幕間1

淋しげに降る

 雪が降りしきる土地の一画に、さびれた小さなまちがあった。

 住民は皆貧しく、今日一日を耐え抜く為に皆が懸命に働くが、それでも稼ぎは平等に少ない。一日中休む間もなく働き、住民は皆疲弊しており、明るい話題や雰囲気などに縁が無かった。

 そんなまちで生まれ育ったとある姉弟が一組、その内の弟はまるでこの錆びれたまちを体現するかのように痩せっぽっちで、目つきは悪く、髪の色は薄汚れた墨色をしていた。その為かまちに住む数少ない子ども達からはからかいの的となり、いつも独りぼっちだった。

 どうして自分の髪はこんなにきたない色なんだろう。少年は自分の髪を見てはいつもそう思っていました。

 でも、少年は本当に独りではなかった。それは姉の存在だった。

 姉である少女は弟である少年と変わらず痩せていたが、その弟と唯一違うのが二つ。一つは髪の色だった。少女は燃えるような赤い髪色をしており、色鮮やかで周りからは敬慕の目で見られていた。

 色鮮やかな髪は魔法の力の強さの表れでもあり、実際に少年の姉は強い魔法の力を持っていた。それは将来有望の証でもあった。

 少年はそんな姉が自慢であり、憧れであった。対して少年自身には何のとりえもないと少年は自分の事が嫌いだった。そんな少年に姉は言った。


「君には誰にも負けない『強い力』がある。だから自信を持って。」


 姉は弟である少年に対して、いつも励ましの言葉を贈っていた。それは慰めでもなんでもない、少女の心からの言葉だった。だから少年は落ち込んでもまた立ち上がれた。そして姉のために強くなろうと決めた。

 しかし、周りが少年の気持ちを妨げた。

 両親のいない少年と姉を引き取った親戚である叔父と叔母は事ある毎に少年と姉を引き合いに出し、姉を褒めては少年を叱り、蔑んでした。姉はそんな叔父と叔母に弟を叱らない様言うが、それが余計に少年の立場を悪くした。

 決して少年は姉や親戚を憎まず、妬まなかった。ただ自分自身の弱さを嘆き、憎んだ。自分が強ければ叱られないし、姉に苦労を掛けないといつも思っていた。

 姉は自分には力があると言った。しかし、大好きな姉の言葉でも、自分の事を信じる事が出来なかった。

 少年にとって、自分は憎き仇だった。


 ある日の事、まちの郊外に大きな建物が建てられた。まちの住民らは突如出来た建物に不信感を募らせたが、建物が建ってから暫くして、その建物から一人の男が部下らしき人物を引き連れてまちにやってきた。


「私は魔法の研究を行っているもので、あの建物も魔法の研究の為に建てられた研究所です。

 私はこのまちに活気を取り戻すべくやってきましたが、研究にはどうしても人手が足りません。そこで、どうかまちの若いヒト達に研究所の手伝いをしてもらいたいのです。」


 つまり、まちの誰かが研究所へ行く為に迎えに来たという事らしい。しかし、魔法の研究と聞いて、誰もが訝しんだ表情をしました。

 まちの誰も、突然やってきた余所者に若者を送る勇気が無かったのです。そんな様子を見て、研究員を名乗る男は続けました。


「もしも研究所にいらしてくれましたら、報酬をお贈りいたしましょう。こちらからのささやかなお礼と思ってください。」


 それを聞いてまちの住民は色めきました。元々貧しい暮らしをしてきたまちの住民にとってはそれは魅力的な言葉に聞こえました。それは少年と姉を引き取った叔父と叔母も同様でした。

 叔父は少年を研究所に送る事を決めました。何の相談も無く言いつけられて、少年は何も言えずに困惑しました。何よりも断ったとしても、少年の言葉を着てはくれないと少年自身がよく分かっていたからです。

 そこで姉が言いました。


「私も行く。」


 姉の申し出に少年は驚き、叔父と叔母は言いよどみました。将来が有望視された姉は家に残しておきたいと言うのが二人の本音なのでしょう。姉は更に言います。


「あの研究所が魔法の研究をしているんですよね?だったら私が力を発揮すれば、もらえる報酬も増えると思いますが。」


 それを聞いて二人はそれならばと、少年と共に姉も研究所に送る事を決めました。今だ困惑していた少年に姉は話し掛けます。


「大丈夫。二人一緒なら、きっと何とかなるから。」


 少年は、姉が少年の為に研究所に行く事を決めたのだと分かり、そこで固く心の中で決めました。

 いつか姉と二人だけで暮らそうと。

 そのために研究所で成果を出して、皆に認められようと。

 その時は、二人の行く先に不安などありませんでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る