 俺、またなんかやっちゃいました?
「うっ、まぶし!・・・くない」
目を開けるとそこは・・・
とにかく人に囲まれていた。
ドレスを着ている女性、紳士的な男性。
そしておそらく兵士だろうか、槍を持っている人もいる。
「うおー!勇者だ!勇者様だ!」
「姫様が勇者召喚に成功したぞ!」
「これで世界が救われる!」
地鳴りのような歓声が周りから、そして上からも聞こえてくる。
上を見上げると吹き抜けになっているが、城の中のようだ。上階からこちらを見下ろす集団もいる。
四方からの歓声は、俺に向けられている。
素晴らしい。
前回は成り上がり勇者だったが、今回は最初から勇者だ。
開幕勇者ってこんなに歓迎されるのか。
なんとも気分がいい。
続いて下を見ると、どうやら魔法陣が描いてある。
俺は前回無詠唱派閥だったから、あぁなんか六芒星っぽいな程度しか分からない。
「勇者様、よくぞ召喚に応じてくださいました」
鈴の音のような綺麗な声に振り向く。
そこには、ふわふわしていそうな金髪に頭に小さなティアラを載せた、白いドレス姿の女の子が立っていた。
数々の宝飾が成されたドレスを着ていながら、碧い瞳はそれに負けず輝いている。
金髪碧眼の美少女。最高じゃないか。
「わたくしは、ガレリア国第一王女エステリーゼ・リ・ガレリアです」
コツコツとヒールの音を響かせながら近づいてきたその女の子は、ドレスの裾を摘み上げて自己紹介をした。
心なしか頬が上気しており、興奮しているご様子だ。
「勇者様。お名前を聞かせて頂いてもよろしいでしょうか?」
いつの間にか辺りは静かになっている。
どうやら俺の発言を待っているようだ。
決め台詞なら任せてくれ、なんせ前回経験済みだからな。
「・・・俺の名前はカケル。勇者カケルだ。この世界を救うために姫様の呼びかけに応じて参上した。みんな!俺が来たからにはもう安心だ!」
上下左右をゆっくり見渡しながらキメてやった。
まぁ魔王を倒すつもりなんてこれっぽっちも無いけど。
さすがの女神様も次回は転移させてくれそうも無いからな。
静寂が辺りを包み込んでいる。
そして、
「うおおお!勇者カケル!」
「カケル様あああ!」
「勇者カケル万歳!ガレリアに栄光あれ!」
一気に盛り上がった。
本日二度目の歓迎である。
歓迎は散々されてきたが、初っ端からこれはやはり気分が高まる。
魔王以外全滅くらいはしても良いかもしれない。魔王は監禁でもしておこう。
俺は周りの声援に手を振って応えた。
「エステル、よくやった」
姫様の奥にいた、デカめの王冠を被った赤マントの男性が姫様に声を掛けた。
この人が王様か。
「これでこの世界も救われる。それに凛々しい顔つきじゃないか。良かったな
エステル。お前の将来も安泰だ」
「も、もうお父様ったら・・・まだ早いですわ」
ほーん、これはあれだ。
最初から好感度マックスってやつだ。
お前の将来だと?早速許嫁ってやつですか。
「勇者カケルよ」
「はい、国王陛下」
俺は片膝を着き、王様に恭しく挨拶をする。
これも前回の経験だ。
「そう畏まるな。よくぞ参った。国を挙げて歓迎しようぞ」
「有難き幸せ。しかし、まだこちらに来て何も成しておりません。歓迎はその際にでも」
「おお!勇者でありながらその力に驕ることも無いとは。気に入ったぞ!」
俺またなんかやっちゃいました?
