第18話 事件に鉢合わせ
結局赤い結晶に関してあまり追及出来ず、娘さんを気遣いそのままお開きとなった。シュナイターさんからはまた来てほしいという言葉だけの約束を交わし、シュナイターさんに見送られて家を出た。
家を出て暫く歩き、シュナイターさんの家からワタシ達の姿が見えない建物の角に入ってから立ち止まり、ワタシは大きな溜息を吐いてしゃがみ込んだ。
「あーいってぇ。まだ足いてぇ。何するんだよ!目の前にお宝があったのに、とりのがしちゃったじゃん。」
「いや、見ている目の前でヒトの物盗ったらダメでしょ!ただでさえ心労が溜まってるヒトなのに、こっちがヘタをして余計に負担を掛けちゃんじゃない!」
「えー?今さらヒトの心配?」
アリーは言うが、今までと今とでは状況が違う。カーペンタ氏もクラーク氏も裏ではとんでもない事を仕出かしていた。今回は不遇な過去を持った夫人であり、今の所不穏なものは感じられない。もしかしたら何かを隠しているとも考えられたが、病に侵された娘を持つ身で何かをやらかす様には見えなかった。
しかしワタシ達の中では触媒である結晶を手にする事は決定事項だ。故にシュナイターさんが持つ結晶も手にするのだとアリーは当然だと主張した。
「結晶は全部で九つ、すべて手に入れるって話したろ?相手が知り合いだから免じょってのはなしだからな。」
「分かってるけど!…アンタが言っても聞かないヤツだってのも分かってる。でも弱ったヒトからいきなり盗むのはその、後味が悪いって言うじゃん。」
ワタシな必死になって盗む事を止める様に弁解した。しかしやはりアリーはワタシの意見など聞こえていない様に素っ気ない態度で返事も軽かった。
「じゃあさっきのおばさんが悪いヤツだったら、ぬすんでもよかったって事?ずいぶんと都合がいいなぁ。」
言われて何も言い返せなかった。しかしそれだって良いのではないだろうか。少なくともシュナイターは触媒である結晶の力を必要としていた。
対してアリーは何故結晶を全て盗もうとしているのか理由を明白にしておらず理解出来ない。勝ち負けの話ではないが、明らかにシュナイターさんの方に軍配が上がっている様に感じた。
「ともかく、今回は」
諦めようと口にする前に、突如アリーがシュナイターさんの自宅の方へと勢い良く振り返った。突然の事で驚きつつも、何があったのか聞こうとする前にアリーが先に口を開いた。
「あー…まじか!まぁそんなかんじだったからなぁ。ったく、何してんだかな。」
言うとアリーは助走も無く凄い速さで走り出し、シュナイターさんの自宅の方へと向かって行った。訳が分からずワタシはとりあえずアリーの後を追いかける事にした。
向かった先、着いたのは当然ながらシュナイターの自宅前だが、家の中で何か争っている様な声や物音が聞こえてきた。何か嫌な予感がし、怱々に家の中へと断りも無く入っていくアリーの後に続き、失礼しますと声に出してワタシも家の中に入った。すると、そこでは何者かに両手を捕まれ、襲われそうになっている娘さんが目に入った。
「だっ誰か!」
「チッ!見られたか。おい!こいつの命が惜しけりゃ」
娘さんを盾にし、何かを言い掛けた謎の男に向かってアリーは容赦なく跳び膝蹴りを喰らわせた。アリーの行動を目で追えなかったからか。男は蹴りをモロに受けてそのまま床に倒れた。倒れて気絶した男を他所に、ワタシは男から解放されて床にへたり込んだ娘さんに駆け寄った。
「大丈夫ですか!?今の男のヒトは一体!?」
「…分からない!突然家に押し入って来て、もう一人が家の奥の方に行って!」
そう言って家の奥、もう一人の娘さんであるルピナスがいる部屋の方へと指した。
アリーは娘さんの言葉を最後まで聞かずに既に家の奥へと走って行っていた。相変わらず置いてけぼりなワタシは再びアリーの後を追いルピナスの部屋の方へと駆けだした。
部屋の扉は開け放たれており、そこから部屋の中を見ると、もう一人の侵入者であろう男を捕まえ、羽交い絞めにしているアリーの姿が目に入った。部屋の隅の方に目をやると、そこにシュナイターさんがおり、娘さんのルピナスをシュナイターさんが抱きかかえていた。
「大丈夫よ…大丈夫、大丈夫だからね。」
そう小さくシュナイターさんは呟いており、シュナイターさんに抱きかけられたルピナスは、怯えているのか母親の胸の中で小さくなり、嗚咽を漏らしていた。
男を気絶させたのか、手から男を離してアリーは背伸びをして一息ついていた。
「ねらいは結晶だろうね。初対面のおれがいるのに、堂々とあんなでかくて目立つ結晶を表に出しちゃうからね。もしかしたらだれかに目を付けられているかもって思ったけど。」
アリーはこうなる事を予想してここに駆け付けたと言うことらしい。確かに大事なものを知り合いだとは言え、簡単に
触媒と知っていればかなりの大物だし、知らない人から見ても大きな宝石に見えて、一般人でも喉から出が出るほど欲しくなるものであるのは間違いなかった。
しばらくして憲兵に通報したともう一人の娘さんが部屋に入ってきて、後の事は憲兵に任せるという事でこの場は治まったが、まだワタシは心が晴れないでいた。
「あの、今回はありがとう御座いました。」
悩むワタシに、娘さんが話し掛けてきた。思えばこの家に来てから、こちらの娘さんともまともに話していなかった。改めて自己紹介をして、それにぎこちなく笑いながらも娘さんもゼフィラと名乗った。
「今になって自己紹介するなんて失礼ではありますが、改めて、母と妹を助けていただき、ありがとう御座います。私は長女で、家を支えなければいけないのに、何の力になれなくて。」
「今回は仕方がありません。突然強盗が家に来るなんて、誰でも驚く事ですし、あなたも無事で良かったです。」
家に入って来た強盗相手に手も足も出なかった事にデフィラさんは心を痛めていた。それも当然だろう。もしもアリーが異変を感知せずにここに来なければ、誰か一人、もしかしたら全員命が危うかった。
「ともかく、今後は用心して、カギ…はお金が掛かっちゃか。何かしら予防した方がよろしいですね。」
「…そうですね。今家にお金も何も無いですけど、何か出来る事をやっておきますね。」
少しだけだがデフィラさんと話し、別れを告げて再びワタシとアリーは家を離れた。
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