第27話 意表に出る
操られ、襲い掛かる客たちにも動じるどころか反撃して全員を薙ぎ倒していくアリーの姿を見て、ワタシもラナンの叔父であるドゥナさえも懐疑的な目をしていた。
「いっ一体何を言っているんだ?魔法の出所とは、どういう事だ?」
当人は意味が解らないと言いたいのだろうが、その汗をかいた表情からは先程までの余裕が感じられない。むしろ図星を突かれて焦っている表情が丸わかりだった。
「えぇ?だってこんだけの人数あやつったら、おれじゃなくても魔法の力の流れが濃くなってわかりやすいじゃん。
あっもしかして大人数あやつった時点で勝てると思って油断したぁ?」
アリーはドゥナを指さし、ヒトの痛い所を
「はっははっ!だからなんだと言うんだ!分かった所でお前には到底手の届かない所にある!それに結界で守られている状態でどうやって」
最早誤魔化しもせずにドゥナはアリーに言い返そうとしたが、アリーは相手の返事など最初から興味が無いという感じで膝を曲げたり伸ばしたりして準備運動を始めた。
「あーうん…とりあえずじゃまはしないでね。跳ぶから。」
言った直後、アリーは思い切り膝を曲げて姿勢を低くし、そして勢いを付けてそのまま大きく跳ぶ上がった。あっと言う間に再び天井近くの
「あっ…まっ待て!おい!」
どんどんと移動をしていくアリーの姿を見て本格的に焦り出したドゥナだったが、本人にはどうすることも出来ず、操っている客たちでさえも高い位置を素早く動いているアリーには届かず、アリーの足元の随分下の方で群れを作っているしか出来ない。
「木を隠すなら森、とは言うけど、ここまで単純なのもないよねぇ。まぁその方が逆に見つけづらいのかな?」
見つける前からどこに目当ての物があるのか分かっている口振りのアリーは、目的の場所へと辿り着き楽しげな笑みを浮かべる。
そこは宝石などの装飾品を置いている店の入り口であり、その入り口の上には見事な宝石の装飾が施されていた。もちろん看板代わりのそれは全て模造品だろう。その内の一つをアリーは掴み、力を込めてもぎ取った。その装飾の石の色は、どこか見たことのある赤色をしていた。
「はいっもらい。今回は今までで一番楽だったな。」
手にした触媒である赤い結晶を手にし、それを天窓から射す日に翳してアリーは眺めている。そんな姿を見て、ドゥナは最早先程までの余裕の表情は影も無くし、取り乱してアリーの方へと駆け寄った。
「かっ返せ!貴様、勝手に持ち出して、ただで済むと思うなぁ!?」
そこには身内さえも食い物にする傲慢かつ非情な男はおらず、代わりに宝石一つをとられて取り乱す哀れなヒトがいるだけとなった。
「えーっただじゃすまないのかぁ。それならさっさと立ち去った方が良いなぁ。でもだいじょうぶ?これだけの人数を操ってたんだし、もうすぐ反動がくると思うけど?」
アリーの言葉を聞いて、ワタシも思い出した。今まで触媒を使い、そして手元から触媒をなくした後、使用者がどうなったのかを。
そしてアリーの言葉通り、ドゥナの様子はすぐに変化した。急に黙ったかと思うと、そのまま膝から崩れ落ちて倒れてしまった。恐らく魔法の反動で意識を失ったのだろう。その姿を見て、ワタシは安堵した。
周りを見れば操られていた客たちも皆、魔法の力が断たれた事で気を失い地に伏している。一般人の中にも魔法に精通している者もいただろうが、そんなヒトさえも触媒を通して魔法を使われては手も足も出ない。
そこまで考えて、ワタシは急にラナンの事が気になり出した。
その直後、触媒を持つアリーの手に何かが中った。アリーは触媒を手にして浮かれていたのか、手に何かが中るとその衝撃でアリーは触媒を手から手放してしまい、地面に向かって触媒である赤い結晶が落ちていく。その状況に流石のアリーも慌てて触媒を拾おうと急ぎ下りる。ワタシもアリーの珍しく慌てる声を聞き、同時に駆けだしていた。
しかしそのアリーの足元には、先にラナンが一人立っていた。
「…ラナン?」
ワタシは唖然として走っていた足を途中で止めた。アリーもラナンの近くに降り立ったが、ラナンの手に自分が落としてしまった触媒が握られているのを目にし、すぐに動くずにワタシと同様に立ち止まっていた。
何故ラナンはそこに立っているのだろう。客たちは皆魔法によって操られ、そして力が断たれた今は気絶してしまっているはず。ならば、意識を失っていないラナンはどうだろう。
ラナンもまた、操られたかのように押さえ込むワタシの腕の中で暴れていたが、もしもそれが演技だったとしたら?ワタシは今まで散々触媒の魔法を目の当たりにしてきたために耐性が出来ているから効かなかったが、ラナンも魔法に掛かる事が無かったのだろうか?
「あぁ…これが。魔法の知識を一つも持たなかったあいつさえも力を持つ事が出来た根源なんだ!」
触媒を手にし、触媒を見つめるラナンの目は爛々と輝き高揚していて、それは操られていたフリをしていた時と同じものだった。
「ラっラナン!それは魔法の触媒で、とても危険な」
「知っているわ。だってこれが私の父や、お客さん達を操っていたのでしょ?見れば解るわ。」
ワタシが言い切る前にラナンが代わりに言った。ラナンはアリーが盗んだもの、ドゥナが持っていたものが触媒である事を理解していた。だと言うならば、尚更何故それをアリーから奪うような事をしたのか、ワタシは悩んだ。
それよりも、何故ラナンは気絶どころか、魔法に掛かる事無く無事なのか分からないワタシに、先にアリーが気付いた。
「…あぁお前。ちょっぴりだけだけど、触媒の力を使ってたな?」
最初アリーの言った言葉の意味が理解出来なかったが、ラナンの様子を見ていてワタシも理解した。魔法に関しては知識しか会得出来なかったワタシとは違い、ラナンは実践で魔法を使う事が出来る。それがワタシとラナンの違いだ。
ワタシは魔法を知識でしか収得出来なかったが、ラナンは知識だけでなく実践でも使えた。だからこそ家を訪れた叔父であるドゥナが持っていた結晶を見て、それが魔法の力を宿していると気付けたはずだ。
だからこそ、逆にその触媒を力を利用しようと考えたのではないだろうか?
いくら魔法に精通しているラナンだって、自分一人の力では触媒の力には抗えない。ならば操られる前に触媒の力をいじって、自分が魔法に掛かりにくくすることも考えたのでは?
そんな予想を、ワタシは今の光景を見るまで考えもしなかった。それはラナンという友人が、触媒を横取りするとは思っていなかったからだ。
「これがあれば、もう父は仕事の事で悩む事が無い。母もそんな父の姿を見て項垂れる事も無い。もう私達の邪魔も、何もさせることがない!」
興奮した声でラナンはワタシたちの存在を見て見ぬ振りする様に声を荒げた。それは正気の様な、正気でない、今まで触媒に侵されたヒトと同じ声をしている。
「ラナン、ダメよ!それに頼っては」
「うるさい!父は今までずっと頑張って来た!私も父の役に立ちたくて魔法の勉強を頑張って、でも家に帰っても、何も出来ない、なんで…もう、報われたって良いはずなのに!」
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