最高の出だしだ。
姫様は俺のことがどうやら好きで、王様に取り入ることも成功。
自分の才能が恐ろしい。
「エステル。勇者様が素敵な方で良かったですね」
「も、もうお母様まで」
お母さますっげえ美人。
姫様が大人になったらこんな風になるのかな。
優しそうな表情は聖母様のようで、胸がデカい。ドレスから出ている上乳がそのボリュームを物語っている。
俺は服を着た状態なら美乳くらいが好きなのだが、巨乳も好きだ。
ただこの人は女王様。俺は人妻には手を出さない。
寝取りなんて最悪だ。だってされた経験があるから。
王様も精神病になってしまう。
「宴の準備だ!『勇者の日』として未来永劫語り継ごうぞ!」
王様が周りに下知を飛ばすと、割れんばかりの歓声が上がる。
慕われているんだな。良い国に来た。
「さて、エステルよ。カケル殿を部屋までお連れするのだ」
「はい、お父様・・・勇者様、こちらへ」
姫様に従って、後を付いていく。
「姫様、あの」
「エステルとお呼びください。勇者様」
「分かりました、エステル様。俺のこともカケルとお呼びください」
「ふふっ、カケル様」
やはり好感度マックスだ。
今日寝室に呼んでもOKしてくれるレベルだきっと。
ただ俺は慎重に事を運ぶ男。
しかも相手はお姫様。貞操観念も高いはず。
「あの、カケル様」
「なんでしょうか」
さらりとエステルの横に立つ。
変形後の俺はイケメンなので、横顔だって武器になる。
横を見ると彼女の顔は赤く、こっちを向いたり下を向いたりしている。
ほらね、俺イケメン。
「2人の時は、敬語も継承も要りませんから。エステル、と」
なんとも容易い。前回でもここまで簡単なことは無かった。
まぁ成り上がり勇者は認められるまで時間が掛かるからな。
強すぎて逆に分かりづらかったし、演出はそれが原因で覚えたけど。
「・・・わかった、エステル。これでいいかい?」
「はい!カケル様!」
「エステルも敬語はいらないよ」
「それは・・・まだ早すぎますわ・・・」
手に頬を当てている姿は、なんとも可憐だ。
俺は決めた。この子をハーレム第一号にする。
誰にも渡さない。絶対にだ!
願わくば、これ以上あまり大きくなりませんように。
「わかったよ。気長に待ってる」
キザだなぁと自分でも思う。
前々世では話しかけられるのは好きでも、自分から話しかけることはあまりなかった。
今の俺をみたら悶絶でもするだろう。
ただしそれは前の話。例え最初は作っていたとしても定着すればそれも俺だ。
しかも今の俺はイケメン。自信に満ち満ちている。
(そういえば、身体が重いような・・・)
まぁ気のせいだろう。元最強勇者だし。
エステルに連れられ、着いた部屋(勇者のために用意したらしい)は、天蓋付きのベッドに高価そうな家具の数々、そして広い。
窓からは綺麗に整えられた中庭も見える。
そしてメイドも付けてくれるらしい。憧れるよな、お付きのメイド。
エステルは「準備がありますので」と言って自分の部屋に向かった。
「ふぅ・・・リヴィアさん」
部屋に一人残された俺は、女神様との約束を果たすべく声を掛ける。
視界が切り替わり、女神の部屋が映し出された。
「やっぱりなんか気持ちわる」
「・・・第一声がそれって傷付くんですけど」
「おっと、すいません」
何度やっても慣れない。
前回の世界であまり連絡を取らなかった理由に、この気持ち悪さが上げられる程だ。
「それで、どうですか新しい世界は」
「もう最高ですよ!歓迎が凄くて!」
「それは良かったです。でも気を付けてくださいね」
「え、何をですか?」
なんだろう。驕るなと言うことだろうか。
「それは・・・誰か来たようですよ」
「分かりました。それじゃあまた」
プツンと映像が切れ、視界が戻る。
女神様はこっちの世界も見れるけど、俺には片側ずつしか見れないから、普段はこうやって教えてもらっている。
独り言をブツブツ呟いていたら変人だしな。
「失礼します。勇者様」
「・・・可愛い」
「どうかされましたか?」
「いや、なんでもないよ」
入って来たのは、肩まで伸びた黒髪のメイドさん。
背はエステルと同じか、ちょっと低いくらい。
「ユズハと申します。勇者様のお世話を務めさせていただきます。よろしくお願い致します」
ユズハと名乗った少女は、両手をお腹の辺りで組んで深々と頭を下げた。
どこか日本を感じさせる黒髪な上に、名前まで日本っぽい。
良いじゃないか。
「よろしくな、ユズハさん。世話になる」
「こちらこそです。あの勇者様。私のことはどうかユズハとお呼びください」
「わかった。ユズハだな」
俺はどうもこのやり取りを好んでいる傾向がある。
あえて、『様』や『さん』呼びして、呼び捨ての許可をもらう。
こうすることで、関係が一歩進んだ感覚になるのだ。
童貞臭がするとか言わないで欲しい。
前々世でも決して童貞だったわけじゃない。
「それでは勇者様、お着替えを致しますね」
「頼む」
「失礼します」
俺は彼女にされるがまま、服を脱がされる。
しっかりとした筋肉が付きながらも、決してゴリマッチョではない。
誰に見られても恥ずかしくないこの肉体・・・
(なんか痩せた?)
