第12話 部屋に押し入る
とある暗い空間、そこでは床に描かれた大きな『模様』が光を放ち、その模様に向かって手を翳す男が何かを呟いていた。そして模様の中心には少年が横になって眠っており、今起きている事に全く気付いている様子は無かったが、まるで悪身でも見ているかの様に
「おぉー!まじでどんぴしゃだった!」
そんな異様な雰囲気の中を割って入る様に楽しそうな声がその空間の中を反響し響いた。模様に向かって何かを粒やていた男は驚き声のした方へと振り返った。
「どうもーさっきぶりだねぇ。えーっと…くらーく、つったっけか?」
名指しをされて男、クラーク氏は声の主であるアリーの顔を睨みつけた。
「…君は確か、ソニア嬢の護衛を務めていた少年だったね。君は確か今、留置所に入れられているはずだが、何故ここにいるのだね?」
「あぁ、おれの事はいいから。それよりもこれ、やばいんじゃない?特にこれ。」
言ってアリーが指差したのは、今正に魔法が発動するであろう、発光している床に描かれた魔法陣だった。ワタシもこの部屋の中を見て真っ先に目にしたその魔法陣を見て、正気を疑った。
ワタシは魔法は使えないが知識だけは備わっていた。だから魔法陣に描かれた模様、魔法使いとしての用語でいえば魔法の中身を表す『術識』の意味を理解出来た。
精神、操作、変化、読み取れた術識を見てワタシも、そして真っ先に気付いたであろう魔法陣がもたらす効果をアリーも気付き口にした。
「これ、『精神をねじ曲げる魔法』だよね?だめだなぁ。おっさん、『魔法の三原則』を知らないの?魔法使いじゃない子どもでも知ってる事だよ?」
アリーの挑発的な台詞にクラーク氏は眉間のシワを深めた。
アリーの言う『魔法の三原則』とは簡単に言えば魔法でやってはいけない
一つ目に魔法で『命』を操ってはいけない。ヒトの命を故意によって直接奪う、蘇らせる事は命を弄ぶ行為だと知らしめるものだ。もう一つに『時間』を操ってはいけない。これは『不可能の代名詞』とも言われ、例え出来たとしても世界の混乱に陥れる事になるからと言われる。
そして最後の一つが『心』を操ってはいけないというものだ。
「ヒトの性格、考えを魔法で無理矢理変えてはいけない。それは個人をそんちょーしない、りんり感のない行いだってね。いくら昼の事で怒ってるからってそこまでするのはおかしいでしょ。
それともおっさんの方がすでに魔法で頭がおかしくなってるのかなぁ?こんな部屋を地面の下に作るくらいだしねぇ。」
そう、ここはクラークの邸宅の下、地下に当たる場所にある部屋だ。アリーは「ヒトが隠れて何かをするならどこがいいか」と聞いて来て、ワタシが真っ先に思いついたのがカーペンタ氏の時の様な地下室という答えだった。
そうしてクラーク氏と話をした部屋へ行き、そしてアリーが目を付けていたと言う部屋に置かれた大きな本棚を漁った所、地下へと下りる階段を見つけた。というのが現状に至る前の事だ。
結果としてアリーの言う通りクラーク氏は地下室におり、明らかに人道的とは言えない事を行ってない事が発覚した。そんな決定的な現場を見られたクラーク氏に対して、最早相手を怒らせる事だけを目的にアリーは喋る続け、そしてクラーク氏はアリーの挑発に乗った。
「…さまに、貴様に何が分かる!?私はただ親から、そして先祖から続くこの家を守る為に今まで生きてきた!それを事もあろうに息子が否定したのだ!それを許すなど」
「あのさぁ、まだそんな事言ってるの?いいかげんたて前ばっか言ってておれ、あきてきたんだけど。」
まるで吊るされた布を押すかの様にアリーはクラーク氏の怒りの形相を気にせず、呆れたと言わんばかりの表情で欠伸までし出した。
その様子を見たクラーク氏は、怒りの形相を抑え込み何かを呟き出した。すると部屋の壁際、そこに置かれていた槍を持つヒトの形をした大きな彫像が揺れ出し、するとその彫像の腕が動き出し、次に足が動き二体の彫像が共にアリーの前に躍り出た。
その二つの彫像は魔法で操られた
「うわぁ…どっちも
呑気な事を呟くアリーにクラーク氏は容赦なく傀儡を操り、二体の傀儡は持っている槍の刃をアリーに向けて思い切り付き出した。それは固い石製の床も貫いたが、アリーは大きく跳んで躱した。そのまま天井に足を付けて、態勢を整えてから床に着地した。
そして床を貫いた槍を持って茫然と立ち尽くす傀儡の死角に入り、既に布が解かれていた右腕の傀儡目掛けて突き上げた。拳が傀儡の一体を打ち砕くと、次にもう一体の傀儡にも腕を振るい、もう一体の傀儡も殴り壊した。
壊され、床に大きな音を立てて倒れる傀儡を見てクラーク氏は唖然とした後に焦り見せた。
「そんな…最も硬い素材で作られた上に、強固な防御魔法が施された傀儡のはず!」
クラーク氏いとって、傀儡がヒトの手、それも素手で壊される事は完全に想定外だっただろう。ありえない事が今目の前で起こり、未だ事実が頭に入らず狼狽えていた。
「あぁ、やっぱりそういう魔法がかけられてたのか。そういう『手ごたえ』感じたもんな。でもざんねん、おれにはそういうのは効かないんだよね。
それと、おれの方ばっか見ててだいじょうぶなの?」
そう言い、アリーはクラーク氏を別の方を見るよう促した。アリーの言う事を察したクラーク氏はすぐさま背後に振り返り、そこに自分で描いた魔法陣を見た。しかし、魔法陣は既に効果の持続を報せる発光をしておらず、魔法陣の中心で横たえているであろう息子の傍にヒトが立っている事に気付いた。
ワタシは魔法を使い事は出来ない。しかし、本来見えないハズの魔法が可視化されたものとされる魔法陣の書き換えなら可能だ。
ワタシはアリーが隙を作っている間に魔法陣の一部を書き換え、別の無害なものへと変えていた。ここまでは全て、アリーが移動中にワタシに聞かせた作戦通りだった。
「おっさん、何かに夢中になると周りが見えなくなる
作戦が成功した事により、アリーは既に終わったかのように振る舞い始めた。しかし、ワタシにはまだイヤな予感が残っていた。終わっていないと今も考えていた。
「…まだだ、終わってなどいない。」
俯くクラーク氏が何か言っている。聞き取ろうとアリーがクラーク氏を覗き込もうとすると、クラーク氏は突如しゃがみ込み床に手をつけた。すると床全体が淡く光を放ち、同時に壊された傀儡も光り始めた。
ほら、イヤな予感が当たった。
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