第26話 盛大に襲い掛かる
ラナンの叔父、ドゥナによる明らかな魔法による精神操作を目撃するも、魔法の触媒がどこか分からずに立ち往生している最中に大きなものが割れる衝撃音が周囲に響き、たくさんの硝子の破片がドゥナの立つ部隊に降り注いだ。そんな状態でもドゥナは動じる事無く天井を見上げて笑っていた。
「…はっはっは。本当に現れたなぁ、コソ泥ぉ!」
天井の硝子を破り、出てきたのはやはりアリーだった。アリーは天井から下りて来て吊るされている照明にしがみ付き、舞台上のドゥナを見つめている。そんなアリーの姿を見て、ドゥナは何やらアリーが現れることを予期していたかのような発言をしたように聞こえた。
すると、ドゥナは魔法によってぼんやりとした表情で棒立ちしている客たちに向かって言い放った。
「皆さまぁ!当店に悪しき侵入者が巣型を見せました!我々で皆さまを守る事を優先いたします!決して皆様に傷一つ付けません!
しかし、もしもですがお手を貸していただけたならば、共にあの悪しき侵入者を共に打ち倒しましょう!」
明らかに矛盾している事を高らかにドゥナが宣言すると、ぼんやりとした目をしていた客たちの様子が一変した。ドゥナの言葉に次々と賛同していき、皆が天井の照明具にしがみ付くアリーを睨みつけた。そして誰かが遠吠えの様な声を上げると、呼応するようにして他の客も声を上げて、一直線にアリーへと向かって襲い掛かった。
皆が皆、辺りにある店の商品を掴み、それをアリーに向かって投げた。投石の様なその光景の中、アリーの事も気になるが、ワタシは他の客と同様に操られて暴れる友人を抑える。
「ちょっ…落ち着いてラナン!」
いまだに魔法に掛かってしまっているのか、ラナンは他の客と同じようにアリーに向かって両腕を伸ばし、目には正気の光は無く、とても知っているヒトの力とは思えない獣のような力で、抑え込むワタシの腕の中でラナンは暴れている。
そんな友人相手に悪戦苦闘している間、アリーは照明から手を離して操られた客たちから逃げ回っていた。商品が並べられた棚から棚へ、代から台へと飛び移り、同じく正気を失っている客の手から逃れるべくあちこちへと逃げる様をドゥナは楽しげに見ていた。
「はっはっはっ!最近あの宝石が何者かに奪われていると連絡が来たから、眉唾ではあったが本当に現れた上にあんな子供とはな。
しかし、さすがに一般人相手では手が出せないらしいなぁ。」
完全に油断しているのか、独り言を口にしていたドゥナを影から見ていたワタシだったが、ラナンを抑え込むために動けない。どうしたものかと思っていたら、突如声を掛けられた。
「それで?うちの姪っ子と一緒に来たそこにお前。お前は俺に何か用は無いのか?」
相手は知らないから名前こそ呼ばれていないが、ラナンと一緒にいる事を指摘された。やはりバレていたか。
「…何故わざわざラナンの家を貶めるような事をするの?そんなにヒトを騙して私腹を肥やすのが楽しいの?」
ワタシには理解が出来ない、でも実際にしているヒトは多い。そんなヒトの欲を確かめるようにワタシは質問した。ワタシには血の繋がった家族を傷つけてまでして自分の利益を得る事が不可解だった。
「…楽しいか、だって?」
ワタシの質問にドゥナの方もまるで不可解な事を聞いたかのように首を傾げていた。
「楽しいかどうか何て関係無い。ただ俺は俺がしたいと思ったことをしただけだ。俺が一言、言葉を吐きだすだけでこんなにも自体は大きく変わる。楽しげだった奴の表情が曇る様、余裕ある様子が一変する。それだけが俺を行動目標であり、そこに俺の、他人の感情なんて関係無い。」
何を言っているのか理解出来なかった。まるで呼吸をするように、空腹になったら食事をするのと同じのように男は悪行を重ねるとでも言いたいらしい。