筋肉はある。シックスパックだし。
それでも、前回とはなにかが変だ。
ただ、誤差と言えば誤差かも知れない。
「・・・・・・」
ユズハは黙々と作業を続けている。
仕事中は私情を持ち込まないタイプなのだろう。
さすがは城付きのメイドさんだ。
「いいな、これ」
「勇者様?」
おっと心の声が出てしまったようだ。
彼女はきょとんとこちらを見つめてくる。
上目遣いの彼女はなんだか猫のようで愛らしい。
俺は「なんでもないよ」と言って前を向いた。
お着替えイベント(俺の)が終了後、少しだけ待機。
ユズハの入れた紅茶を飲みながら一息ついていると、扉がノックされた。
どうやら宴の始まりらしい。
「勇者様、歓迎の準備が整いましたので、こちらへどうぞ」
「わかった」
そうして向かったのは、大広間。部屋から歩いて約15分。
全貌は分からないが、大きい城だろうなとそれとなく認識する。
「こちらです」
部屋の扉が開かれ、大勢の人に出迎えられる。
勇者召喚の時と違い、兵士らしい兵士は入口に立っていたくらいだ。
中にいるのは、王族や貴族かもしくは軍人のなかでも偉い立場の人だろう。
「おぉ!勇者様がいらっしゃったぞ!」
「やっぱり素敵・・・」
そんな赤やら黄やらの歓迎を受けながら入室すると、部屋の豪華さに驚く。
広さもさることながら、とにかくロイヤルを感じる作りだ。
前回の城はもう少しこじんまりとしていた。
あの国は魔王軍と度々戦争をしていたから、財政的なところもあったのだろうが。
「皆!静粛に!」
髭の先がクルリと回っている瘦せ型の男性が声を上げると、大広間はシーンとなった。
俺の予想だとなんちゃら大臣のポジションだろう。
「勇者様、こちらへ」
促されるまま階段を上がると、王族の皆様が椅子に座っている。
さっきは見なかった女の子が一人。エステルの妹だろうか。
真ん中に座っていた王様が立ち上がって、俺の横に立った。
「皆!ワシの横にいるのが勇者カケル殿だ」
おぉという声が上がる。
さっきはいなかった人か。
「カケル殿は歓迎はまだ早いと言っておられたが、ワシが勝手に宴を用意した」
今度は笑い声が上がる。
ユーモアのセンスまであるのか。
と、横からグラスを手渡される。
「今宵はめでたい日だ。勇者カケル殿の今後の活躍を祈って・・・」
チラリとエステルの方を見る。
「エステリーゼの将来の婿殿に!」
おぉ!とひと際大きなどよめき。
「乾杯!」
乾杯の掛け声とともに、宴が始まった。
エステルはもう酔ってしまったかのように、顔を真っ赤に染めている。
前回のリーナ姫はぐいぐい来るタイプだったから、この反応は新鮮だ。
まぁリーナ姫はその後別の王子様と幸せな家庭を築いたんだけどね!
あはは!はぁ・・・。
切り替えていこう。今更引きずっても返ってこないのだ。
その後エステルと共に下に降りた俺は、挨拶を受けていた。
伯爵に侯爵、男爵に司令官、なんちゃら大臣。
どうやら順番があるらしく、適当な知識の通りなら偉い人順のようだ。
そのほとんどが男性で、女性やご令嬢らしき娘たちは、遠巻きで見ている。
(あれは牽制だったのか)
国王がわざわざ婿宣言したのも、今エステルが横にいるのも恐らくそれだ。
活発そうな娘もお淑やかそうな娘も、こちらをじっと見つめるだけで近づいて来ようとしなかった。
俺の好みの娘もいるのだが。
「どうかされましたか?」
俺が女の子を見ているのに気付いたのかは分からないが、エステルが声を掛けてきた。
その碧い瞳はシャンデリアの光が反射して、とても綺麗だ。
しかし、顔が笑っていない。
「な、なんでもないよ」
これは、気を付けないといけないかもしれない。
女神様のさっきの発言はまさかこれか。
多少の嫉妬は可愛いものだが、強烈な独占欲から来るそれは、時として刃傷沙汰になりかねないのだ。
その後もエステルが俺の傍から離れることは無く、宴もたけなわとなった頃、誰かが提案をした。
ぜひ、勇者様の力を見たいと。
そして、それは良いと賛同する周り。
酒の勢いって怖い。
「サンダース戦士長をこれに!」
とうとう熱が冷めなくなり、この国最強の戦士を呼び出す王様。
おいおい、初日からいいんですか?
