第12話 作戦会議
高級な屋上プールをひとしきり楽しんだ後。
高校生参加不可なナイトプールの時間が始まる頃。
俺たちはホテルの一室に集まって、合宿の本題である学園祭に出す部誌の計画を練っていた。
「文芸部は小説や短歌、詩などを中心としたいつもの部誌を出すでしょうな。真っ向からやり合うのは得策ではありませんぞ」
「せやねぇ。そもそも、ウチらは得意分野も違うしジャンルもちゃうさかい」
「ですね。俺たちは俺たちのカラーを出していきましょう」
先輩方と意見し合う俺を眞百合さんと峰崎がじっと見つめてくる。
「な、なに?」
「ううん。仁和寺君ってすごいなーって思って」
「な! なんか慣れてる感ある」
まぁ、不慣れではない。
企画からの創作は、それなりに経験がある。
「部長はどう思いますかな?」
「え、あたし? えっと、わかんないけど……みんなでできることを精一杯やるのがいいと思う」
明智先輩に話を振られた眞百合さんが、少しばかり戸惑いながら口にした言葉は、青くさいながら真理だった。
そうとも、クリエイターがやるべきことなど、それしかない。
「千佳ちゃんはイラストがきれいだし、明智先輩はマンガが描けるでしょ? あたしは……頑張って小説書くよ」
「俺も小説を出すよ」
眞百合さんと俺の言葉に、峰崎が小さく肩を落とす。
「オレっちはー……ただの特撮オタクなわけで、なんにもできねぇんだよなぁ」
「文章を起こすのは俺がやるから、いつもの雑語りを聞かせてくれ」
「へっ?」
意外そうな顔をする峰崎に、軽く笑って見せる。
「自分じゃ気が付いてないかもしれないけど、お前の特撮知識はちゃんと体系化されててすごく面白いんだ」
「マジで?」
「マジで」
「わかるわかる。あんまり興味ないあたしが聞いても、ちょっと見てみたいなとか思うもん」
俺に続く眞百合さんに、峰崎が表情をほころばせる。
「峰崎氏には、それに加えて全体の進捗管理や文化祭当日まわりのあれこれもお任せしますぞ。我々クリエイターというのは、仕事に入ると人間性をかなぐり捨てるきらいがありますのでな! ガハハ」
「自慢することやないけどな」
快活に笑う明智先輩に、苦笑いする平麦先輩。
そんな二人に、峰崎が力強くうなずく。
「部誌にあんまり関われない分、おれっちはそっちで頑張らせてらうっす!」
「頼りにしておりますぞ」
「ああ、ホントに」
明智先輩と目配せし合って、小さく苦笑する。
俺が思うに、明智先輩もきっと
だからわかっているのだ。
『創る』ことをフォローしてくれる仲間がいることが、どれだけ心強いか。
「じゃ、方向性は決まったね。他に何を決めたらいいかな?」
「部誌の部数、ページ数……加えて装丁やカラーページの有無など、金のかかる部分に関して詰める必要がありますな」
明智先輩の言葉に、俺は小さく唸る。
「持ち出しはアリですか、ナシですか?」
「持ち出しって?」
「部費以外の資金で賄うかどうかって意味」
同人誌――部誌を作るにも、金はいる。
装丁や紙質、色数にもよって値段はピンキリだ。
加えて、今回は学園祭というイベントでの頒布となる。
強気の値段設定ができない以上、凝れば凝るほど足が出てしまう可能性が高い。
「我々は学生ゆえ、学生の部活動としての範疇を逸脱するわけにはいきませんな」
「ですよね…」
とはいえ、
部費の分配も違うため、資金力が段違いだ。
「うーん、じゃあ困っちゃうね。作るのにお金……足りないよね?」
本当に困った様子で、頭を左右に揺らす眞百合さん。
なんなんだ、その可愛い仕草は。
「コストを抑えたらええんちゃう?」
「それはアリですな」
平麦先輩の提案に、明智先輩がにやりと笑う。
ああ、これは悪い顔をしているぞ。
ルール違反はしないけど、グレーゾーンを突っ切ってやるという顔だ。
こんな高級ホテルを押さえてしまう明智先輩の人脈があれば、解決可能な問題はかなり多いだろう。
それに、それが許されるなら俺もいくつか伝手がある。
文芸部はOBという人脈を頼るのだから、俺たちだって使えるものを使ったってかまわないはずだ。
「何とかなりそう、かな?」
「どんとこいですぞ。では、具体的なところを決めるとしましょう」
明智先輩の采配で、部誌の仕様が定まっていく。
本来ここは眞百合さんが音頭をとるべきなのだろうが、餅は餅屋。
詳しい人間が、取りまとめたほうが確実だ。
特に、今回は『アニラノ研』の存続が掛かているので、失敗は許されない。
「では、表紙は千佳殿。加えて、小説の挿絵も千佳殿。小生はマンガを24ページ。部長と仁和寺氏が小説を担当。段構成でページの割り振りはお二人にお任せしますぞ。スケジュール管理、文化祭の申請や各種段取りについては峰崎氏にお任せしますぞ!」
紙にまとめられた概要を読み上げて、にこりと明智先輩が笑う。
ここまで決まれば、後は時間との戦いだ。
掛けた時間がクオリティを担保する、とは言わないが……やはり、それなりのものを出そうと思えば、それなりの時間がかかる。
特に、眞百合さんは創作初心者なためにリテイクやフォローも必要になるし、俺は峰崎の特撮談話の文字起こしもしなくてはいけない。
文化祭のある九月下旬まで二か月弱。
余裕があるか無いかと言えば、あまりない。
文芸部は、年間を通してこのタイミングのために準備をしているが、こちらは
「おっと、仁和寺氏」
「あ、はい」
「難しい顔をしてはいけませんぞ」
そう言われて、少しばかり緊張している自分を自覚する。
「創作は楽しむものですぞ?」
「――そうでした。全力で楽しみましょう」
そうだ。楽しんで、勝つ。
見せてやろうじゃないか、俺たち『アニラノ研』の実力を。
そうして守るのだ。
俺の、俺たちの居場所を。
アニラノ研の救世主!~文芸部を追放された俺がプロ作家だってことを誰も知らない~ 右薙 光介@ラノベ作家 @Yazma
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