第16話 夫人に話を聞く

 アリーの意味ありげな笑みを気にしつつ、久しぶりに会ったシュナイターさんの自宅へと招き入れさせてもらった。そこは他の小奇麗な建物とは異なり、年季が入り外壁には所々ヒビが入り、雑草も生えており裕福な生活を送っている人が居る場所では無いと一目で分かってしまう環境だった。


「とても汚いでしょう?こんな場所ですけど、ゆっくりしていってね。」


 シュナイターさんに促されて中へと通された。一歩建物に踏み入れると軋む音と共に誇り臭さが鼻に入り、咳き込むのを抑えた。

 外側も確かに古かったが、中も掃除はされているのだろうが、それでもどうやっても消せない古臭さが残っておりこの中で生活するのは苦行の様に思えた。

 そんな風に考えるのは現にこの家に住んでいると言うシュナイターさんには失礼なのは分かってはいても、とてもじゃないがワタシには住む事が出来ないと思った。

 そんな思考を巡らせていると、家の奥から誰かが来るのが音に聞こえた。姿を見せたのは自分と同い年くらいの少女だろう人物だった。


「母様!?どこに行っていたのですか!?朝から顔色が悪いというのに!」


 姿を見せた少女はシュナイターさんの方へと駆け寄ると怒鳴る様にしてシュナイターさんを気に掛けた。見た感じこの少女はシュナイターさんの娘さんなのだろう。体調を崩している母親を心配して怒っている様子だった。


「ちょっと散歩してきただけよ。部屋に籠ってばかりじゃ体に悪いでしょう?」

「だったら先に私に行ってよ!姿が見えなくて心配したんだから!」

「ごめんね。それよりも、ルピナスの様子はどう?」

「…さっき起きたところよ。咳とかはしてなかったから、調子は良いと思う。」


 娘さんの話を聞くと、シュナイターさんはワタシの方へと向き、どうぞと言い部屋を案内した。そして通された先は居間だろうか。こじんまりとしていたが、部屋の真ん中に置かれた卓に設置された椅子にワタシとアリーも一緒に席に着き、お茶を入れて来ると言ってシュナイターさんはどこかへと行った。


「…んで、シュナイターってやつってどんなやつなんだ?」

「やつ、とか言わない!…元はかなりの資産家の奥方で、五年位前に一度会っているのよ。話によると、旦那様が亡くなって家は没落したと聞いていたわ。」


 話には聞いていたが、今どんな暮らしぶりまでは連絡が途絶えていた状態だった為に知る事が無かった。故にこのまちに居る事も、どんな環境で暮らしていたかという話も知る事が出来なかった。まさかこんな環境で、しかも体調を崩していた何て驚き、今まで連絡が出来なかった事が悔やまれた。


「一度会っただけだけど、その時もこっちの事を気に掛けたり、優しくしてくれてたのよね。…話が出来たら何かしてあげれたのに。」


 公開の言葉を口にするワタシにアリーはもう興味を失ったのか、肘と建てて頬に手をやり、どこを見ているのか視線があちらこちらを向いていて退屈そうにしていた。自分から聞いておいてその態度がダメでしょうが。

 アリーの態度に毎度のことながら怒りを覚えていると、お茶を持ってきたシュナイターさんが戻って来た。そしてシュナイターさんも席に着いた。


「お茶…と言ってもほとんど出がらししかなくて。今はやりくりしていて手一杯なの。折角来てくれたのに、本当にごめんなさい。」

「いえ!そんな中突然家に上げろといったのはこっちですし、むしろこちらが謝らなければ。」

「ううん、本当に来てくれて嬉しいわ。そうだわ。折角ですし、娘にも会っていきませんか?」

「娘さんというと、もう一人いるのですか?」

「はい。もう一人は生まれつき体が弱くてね。外にも出れなくて私達以外のヒトと会う事も無くて。それがとても不憫に思えて。」


 娘さんが居るのは知っていたが、二人いるというのは初耳だった。当時はワタシの話相手をしてもらったものの、相手の家庭事情を深く聞くまではしていなかった。

 先程会った娘さんは健康そうだったが、もう一人は相当体が弱いらしく、立って歩くこともままならないらしい。その為いつも朝起きてから夜眠るまで気が抜けないとの事。


「あの…体が弱いのであれば、外部のヒトであるワタシが会っては病気をうつしまう可能性がありますから、会うのは控えた方がよろしいのでは?」

「そんな!折角来たお客さんをそんな風に扱うなんで失礼出来ません。もちろん手を洗うなどはしてもらいますが、少しの間娘の話し相手をしてもらうだけで良いので。」


 娘を気遣っているのか、それとも甘いのか知らないが、あくまで娘を想っての事らしく、シュナイターさんの方が折れる事は無さそうでした。それにアリーを見ると、何故かアリーの方は会う気が満々らしく目でワタシに会うよう訴えて来るのが目で判った。

 ワタシは溜息を吐きつつ、娘さんと会う事を了承した。何かしら異変があったら直ぐに退室すると言っておき、早速娘さんがいると言う部屋へと案内された。アリーも当然の様に一緒だ。


「ヒトは多い方が楽しいでしょうし、そちらのご友人もよろしければ、娘と話して下さい。」


 何も知らないシュナイターさんは勘違いしていたが、しかし訂正はしなかった。そもそもが説明出来る事柄でもないので、今は勘違いさせたままにしておく事にした。アリーも最初から便乗する気だったらしく、乗り気で友人として振る舞っていた。

 正直このまま会って本当に悪い影響がないか心配だが、こちらからこの家に来た以上、無碍には出来ずに流れのままに行くしかなかった。

 アリーに対しては強く出られるようになったかと思ったが、慣れただけで実際は弱いままだったみたいだ。

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