しかも戦士長って。
プライドを保てる程度には手を抜かないとな。
「お呼びでしょうか陛下」
現れた戦士長は、見るからに戦士然としている。
顔には一本の傷があり、制服の上からでもその肉体が常人ではないと分かる。
精錬された雰囲気は、戦士長の名に恥じない凛々しさだ。
(まぁ肉体なんて関係ないんだけどね)
俺は散々見た目は俺より大きくて、強そうなモンスターを散々倒してきたし、
ギルド加入したての頃に喧嘩を売ってきた連中も沈めてきた。
今更人相手に恐怖は感じない。
「勇者殿、余興として戦士長と模擬戦を行っていただけないだろうか」
「わかりました。戦士長殿のお相手を務めさせて頂きます」
おお!と盛り上がる周り。なんとも分かりやすい反応だ。
この後もっと声を出すことになるがな。
俺は今日の歓迎ですっかり驕り高ぶっていた。
さっきから余りにも性格が悪い気がする。
(調子には乗らない・・・まぁ最初はぶつかって後は流れでだな)
移動し、到着したのは勇者召喚で使われた場所だった。
闘技場のような作りだったのは、訓練所も兼ねているからだったのか。
「武器はどうされますかな」
「俺は木刀にします。戦士長殿はご自由に」
「はっはっは。それではせっかくなので本気で行かせてもらいます」
嫌味の無い笑みを浮かべた戦士長だが、その目には闘志が宿っている。
前回の世界でも、強者はこういった目をしていた。
俺がもし、男は絶対にパーティに入れないマンじゃなかったら、いやそれなら一人で戦っていたか。
戦士長が手にしているのは大刀だ。背程の長さがあるその刀を悠々と振り回している。
ゴリマッチョな肉体は伊達じゃないらしい。
そして俺は、木刀を持ち上げ・・・なんか重くない?
振れないわけじゃないが、振り回されそうになる。
木刀はもっと軽いはずだ。ビュンビュン振り回して折れるくらいには。
「では、始め!」
審判の合図で模擬戦が開始された。
まずくないか。
(え、重い。なにこれ。)
少し離れた戦士長が大刀を構える。
腰の辺りで刀身を後ろに構えたその刀は、リーチが測れない。
俺はと言うと、とりあえず中段で構えたが腕が既に悲鳴を上げそうだ。
留めておくだけでこんなにキツイの?
「いくぞ・・・!」
一呼吸入れた戦士長が気合を入れる。
そして、
「うおお!」
一気に飛び込んできた。
自分のリーチも良く分かっているのだろう。俺の木刀では届かない距離だ。
勢いのまま大刀が横薙ぎに繰り出される。
万が一直撃したらあえなく死亡コース。
世界がゆっくりと動く。走馬灯のようなものが流れる。
『他に好きな人ができたから』
できたから、できたから・・・
「どうして前々世の記憶なんだよおおお!!!」
半狂乱になりながら、木刀を身体の横で盾にした。
これでも足りない。木刀ごと真っ二つだ。
俺はさらに身体を地面から離して、横に飛んだ。
前回の異世界での動きは身体が覚えていた。
「これで・・・!うぎゃあああ!ぐふっ・・・」
踏ん張りも全て捨てたおかげで、木刀が切られる前に俺が弾き飛ばされた。
そのまま壁にものすごい勢いでぶつかる。
とんでもなく情けない叫び声を上げながら。
「俺・・・またなんか・・・」
そのまま意識がプツンと途切れた。
壁に全身を強打、死んだのだ。
第二部完?
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