第10話 手遅れ感がすごい。

「ふう、なんとか乗り切ったな」


 七月上旬。

 一週間に及ぶ学期末試験がようやく終了した。

 手ごたえは程々、といったところで不安点はない。

 いつも通り、可もなく不可もなく……といった感じだろう。


「峰崎、どうだった?」

「んー……まぁまぁ? 赤点はねぇと思う」


 やや渋い顔をしながらも、そう答える峰崎。

 結構頑張っていたし、努力に見合った結果が伴うと良い……と思いつつ、もう一人のクラスメートを探す。


「……!」

「……!」


 向こうもこちらを探していたのか、パチっと目が合ってしまった。

 少しばかり気恥ずかしくて、目を逸らす。


「む、なんでそっぽ向くのさー?」


 こちらに歩いてきた眞百合さんが、小さく眉を吊り上げてこちらに歩いてきた。

 陰キャコミュ障を地で行く俺だ。見つめ合うことなど不可能に決まっているだろう。


「マユっちがカワイーから照れてんだよ、たぶん。しらんけど」

「そうなの?」

「ノーコメントだ。それで、部長、首尾は?」


 俺の質問に、今度は眞百合さんが目を逸らす。


「いくつか、危ないかも……あたし、思ったよりバカだったみたい」

「苦手なことがあるだけだろ?」

「……うん。そだけど、みんなの迷惑になっちゃうかも」


 しょげる眞百合さんに、軽く首を振る。


「別に補習じゃなくたって開校日は学校に来るんだから」

「んだな! オレっち、もう夏に向けてやる気十分だぜ?」


 サムズアップする峰崎に、眞百合さんと二人でうなずく。


「うん! 頑張ろうね!」

「とはいえ、俺は少し用事があったりするんだけどさ……」


 こう見えて、夏はそこそこに忙しかったりする。

 みんなのように、完全に出席という訳にはいかない。


「ううん。みんなでできることを精一杯しよう!」

「あー、それなんだけどよ。オレらの青春……それでいいワケ? ってのもあるんだよなぁ」

「何が言いたい、峰崎」


 傾げた俺の首に腕を回して、峰崎がそっと耳打ちする。


「おいおいおいおい、センセー。オレら、花の高校生だぜ?」

「何の話だよ?」

「マユっちの水着姿、期待しないのかよ?」


 理解するに一拍置いてから、ギクリと固まる。

 そりゃあ、夏だし。俺も健康優良な男子だ。

 機会があれば……などと思わないでもない。


「いや、俺は……」

「安心しろ、マイフレンド。マユっちはオレのターゲット外だ」

「――!」


 待て。

 よし、待て。

 そんな、安易で安直な話があるか。

 まさか、俺が眞百合さんに気があると思っているのか、峰崎。


「見てれば意外とわかるもんだぜ?」

「それは見当はずれってやつだ」

「なら、自覚なしか? でも、悪い気はしないんじゃね?」


 悪魔のささやきのように、峰崎の声が俺の心を揺さぶる。

 そりゃあ、初めての女友達だし。

 距離感だって、近いし。

 手だって、すごく柔らかくて……いやいやいや。


「なんの話?」


 加速していく俺の思考を、眞百合さんの声が断ち切る。


「な、何でもない!」

「男同士の話ってか、マユっちは夏休みの予定、なんかあるワケ?」

「あたしは、お盆に田舎に行くのくらい? それ以外は同人誌づくりがんばる予定だよ! 部長だしね!」


 その言葉に少しばかりほっとしつつも、なんだか残念な気持ちも湧き上がってくる。

 友達とどこかに出かけるなんて発想、俺にはなかったから。


「いやさ、せっかくだし合宿っつーか、気晴らしっつーか……海とかどうよって思って」

「いいね! 明智先輩と平麦先輩にも聞いてみよう」


 さすが陽キャ属性。

 何たるスムーズな話題振りだろう。

 俺には絶対無理だ。


「それじゃ、部活にれっつごー!」


 意気揚々と歩きだす眞百合さんの後ろに続く。

 そんな俺の肩を叩いて、峰崎がいい笑顔でウィンクした。


 ◆


「ふむ。悪くないですが、今の時期から宿を押さえたりは難しいのではないですかな? 金銭的にも負担が大きいでしょう」


 部室でさっそく海の話をしたのだが、明智先輩からの返事は少しばかり現実的だった。

 まあ、想定されたものではあるが。


「でも、気晴らしがてらの合宿いうんも、なかなかええねぇ」

「あと、小生は8月二週目は少々用事がございましてな」

「コミケやろ? 言わんでもわかるわ」

「バレてましたな。ガハハ」


 コミックマーケットは日本が世界に誇る最大の同人誌即売イベントだ。

 つまり、ヲタクの祭典。ヲタクとしてはこれに参加しない手はない。

 というか、俺も参加予定である。


「じゃあ、7月中に海じゃなくてプール、とかどうスかね?」

「ははーん、見えてきたで? さて、ウチらの水着姿をご所望やね?」


 平麦先輩が、眞百合さんを背後から抱きしめながら艶っぽく笑う。

 この人、本当に高校生だろうか?

 いくら何でも様になりすぎてる。


「え、ミネったら! もしかして仁和寺くんも?」


 さっと目を逸らすが、どうも手遅れ感がすごい。

 ギャルゲー的には選択肢を間違った感が満載だ。

 ここはきっと、即座に否定しなくてはならないところだったに違いない。

 ……人間、正直なだけではいけないということはよくわかった。


「ガハハ、仁和寺氏も男の子ですな。とはいえ、合宿という案はなかなかいいですな。どれ、小生が一肌脱ぎますぞ」


 にやりとそう笑った明智先輩が、スマートフォンをポケットから取り出した。












==========

あとがき

==========


祝10話('ω')

ここまでお読みいただきましてありがとうございます。


「面白い」「続きが気になる」などありましたら、

★やレビュー、コメントなどで応援していただけますと幸いです!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る