第13話 悪党に説教をする
クラーク氏が描いた魔法陣の書き換えをする為に、アリーが囮となり無事に作戦は成功した。しかしクラーク氏は最後の足掻きかの様に再び何かを始めた。
それにより床が光を放つと傀儡も光り始め、呼応する様にして壊れた
「あーっと。これはまたまたそーてー
相変わらず呑気そうな口調だったが、先程とは違い冷や汗を流して更に巨大となった傀儡を見上げて後退りしていた。そんな逃げ腰となったアリーを逃すまいと傀儡は巨大になった腕を振り上げて、アリー目掛けて振り降ろした。轟音と揺れと共に土埃が舞い、ワタシは横たえたままのクラーク氏の息子を支えながら自分に襲い掛かる衝撃波から身を守った。
思わずアリーの名前を叫びそうになったが、名前を出すのは不味いかと思ってしまい何も言えず、アリーが立っていたであろう、傀儡が腕を振り降ろした場所を凝視した。
何の声も、反応も無くワタシはアリーが本当に潰されてしまったのかと思った。
「はっはははっ…はははははは!どうだ!散々言ってきたからそんな目に遭うんだ!そうだ、全部お前のせいだ!私に勝手な事ばかり言って、私の邪魔までしてきて!」
アリーが潰されたと思ったのはもう一人いた。クラーク氏は歓喜の声を上げていた。
「いっいくらなんでも、これはやり過ぎ…いや、そんな場合じゃない。
クラーク氏!魔法陣まで使って、息子さんに精神
「煩い。」
笑い声を止めて、話し掛けてきたワタシの方へとクラーク氏は振り返った。その目は正気が感じられず、まるで感情が抜け落ちたかの様なクラーク氏の表情を見てワタシは怖じ気着いた。
「あぁそうだよ。私は別に家がどうなろうと、どうでも良かったんだよ。仕事を継ぐのだって本当は嫌だったんだ。なのにちょっと才覚を見せたら皆して後を継げ、後を継げってよぉ?
親も他の大人も話を聞きやしない。逃げ道なんぞ最初から私には無かったんだ。だから継ぐしかなかったんだ。
だから私は真似をしたんだ。親が継げと言ったから私も親として息子に継ぐように言ったんだ。なのに息子はそれに反対した。しかも妻まで息子の肩を持ちやがって。
息子にも自分の意地があるからそれを尊重しよう、ってな。ふざけんじゃねぇ!」
薄い生地の袋が限界まで膨れ上がり、そして破裂したかの様にクラーク氏の口から言葉が溢れ出た。怒りに満ちたその声は、大人であるクラーク氏を年端もいかぬ子どもに見せた。
「皆して煩くて五月蠅くってよぉ。だから『消した』っていうのに、今度は余所者まで煩く言ってきやがってよぉ?あぁもうどうでも良い。もう我慢してるのも馬鹿馬鹿しい。」
クラーク氏には最早自分の行動を止める理性は無かった。クラーク氏はワタシに向かって手を翳して歩き出した。
「お前もこの場所を、私を見たからには生かしておけない。また『消して』儀式の続きをしなくては。」
先程までの荒々しく声を上げていたとは思えない程か細く、弱弱しく呟いていた。そんなクラーク氏から逃れようとワタシは未だ目覚めないクラーク氏の息子を持ち上げて逃げようとしたが、年下であってもワタシ一人ではヒト一人持ち上げて動くのは無理だった。
絶対絶命だと思ったその時、まるで英雄の様で、実体はそうではない人物の声が聞こえた。
「あーくっそ!重てぇ。しかもこわした魔法までもどってるし、二体分の魔法もかかっててちょっとてこずったー。」
愚痴を言いながらも巨大な腕を両手で抑え込みつつ、衝撃で出来た穴から顔を覗かせてアリーはしゃがみ込んだ体勢から少しずつ立ち上がっていった。
誰の目から見ても持ち上がるハズが無いと分かる傀儡の腕を持ち上げる光景に、ワタシもクラーク氏も口を開けたまま茫然と見ていた。
先に口を開いたのはクラーク氏だった。
「なっ何なんだお前は!?傀儡を素手で倒すばかりかあの一撃を受けて生きているなんて、お前はヒトではない!」
目の前の光景を否定したいばかりに口走ったその台詞にワタシも同意しかけた。
「だからおれの事はいいんだってば。つか、自分の話をだれも聞いてくれないとか言いながら、おっさんだってヒトの話ぜんぜん聞かないじゃんか。息子さん、言ってたよ。」
アリーは両手で傀儡の腕を持ち上げながら話を続けていた。
父さんは、僕が後を継いで自分がしてきた事を肯定したいんだよ、きっと。そうでないと、我慢を続けた自分自身に落ち潰されてしまうかもしれないから。
だから僕、父さんから離れて父さんに考え直してもらいたいんだ。父さんだって我慢しなくて良い。僕も好きな事をするから、父さんも仕事から離れて好きな事をしてって。
「息子のする事におれは、そりゃむりだろ、って思ったけどさ。でも別におっさんの事無視して好き勝手しようとしてたわけじゃないんだぞ?あいつになり、父おやに何かしてやりたいって考えていたんだ。
それをおっさん、お前は家のためとうそをつき、しまいには息子に責任をおしつけようとした。まじで救いようのねぇばかだな。」
アリーは呆れた様子だったが、その表情にはどこか怒りが含まれているようにも見えた。そんなアリーの言葉が届いたのかいないのか、クラーク氏は怒りを噴気した。
「煩い五月蠅いうるさいウルサイぃいいぃぃい!お前なんぞにお前なんぞに何が」
「いやお前がうるさい。」
言ってアリーは両手で持っていた傀儡の腕を引きちぎり、そのまま引きちぎった腕をクラーク氏目掛けて投げつけた。部屋に再び轟音が響き、辛うじて動いていた為にワタシと息子さんは巻き込まれる事無く逃れた。
「ってダメじゃないの!人ジに出しちゃ!」
「だって、ほんとうにうるさかったんだもん。」
反省を見せないアリーにワタシは更に怒鳴りつけたが、砂埃が舞う中で微かに物音がしてワタシとアリーは音のした方を見た。そこには傀儡の腕に下敷きになりながらも息をして、呻きもがくクラーク氏の上半身が見えた。
「ありゃ!運が良いなぁ。いやっさすがおれ、うまく手かげん出来た!」
「じゃないでしょ!早くヒトを」
「何言ってんのはそっちだって。まさか目的をわすれたか?」
そう言い、慌てるワタシを他所にアリーは魔法陣の方へと歩いて近寄った。そして魔法陣の中心に立つと、床目掛けて右腕を突き出すと床に腕がめり込み、そしてアリーが床にめり込んだ右腕を引き抜くと、その手にはあの赤い結晶が握られていた。
「やっぱここにあった。そりゃ、これ使わなきゃ魔法陣を動かせないだろうし。そんじゃっ
アリーは結晶を自分の懐にしまうと、狼狽えるワタシを置いて行こうとしたので慌ててワタシはアリーの後を追った。
気絶したクラーク氏の息子と、傀儡の腕に下敷きになったままのクラーク氏を置いて、その部屋を誰にも知られずに出た。
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