不幸な親子のお宝

第15話 知人に会する

 力があればなんでも出来ると誰かが言った。

 ソレは確かで、だからこそ多くのヒトが力を求める。

 そこには善人も、悪人も関係無い。


 今度着いたまちは以前いたまち二つと比べると小さく賑やかとは言えないが、それでも大きいまちには変わりない。まち中も穏やかで静かな雰囲気があった。ワタシはこういうまちの雰囲気が好きだ。


「このまちでは、魔法に関する店はあるのでしょうか。」

「あぁ、それならこの通りを進んだ先の角の所に」


 ワタシは情報を集めつつ、まちの中を散策していた。魔法に関するものを扱っている店や魔法に詳しいであろう有力者を探し、『目的』を果たす為尽力していた。


「えぇ?触媒がどこにあるかもう知ってるんだから、別に調べなくてもいいのに。」

「あのね、こっちが一方的に知っていたとして、前みたいに相手にしか知らない情報だってあるのよ?アンタの推理だって、ワタシが頑張って手続きして直接会う事が出来たから分かった事でしょ。」


 クラーク氏の本性はとんでもなかったが、最初に対面した時はとても穏やかで会う事も容易だった。しかしそれらだってこちらがある程度礼儀をわきまえていたからこその態度なのは分かっていた。

 もしワタシ抜きでアリー一人で問答無用で邸宅に押し入っていたら、あんな穏やかな態度を見せていたかと言うと、そうはならなかっただろう。

 そう考えると、やはりアリーはどこか常識が抜けていて、とても放って置く事が出来ない。だからこそワタシは一人でもこうして情報を集めようと考えて動いた。アリー自身は全く分かっていないが、それが心配に拍車を掛ける。


「ともかく!アンタもいきなり目的の場所に突撃しようとしないでよ!そっちから協力を求めてきたんだから、こっちはこちで動くから。」


 出会ってから時間が経ったからか、最初よりもアリーに対して強く言えるようになっていた。アリーと出会ってから彼の無謀とも言える行動を幾度となく見てきたから、今回も釘を刺しておかなくてはいけないと言う使命感が芽生えていた。アリーがワタシの言葉を聞くとは思えなくとも、ワタシ自身先に言っておく必要がある。

 そんなワタシの注意喚起を聞いて、アリーは不貞腐れた様な反応を見せた。口の先を尖らせて、明らかに不満である事をワタシに示すかの様に見せていた。


「そう言うけどさ、具体てきにどうすんのさ?」


 言われてワタシは口ごもった。口で言いはしたが、正直どうするかは決まっていない。出来れば穏便に済ませたいと言う気持ちはあるが、こちらは相手の持ち物を盗む前提である為、そもそもが穏便に済むわけがなかった。


「そういえば、このまちの誰が赤い結晶を持ってるの?」

「あぁ、それなら」


 アリーが言い終える前に、何かが地面に倒れる音が後ろから聞こえてきた。ワタシはアリーの言葉を待たずに後ろを振り返ると、誰かが確かに倒れていた。ワタシは姿を見止めるとすぐさま倒れたヒトの元へと駆け寄った。


「大丈夫ですか!?どこか具合が?」

「うっ…あぁ、すみません。」


 小さく呻きながらも、倒れたやつれた顔をした女性は半身を起してワタシの方を見た。無事であると言いたそうなその声色は、しかし未だ立ち上がれずによろける姿勢から見てとても安心出来なかった。

 ワタシはその女性が再び倒れそうになったのを見て、女性を肩に手をやり支えてやった。その時ワタシは女性の顔に見覚えある事に気付いた。


「あれ…あなた。もしかして、シュナイターさんですか?」

「えっ!えぇ、そうですが。あなたは…どこかで?」


 まさかの知り合いの出会いに、ワタシは思わず礼儀を忘れて女性の両の肩を自分に両手で掴み、詰め寄ってしまった。女性ことシュナイターさんは驚きつつも彼女のワタシの事を思い出したのか、同じく驚きの表情を見せて声を上げた。


「あら!?もしかしてソニアちゃん?」

「はい!お久しぶりです。」


 互いに互いの事を思い出したからか表情から不安な雰囲気が消え、懐かしさから今度は手を取り合い喜びを分かち合った。しかしワタシはシュナイターさんが先ほどから地面に倒れていた事を思い出し、慌てて手を引いて立ち上がるのを助けた。


「有難う。ごめんなさいね、会ってそうそうにこんなカッコ悪い所を。」

「いえ…それにしても、本当に大丈夫ですか?顔色も悪いようですし。」

「少し疲れてただけよ。ソニアちゃんの顔を見たら元気が出たわ。」


 当人は言っているが、ワタシに目から見ても大丈夫そうには見えなかった。立ち上がりはしたがまだよろめいている様子だし、失礼な事だが倒れた時に覗いた手足もとても細く見えた。

 ワタシはアリーが一緒にいる事を忘れて、シュナイターさんにお願いをした。


「あの、よろしければご自宅までご一緒いたしましょうか?まだ万全ではない様ですし、またお会い出来たから、もう少し話をしたいです。」

「あらそう?…そうね、狭い場所で宜しければ、お茶でもお出しいたしますね。」


 遠慮がちにシュナイターさんはワタシの提案に乗ってくれ、ワタシはシュナイターさんのご自宅まで同行する事となった。するとシュナイターさんがワタシの後ろの方に視線をやって。


「あの、其方の方はソニアちゃんのお友達でしょうか?宜しければそちらもご一緒にどうですか?」


 シュナイターのその台詞を聞いて、ワタシはやっとアリーの事を思い出してアリーの方へと勢い良く振り向いた。そして振り向いた先のアリーの表情を見て、ワタシは別の事も思い出した。

 アリーはそれは楽しげに、まるで悪戯が成功した悪ガキの様な笑顔をしていた。シュナイターさんはその笑顔の意味にも気付かずに、ワタシの友だちだと思ったまま優しい笑みを浮かべていた。

 ワタシはアリーの笑みを見て、先ほどまでワタシとアリーとで何の話をしていたかを思い出す。

 このまちには『盗み』をするために来た事。肝心の盗み先はどこの誰かと言う事。そしてアリーの意味ありげな笑みを合わせたら答えは察する事が出来た。

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