優秀な商人のお宝

第8話 目的地に向かう

 誰だって強い力を求めるものだと思っている。

 必要だから、欲しいからと誰もが求めている。

 でも、力は望まぬ形で手にする事をあるし、全く違うものを有する事だってある。


 金持ちの生まれて、そんな生活から抜け出す様にして一人旅の最中でワタシは一人の少年と出逢った。年はワタシよりも年下だろうか。詳しくは聞いていないが、そんな人物からある誘いを受けた。


「お前、おれと一緒に泥棒をしろ。」


 今思い出しても、どんな誘いだよ!そう思ってしまう。

 とある裕福なまちで一人宿に泊まり休んでいる最中に、みすぼらしい恰好の少年から脅され、非常に不本意ながら泥棒の片棒を担ぐ事となった。

 現在その共犯関係から抜け出せず、未だ泥棒主犯であるアリーの監視の中旅を共にしていた。なんでも盗んだ魔法の触媒である赤い結晶は他にもあるらしく、アリーが知る所によると今所有している結晶と合わせて9個存在するらしく、残り8個の行方を追っている最中だとか。


「一体どこでそんな情報を手に入れたんですか?」

「ないしょー。」


 聞いても素知らぬ表情で同じ事しか言わない。協力しろ、とは言われていないが、少なくとも犯罪に付き合わせたのだから、こちらにも情報を渡しても良いと思う。

 って考えている時点でワタシも犯罪に乗り気になっていると自己嫌悪となり口に出来ない。自分自身で難儀な状態になってしまった。


 そんな会話を移動中の馬車の中で揺られながらしていたから、きっと他の乗客に変な目で見られているだろう。

 何とか小声で話しているが、アリーが気にせず普通の声量で話すものだからワタシまで奇怪な目で見られてしまう。言っても聞かないからなんとか目立たない様こちらが頑張るしかない。ただ話すだけでなんでこんなに疲れているのだろう。


「…良いわ。情報の出所を聞くは諦めるとして、これから行くまちのどこを目指すの?」


 今馬車が向かう先は知っているが、そのまちの中のどこに行こうとしているのかまだ聞いていなかった。それだけを聞く事なら出来るハズ。


「次も金持ちだ。クラークっていうやつで」

「えっ!次のまちでクラークって言ったらあの!?」


 聞き覚えのある名前だったから、つい声を荒げて立ち上がった。他の馬車の乗客に御者も驚きワタシを見た。気を付けようと決めた直後の自分の失態に顔を赤らめ、謝罪をしつつ静かに席に座った。

 そんなワタシをアリーは憐れむような、失笑の様な表情をしてワタシを見ていた。他のヒト相手ならただ恥ずかしいだけだが、アリー相手はただただ腹が立つ。

 だが今は問題となる人物だった。


 次向かうまちは先程いたまち程ではないが大きく治安の良いまちだと聞いている。前回の事もあり安心は出来ないが、どこへ行っても用心はすべきだろう。今回は仮初ではあるが護衛がいる事だし。

 そして問題のクラーク氏だが、アリーの言うクラーク氏は恐らく行商で一代を築いた富豪だ。今は行商は行っていないらしいが、それでも血筋と言うべきか、先祖から受け継いだ才覚により商売は発展していき、現在では名前を知らない業者はいない程だ。


「そこに赤い結晶、触媒があるの?」

「下手にどこかに売り飛ばしていない限りはある。」


 アリーは断言した。本当に知っているという事と、相手がまだ触媒を所有していると自信があるらしい。

 そこまでは良い。また盗みを働くことに抵抗こそあるが、徐々に慣れつつある自分にも呆れたが、もうそれは諦めた。今は自分の身と相手の目的が無事に達成する事だけを考える事にした。


「さて、着いたらまずはめしだ。腹がへっては何とか、だしな。」


 そこは濁さなくても良いのでは?と思ったが言う必要も無いかと黙った。

 また他人の物を盗む。犯罪であるこの行為を受け入れつつある自分の気持ちを無視して見えてきたまちの風景を馬車の窓から眺めていた。


 着いた町はやはり広くて建物も大きい。あらゆる商業の拠点となる建物やその住まいがいくつか見える。そしてその中心には件のクラーク氏の拠点であり住まいでもある建物が今目の前にあった。


「って、いきなり突入する気!?普通下調べとかするものじゃないの!?」


 アリーの方も完全に中に入る気満々で建物の入り口前まで来たから、ワタシは慌てて止めに入った。そんなワタシにアリーは逆にワタシに疑問をぶつけるかのような表情を見せた。


「何言ってる。そのためのお前だろ。金持ちなら金持ち同士であいさつなりで家に入れるだろ。」


 アリーの言った言葉にワタシは眩暈がしてきた。


「あのね!金持ちだからってどこにでも簡単に入れたりは出来ないの!こういう時は事前に連絡して予約アポイントメントをとってからでないと会う事だって出来ないのよ!?」

「はーそうなのかぁ。なんだかめんどくさいんだな。」


 あっさりとアリーが言ってきて、ワタシの眩暈は酷くなった。

 カーペンタ氏と対面した時と言い、館に侵入する時と言い多少は知恵と常識を持っているかと思っていたが、そんな事はなかったらしい。

 いや、そもそも常識なんて持っていたらヒトの泊まる部屋に侵入したり、泥棒の共犯を脅してきたりはしないか。服も体も汚れた状態で館に入ろうとしてたし、その時点で判るべきだった。


「ともかく、挨拶に行きますって連絡の手紙を書くから、どこか適当な宿をとりましょう。食事だってそこらで買った食材をそのまんま食べただけだし。」

「りんご、うまかったぞ?」

「そういう問題じゃないの!」


 こうしてアリーを説得し、ワタシは宿で手紙を書いて出した。それから返事が来るまでまちに滞在し、ワタシはクラーク氏に関する情報を収集した。

 アリーは情報なんていらないと言わんばかりにまちの中を散策したり、宿の部屋でゴロゴロしたりと自由気ままに過ごしていた。酷く暇そうにしていたが、盗みに必要な事だと説得が効いたのか、文句を言って来る事は無かった。案外聞き分けが良い。

 そしてクラーク氏に関してワタシが知ったのは、やはり目的となるクラーク氏はワタシの知る人物である事と、彼に着いての詳細だった。

 クラーク氏は幼い頃からその才覚が現しており、家族だけでなくまちでクラーク氏を知る者達からの期待に応え、年若くしてトップに立ち、今も商業に関してあらゆる権利を有していた。

 性格は堅実で、周りにも自分にも厳しい姿勢を見せ、唯一の身内である息子にも厳しく接し、後継者として育て上げている最中だとか。


「唯一?奥さんとかいないの?」

「両親は既に他界、奥さんは息子さんがまだ幼い頃に亡くなっているみたい。元々体の強いヒトではなかったらしい。」


 ふーんとアリーは疑問が解けた途端に興味を失い、また寝台の上で寝ころび昼寝をし始めた。相変わらず自由なヤツだと呆れた。

 そして手紙の返事は思っていたよりも速く来た。使者と名乗る人物から手紙を受け取り、是非住まいにお越しくださいと言う文字を眺め、アリーに事を伝えた。途端にアリーは笑顔で跳び上がり着地した。


「やっとか!よし、さっそく行くぞ!」

「だから!護衛が護衛対象ワタシを置いて行こうとするな!」


 こうしてワタシとアリーはクラーク氏からの訪問の許可をもらい、再び屋敷前へと訪れた。

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