ワタシは目の前の男が、友人の親戚である人物が自分とは違う生き物に思えた。まるで体のつくりが異なる存在にでも遭遇した気分だ。
「意味が…分からない!ヒトに迷惑を掛けなくたってヒトは生きていけるのに、わざわざそんな事をして、ソレで満足って事!?そんなハズない!ヒトはそんな事をしなくったって」
「言っただろう?お前がどう思うかなんて関係無い、と。それに今俺が一言、『お前が俺の敵だ』と言えば、ここに居る奴らも、俺の姪もお前に襲い掛かって来るぞ?」
ドゥナに言われて、ワタシは恐ろしさよりも怒りが湧いてきた。友人や家族を人質に取られるよりも性質が悪い、男の脅しにワタシは今にも暴れているラナンを手放してドゥナを張り倒してやりたい気持ちになった。
「あっははは!今困ったな?友達を離すかどうか、今悩んだよな?良いんだぞ?俺がお前の相手をしてやっても。その間姪が理性を失ってヒト様を襲う事になったって、俺は困りはしないからなぁ?」
本当に腹が立つ!きっとワタシの今の心境もこの男の策略によるものなのだろう。しかしそれでもワタシは今の自分の気持ちに納得し、感情をそのまま表情に乗せ外に出した。同時に男の言う通り、今自分がすべき事が何か悩んだ。
押さえ込んでいる友人を手放してしまい、そのまま男を叩き倒してしまうか。怒りをそのままに友人の傍にいるか、答えが出ないままでいると周囲に変化が見られた。
アリーがいるであろう方向から聞こえて来るのが、操られた客たちの正気を失った雄たけびから、衝撃で吹き飛ばされたヒトの叫び声や苦痛で呻く声に変わっていき、その変化にドゥナの表情からも余裕の笑みが薄れていった。
「…おいおいなんだ!?何が起こった?」
ドゥナにも何があったのか理解が出来ず困惑していた。ワタシも訳が分からず、事が起っているであろう方向をドゥナと一緒になって見る。すると、次々と客たちが吹き飛ぶという奇怪な光景が見えた。
それはアリーだった。アリーが操られ襲い掛かって来る客たちを次々に蹴ったり投げたりしていた。中には一人ヒトを掴むとそれを集団に向かって投げ飛ばし、一気に大勢を同時に薙ぎ倒していく光景が繰り広げられている。
「なっ!何を」
「ちょっとぉ!?一般人に攻撃したらダメでしょう!」
ドゥナが何かを言う前にアタシはアリーに向かって怒鳴っていた。それはほとんど反射で出たものだ。
「あれーっ?なんでここにいるの?」
「ワタシの事は良いから!あのヒトたちは関係の無い一般人なんだから、攻撃しちゃダメ!」
「えぇー。でもこいつら、邪魔でしかたないんだもん。それに全然力入れてないのに簡単にふっとんでさぁ。」
アリーは自分の所業を悪びれる事無く言いのけ、辺りを見渡している。まだ自分に襲い掛かって来るであろう客たちを見定めているのだろう。
アリーに続けて説教を続けるワタシとアリーの間に割って入るかの様にしてドゥナが声を上げた。
「お前!何故普通に攻撃している!?一般人には手を出せないんじゃないのか!?」
アリーの容赦ない所業が信じられないらしく、ドゥナはアリーをありえない存在の様にして目を向けている。アリーはと言うと、そちらもありえないとでも言いたげにドゥナを見ていた。
「えーっ別におれ、一般人に攻撃しないとは言ってないけど?勝手に勘ちがいしてけしかけてきたのはそっちだし?
まぁおかげで、魔法の出所がわかったけどね。」
アリーが笑みを浮かべて放った言葉にドゥナの表情が更に一変し、今度は青褪めてアリーを凝視する。そしてアリーの反撃が始まった。
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