第2話 よかったらウチに入らない?
──『アニラノ研』。
正式名称は『アニメ・ライトノベル研究部』。
この部の存在を俺は知らなかったのだが、それもそのはず。
なんと、眞百合さんが五月になってから申請し、新しく認可された部であるらしい。
「大変だったけど、急がなきゃいけなかったんだよねー」
そう苦笑する眞百合さんが、ライトノベルでぎっしりの棚を見上げる。
それは、どこか愛おしいものを見る目に思えた。
「ま、そんな事はともかく! ようこそ『アニラノ研』へ!」
「それはさっきも聞いたよ。こんな部があるなんて初めて知った」
「作ったときには、もう勧誘の時期終わってたしねー」
てへへ、と笑う眞百合さんに部員たちが小さく笑う。
この緩くて優しい空気は嫌いじゃない。
「真弓ちゃん、そろそろ紹介してもらってええかいね? このイケメンさんはどなたさん?」
「えっと、同じクラスの仁和寺君!」
「その仁和寺君を何で連れてきたん? って話なんよ?」
キツネ目女子が、ちらりと俺を見る。
美人だけど、どうも俺を値踏みするような視線が痛い。
「ああ、俺が本を拾って。それで……連れてこられた?」
「あはは。お礼したくって! それに仁和寺君っていつも本を読んでるでしょ? ちょっとお話したいなって」
おかしい。
ボッチを気取って触れにくい空気を醸し出していたはずなのだが、どうしてこうも気安いのだろうか。
「千佳先輩。そんな警戒しなくても、仁和寺は気が利くいいやつだぜ?」
「そうなん? まぁ、ひょろっこいし、素直そうではあるんやけどね」
「むむむ、いけませんぞ! そのように言っては仁和寺氏が傷ついてしまいますぞ!」
「あんたはもうちょい、肉減らした方がええんちゃう?」
やりとりに思わず小さく噴き出す。
つられたのか、眞百合さんも一緒になって噴き出してしまった。
「えっと、峰崎君は同じクラスだしわかるよね! こっちの二人が先輩で……」
「小生は
眞百合さんが紹介する前に恰幅のいい先輩が自己紹介を披露する。
特徴的な口調に角刈り頭。眼鏡に張り詰めた制服……という、いかにも『オタク』といった風ではあるが、率先して自己紹介をしてくれるあたり、後輩である俺にも気遣いができるいい人なのだろう。
「ウチは
先輩二人に挨拶をさせて、俺がしないわけにはいくまい。
「俺は
「オレっちは
「君は自己紹介せんでええんよ?」
亜麦先輩の冷たいツッコミにも笑っていられるつよつよメンタルの峰崎君が、俺の隣に座り直す。
「てか、この状況にキョドらないのな?」
「いや、十分に驚いてるけど。でも、こんな場所があったなんてもっと驚いてる」
「だよな。オレっちも眞百合に連れてこられるまで知らなかったぜ」
あまり接点らしいものも見当たらず、教室でもやり取りをしない峰崎だったが、意外と話しやすい。
というか、俺が話しやすいように気を遣ってくれているんだろう。
「しかし、すごいな。これは……!」
ぎっしりと、そして整然と収められた本棚を見上げて、俺は少し心を躍らせる。
俺の家の書庫よりも多いかもしれない。
「これは眞百合さんのコレクションですぞ」
「そ、あたしのなの! なかなかすごいでしょ?」
「ああ。すごいな。結構古いスニーク文庫から最近のweb発のまである。これはお宝の山だ」
「んっふっふー。仁和寺君ならわかってくれると思っていたよ」
得意げな眞百合さん。
そんな彼女を見て笑う面々。
「てか、ニワっち。いつもは放課後すぐにいなくなるじゃん? なんでマユっちに拉致られたわけ?」
「ニワっち?」
「仁和寺君って、なんか他人っぽくね? 同クラだし、無礼講? みたいな?」
ニカっと笑う峰崎君。
この距離の詰め方……やはり陽キャか!
いや、この部屋に馴染んでいる以上はヲタクでもあるのだろうが。
「あたしもちょっと気になってたんだよね。放課後にこうして仁和寺君を見かけるのって、初めてかも?」
「あー……諸事情あって?」
俺の曖昧な返答に、クラスメート二人が小さく首をかしげる。
「おっと。いけませんぞ、二人とも。ニワっち氏にも話しにくいことくらいあるはずですからな」
「せやでー。困った顔してはるやん?」
先輩二人の助け舟に、俺はほっとしつつも口を開く。
「いや、そう大した事情でもなくって。端的に言うと、ちょっと追い出しに遭いまして――部活」
軽く頭を掻きながら、ニヘラと笑って見せる。
そこまで深刻ではないとアピールしたつもりだったが……クラスメート二人は驚いた顔をし、先輩二人は表情を少し険しくした。
「どういうこと!? 仁和寺君、文芸部だったよね?」
何で知ってるんだろう。
俺は『アニラノ研』の事すら知らなかったのに。
「追い出しとは穏やかやないね。ちょっとお姉さんに、話してみ?」
「いたいけな新入生を追い出すなど……!」
俺がいたいけかどうかはともかく、俺の事情というのは先輩二人の興味を強く引いてしまったようだ。
いや、雰囲気的にクラスメート二人も同じか。
こうなってしまうと、話さざるを得なくなってしまう。
それに俺自身、少しばかり愚痴ってしまいたい気持ちがあった。
「ええと、実はですね。俺の態度が文芸部員として相応しくないと部長に言われてしまいまして。売り言葉に買い言葉で、退部しちゃったんですよね。なので、追い出されたというのは、ちょっと語弊がある――」
俺の言葉が終わらぬうちに、平麦先輩の眉がつり上がり、明智先輩の手に力がこもった。
さて、これはどうしたことか。
「角田のヤツ、相変わらずやねぇ……!」
「ですな。これは、こちらでフォロー案件ですぞ。よろしいな? 部長」
先輩二人の視線に、眞百合さんが笑顔でうなずく。
ついでに峰崎君もうなずいてた。
「ね、仁和寺君」
「ん?」
「よかったら、『
溢れる笑顔のまま、眞百合さんが俺の手を取った。
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