アニラノ研の救世主!~文芸部を追放された俺がプロ作家だってことを誰も知らない~

右薙 光介@ラノベ作家

第1話 ようこそ! 『アニラノ研』へ!

「君は伝統ある文芸部に相応しくない。今すぐ出て行きたまえ」


 ある六月の放課後。

 いつものように部室でスマートフォンをいじっていた俺に、そんな言葉が投げかけられた。

 声の主は角田つのだ 郁男いくお

 三年生が引退し、新たに文芸部の部長となった二年生の男子。


「えっと……?」


 突然のことに面食らった俺は、少し驚きながら首をかしげる。

 この西門高校に入学して二か月。

 ようやく、高校生として落ち着いてきた今日この頃……だったはずなのだが。


「どういうことでしょうか?」

「そのままの意味だ。いいかね、文芸部は文学を愛し、創作する部活動だ。だというのに、この二か月の君の態度は目に余る」


 鼻息荒く、そう告げる角田部長。

 出会った当初からから少しノリが合わない人だと思ってはいたのだけど、こうも目の敵にされていたとは予想外だった。


「読書会にも創作講習にも参加せず、毎日毎日スマホをいじっているだけじゃないか。たまに本を持ち込んだかと思えば、胡乱なライトノベルを持ち込む始末。そんな態度でいられると非常に困る!」


 反論するのも面倒くさくなって、俺はため息をこらえながら立ち上がる。

 前部長の強いお誘いがあって入った文芸部だけど、現部長がこのように言うのであれば仕方あるまい。


「わかりました。退部届は顧問に提出しますね」

「ふん。わかればいいんだ、わかれば」


 どこか勝ち誇った様子で口を弧にする角田に今度こそため息を吐きながら、俺は文芸部室を後にする。

 そして、その足でそのまま職員室へと向かった。


 ◆


 職員室でさっそく退部届を提出した俺は、本日何度目かとなるため息を吐きだしながら、廊下を歩く。

 というのも、俺の通う『西門学園高校』は全学生が何かしらの部活に所属せねばならないという決まりがある。

 つまり、無所属となった俺はどこかの部活に再度入部しなくてはならないのだ。


 ただ、諸事情あって運動部は無理だし、文化部にしてもあまり制約のない──つまるところ、幽霊部員よろしく拘束の少ないところが好ましい。

 そうなると、選択肢は随分と数は少なくなってしまうし……さすがに六月にもなってしまうと、募集を締め切っている部がほとんどである。


 これはなかなか困った状況だ。

 このまま、なあなあで無所属でいるのが一番気楽ではあるのだが、学期末評価に『活動』の欄があり、そこが空白となれば校則違反が発覚してしまう。

 そうなると、親にも迷惑が掛かってしまうのでいただけない。


「ううむ……困ったな」


 悩みながら俯き加減に廊下を歩いていると、澱んだ視線が何かを捉えた。

 拾い上げてみると、それは手作りらしいパステルなブックカバーに包まれた文庫本だった。


「あ、それーッ!」


 中身を確かめようとしたまさにその時、廊下の曲がり角から何もかが俺を指さして叫び声に近い声を上げた。

 まだ下校時間ではないとはいえ、校舎から人の失せる放課後。

 その声は、廊下によく響いて小心者の俺を飛び上がらせるに十分な威力だった。


「あはは、驚かせてごめん! それ、あたしのなんだ」

「そうなのか。じゃあ、はい」


 駆け寄ってきた女子に本を手渡す。

 さて、見た顔だぞ?


「ありがとね、仁和寺にわじ君」

「俺の名前……? えっと?」

「同じクラスでしょ? 覚えててよー」


 快活な様子でにこりと笑うショートーカットのメガネ女子。

 確かに、この声は教室で聞いたことがあるぞ。

 ええと……。


眞百合まゆり 真弓まゆみ! 覚えた? 覚えてね?」

「前向きに善処するよ」

「何それお固い! ま、いいや! 本、拾ってもらったお礼もしたいし……ちょっとお茶していかない?」


 廊下の先を指さす眞百合さん。

 俺の了解を取る前に、俺の手は彼女に握られていた。


「こっちこっち!」

「お……っと」


 手を引かれるまま、彼女のペースに乗せられて俺は廊下を小走り気味にゆく。

 生まれてこのかた異性と関わり合いになったことがない俺は、眞百合さんの柔らかな手の感触にややどぎまぎとしつつも、引っ張られるままについて行った。


「はい、到着! こちらへどーぞ!」


 廊下を少し行った、文化部部室棟の端、少し建てつけの悪い引き戸を開いて眞百合さんが笑う。

 促されるまま、足を踏み入れた俺は思わず小さく息をのんだ。


 学校にあるには些か異質な空間。

 壁の二面を天井まで占有する本棚にはカラフルな背表紙のライトノベルがぎっしりと並べられており、一番奥には32インチのモニターが置かれていて、いくつかのゲーム機やBlu-rayレコーダーが雑多に置かれていた。


 まるで、自室にいるかのような錯覚をしてしまいそうな雰囲気。

 ただ、部屋の中央に設置されたソファーには先住民がいた。


「おや、お客人ですな」

「初顔やね?」

「あれ? 仁和寺君じゃん」


 太ましいボディのメガネ男子。

 キツネ目のスレンダー女子。

 そして、同じクラスのイケメンパリピである峰崎君。


 なかなか奇妙な取り合わせだ。


「へへん、あたしが連れてきたんだよ! さ、座って座って! お菓子もあるよ!」


 背中を押されて、俺は部屋の中へと進む。

 初めての場所であるはずなのに、ソファに座ってしまうと奇妙な心地よさがあった。


「紅茶、コーヒー、コーラ、ドクペ。どれがいい?」

「あ、じゃあコーヒー」

「お砂糖とミルクは?」

「ブラックで」

「わお、大人~」


 あっという間に、目の前に湯気が立つコーヒーが出てきた。

 それ一口すすって、俺は気になっていたことを口に出す。


「眞百合さん、ここって……?」


 俺の問いかけに、眞百合さんが小さく首を傾げにこりと笑う。

 自信に満ちた快活な笑みを浮かべたまま、仁王立ちをした彼女が口を開く。


「ようこそ! 『アニラノ研』へ!」













**********

あとがき

**********


X(旧Twitter)でとある勝負に負け、書き始めました('ω')

せっかくなので、楽しんでいただければ幸いです。

ストックもないのでじわじわ書き進めます……!


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