第14話 物思いにふける
アリーが触媒である赤い結晶を手にして邸宅を離れたからか、魔法に掛かっていたとされる留置所の見張りや警備のヒトも正気付き、まるで夢から覚めた様な感覚に皆頭を捻ったらしい。
しかし直後、目が覚めたクラーク氏の息子が助けを呼びに来た事により余韻は掻き消され、誰にも知られなかったクラーク氏の邸宅の地下室の存在が知られる事となった。
その部屋の床には巨大な魔法陣が描かれており、部屋に入ったヒトは皆、一体何をする部屋なのかと疑問に思ったがソレも直ぐに掻き消えた。
壊れた謎の傀儡に、その傀儡の腕であろう巨大な部品の下敷きになったクラーク氏が発見された。何とか救助されて、下敷きになっていた下半身は重傷ではあったものの命に別状がなく、そのままクラーク氏は医療施設に入れられる事となった。
その後、後遺症が残り歩けなくなったものの意識が戻ったクラーク氏だったが、カーペンタ氏と同様に魂が抜けた抜け殻の様になっていた。
一体クラーク氏に何があり、地下室で何があったのかは誰にも分からず事件は迷宮入りとなった。
その後のクラーク氏の事も、クラーク氏の商売の事も、息子の事もどうなったかはワタシ達は知らない。結局は他人であり、ワタシ達には関係の無い事で、何よりワタシとアリーは既にまちを離れている為に事情を聞く事がもうないからだ。
馬車を乗り継ぎ、休憩の為に停車して木陰で御者や他の客が休んでいる中、アリーは木陰で手に入った赤い結晶二つを並べて見ていた。
「うんうん、この調子が続けばすぐだな。いやぁ、今回もてこずったぜ。」
「…ねぇ、あそこまでする必要無かったんじゃないの?」
嬉しそうに、そして楽しげに独り言を呟くアリーに対してワタシは問いかけた。
前回は結界の中に入る為に侵入し、そしてカーペンタ氏の企みに巻き込まれたために強硬手段に出たが、今回はワザとクラーク氏を怒らせた結果、強硬手段を取らざるおえなかったと言えた。
「別に今回は結界が張られてたワケじゃなかったんだから、こっそり侵入して盗み出せば良かったんじゃ」
「いや、結界は張られてたよ?」
あっけらかんとアリーは言ってのけた。意味が分からないワタシが口を出す前にアリーが言った。
「おれ、魔法の力がどこから出てるのかってのがわかるから、地下室があるのもわかってたし、地下室に触媒があるのはわかってた。
んで結晶はあの地下室の床に埋まってんだけど、あの床もけっかいが張られてて、普通だったらそのけっかいを破るのに手こずってたし、そもそも魔法陣を書き換える事だって出来なかったんだよ?
つまり、おれがあのおっさんを怒らせて、おれがおっさんにとって敵だと思わせる。そしておっさんは敵であるおれを倒すのに全力を出した。そのせいでけっかいの力が弱まって魔法陣を書き換えられて、ついでに結晶も取れるようになったって事。」
つまり今までのアリーの行動は、全ては結晶を手に入れる為の策だったという事だとか。それにまんまとワタシも引っかかった様な気分になって話は理解出来たし納得出来たが、それでも憤りを感じた。
今回のクラーク氏の話は、原因はクラーク氏自身が後を継ぐことを強要された事だが、同時にクラーク氏と息子さんのすれ違いのよる悲劇でもある。
クラーク氏は我慢してやるたくない仕事を継いで今に至ったと言っていました。そして今度は息子さんにも同じように跡を継ぐように強要して、そして拒絶されたと言っていましたが、実際はどんなものだったにだろうか。
「さぁね。でもあのおっさん、自分がしかたなく後を継いだって言ってたけど、本当の所継ぐ必要なんてなかったかもね。ただ周りからの期待で勝手にそう思い込んでいた、とも思えるよね。知らんけど。」
アリーの言った事はありえない事でもなかった。性格が真面目なヒトほど、周りの期待に応えようとするあまり自分で自分を追い込む事は多々ある。
しかし今となってはそれも仮説に過ぎないし、最早手遅れである。もうワタシ達がクラーク氏に対して何かをすることは出来ないし、必要だって無い。
「…ところで、クラーク氏の亡くなった奥さんって、クラーク氏が…やってしまったのかしら?」
「自分で『消した』って言ってたし、そうなんじゃない?」
完全にアリーからはクラーク氏への関心は無く、結晶を眺めるながらした返事も空返事の様だった。ワタシの方はそうではなかった。
そんなアリーの態度に苛立ちを覚えるのも、私の性分故かも知れない。あのクラーク氏もこんな気持ちだったのだろうか。
「あっ休憩終わりだってさ。早くもどらないと置いてかれるぞ。」
「はいはい。」
魔法の触媒である赤い結晶を手に入れる事がアリーの目的であり、それ以外の事はただの置物か障害物でしかない。それがアリーの主観なのだろう。
ワタシはあくまで脅されて、巻き込まれただけに過ぎないが、今回の様に結晶を盗むだけで人生を断たれるのはこれからあとどれくらいいるのだろう。
いや、もしかしたらあの結晶を手にした時点で、その持ち主の人生は既に終わっているのだろうか。そこまで考えてワタシは首を振り、思考を断ち切った。
今は関係無い、そう考えるしかない。アリーと協力する事も、邸宅に侵入する時や地下室での時の様にするのもワタシが決めた事だ。でなければ、ワタシが旅に出た意味が無い。
アリーがワタシに魔法陣を書き換える事を頼んで来た様に、少しずつ心を許していけば、きっと隙が出来る。その時までワタシも、アリーの様に無関心でなければならない。
今は耐える時なのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます