第7話 盗みに成功する
後日聞いた話になる。
どうやら防音が完備されていたというあの空間だったが、あまりの衝撃によりやはり外にも異変が知られ、何人もの警備兵が立ち入ったが、中の有様を見て誰もが唖然としたと言う。
あるものは怯え蹲り、部屋の隅で震えていたりと、中には檻の中で息絶えた者や、生きてはいたものの正気を失っていたりと、様子は様々だが檻に入れられた者達の存在が知られ、駆け付けた兵士によって皆救助された。
中には行方不明となった後に死亡扱いとなっていた有力者までいたものだから、現場はかなり騒然となっただろう。
そして問題のカーペンタ氏だが、当然身柄を拘束される事となった。
辛うじて正気を保っていた人物からの証言で、カーペンタ氏があの空間で行った所業が知られる事となり、これもまた世間を騒がせる事となった。中には人身売買までしていた事もあり、衝撃を受けた者は少ないない。
しかし、カーペンタ氏自身がまるで抜け殻のような状態となり、まともに喋れないどころか立ち上がる事も出来なくなっており、こちらは精神的な医療機関に入れられる事となったとか。
当然罪には問われるだろうが、当人の状態が状態なだけに、後処理にかなり困らされているという。
ちなみにあのヒドイ有様を更にヒドイ状態にした犯人であるアリーに関しては、薄暗い部屋の中での出来事であった事と、突如ヒトが怪物化し暴れ回った事による混乱で、何も分からず目撃者もいない状態。生き残っていたヒトにも突然の事で何が何だか分からなかったと言っていた。ワタシの事も混乱の中で見失い、誰にも知られていないという事となっていた。
まぁ実質ワタシには何の罪も無い。あくまで招待された客の一人であり、今回の監禁事件に巻き込まれた被害者にすぎない。今更発見されてもどう反応すれば良いかと考えていると、フと思いついた。
もしもアリーに引っ張られる事無くあの場に残っていれば、アリーの恐喝やら監視から逃れられて自由の身になっていたのではないか?
そこまで思いつくとワタシは後悔の念に襲われた。今更言っても時間も経ち、噂の足は早く既に事件は世間知られているから、その騒ぎに便乗して同情を買おうとしているイタズラと思われてしまう。
アリーに何故あの時、ワタシまで外に連れ出したのかと聞いた。
「お前にはまだ『利用価値』があったからな。ついでだ。」
元気良くあっさりと返ってきた答えは本当にヒドイものだった。つまりワタシにはまだ自由が無いという事か。しかもただ金持ちだからと言う理由で共犯にまでさせられて、理不尽極まりない。
そんなワタシの不幸な身の上は大事だが、それ以外に気になる事がある。
「…その結晶って、結局なんなのよ?」
ワタシが指した先、アリーがさっきから嬉しそうに眺めている赤い結晶体が一体何なのか、ワタシはまだ知らずにいた。持ち主であったカーペンタ氏とアリーは知っている様子だった。
「こいつは魔法の触媒だ。さっき見ただろう?こいつを使ってあのおっさんは魔法の力を使い、けっかいを張ったり自分を強化していた。まぁ形はいびつだったが、けっこうやばかっただろう?」
確かに結界ならまだしも、自信の強化であんな怪物に変身してしまうなんて、普通ならありえない事だ。魔法によって姿を変える者はあるが、あくまでソレは見た目だけをそう見せるだけの幻覚に近い。
もしも本当に体その物を変えるような魔法があるのならば、それは違法だ。体に直接影響を及ぼす魔法は後遺症が残る可能性がある。故にそういった魔法は禁じられているし、何より並の魔法使いでは扱う事が出来ない。
しかし、貴族であるだけで魔法使いだという話を聞かないカーペンタ氏は、いともたやすく危険な魔法を行使していた。それはあの触媒である、今アリーが持つ結晶体によるものだとしたら、この結晶は危険なものだ。
それと同時に、強力で便利な魔法具であると言える。
「アンタはなんでそれを盗ろうと思ったの?アンタも魔法の力を利用するため?」
「言ったろ。おれは魔法が使えないって。あのおっさんもそうだったが、多分もらったやつから魔法の事を聞いたんだろうな。知らんけど。
とにかく、おれは魔法も触媒も使い予定はない。」
あくまでカーペンタ氏の様に触媒を使う気は無いと言うが本当だろう?しかし違うのであれば、一体何の為に盗みまで働いて手に入れようとしたのだろうか?
「もしかして、それを悪用していたのを阻止しようとして?」
ワタシはアリーに問いかけた。ワタシが言ったアリーの目的であろう予想は半分は希望だった。もしもカーペンタ氏の凶行が続いていたら、どれだけのヒトが犠牲となっていたか、考えるのも恐ろしい。
もしもアリーがそんなカーペンタ氏の隠された裏の顔を偶々知り、それを阻止する為に泥棒と言う犯罪を犯してまで結晶をカーペンタ氏の手から離そうとしたのであれば、ワタシはアリーのやる事には賛同は出来ないが共感は出来ると思った。
「いや?ただほしいと思ったから。正直ほかのやつがどうなろうと、どうでもよかった。
他人がどうなろうなんて、他人であるおれが気にする事じゃない。」
アリーの口から出たのは、傍若無人なものだった。彼にとって目的はただ触媒である結晶体を手に入れる事。それ以外など眼中には無いのだ。
思えば確かにあの空間で戦いになったのはその為だろう。下手をすれば攻撃に巻き込まれて、ほとんどの檻に閉じ込められた人がシんでいたかもしれない。今回は奇跡的にケガをしたヒトはいただろうが、シんだヒトはい無かった様だ。見つかった遺体も、あくまで檻に入れられて衰弱したのが原因のものだったと聞く。
アリーの言う通り、彼自信は他が戦闘に巻き込まれる事など感上げていないし、結果がどうなるかも気にしていない。愚直なヤツであるとあの時見た光景既に証明されていた。
「ワタシをまだ利用するって事は、まさかその触媒ってまだ他にもあるの?」
「あるぞ。」
「ソレも?」
「もちろん手に入れる。じゃまするやつがいたらまたぶっ飛ばす。」
それだけだと彼は言った。そしてその言った事を今回と同様に実行するのだろう。
思えばもっと早くにまちを出ていれば良かったと思えた。まさか名前だけは知っていた『お優しい貴族様』がとんでもないヤツだったと知ってしまったり、そんな場面に巻き込まれたりと不幸続きだ。
そしてアリーは未だに欲しいものを手に入れる為に動いている。今ワタシ達二人は脱出後まちを出る場所に乗って移動していた。きっと行く先にアリーの次の目的の物があるのだろう。
それが誰のものもなっていないのであれば問題無いが、あれだけの代物が誰にも見つからずに放置されているとは考えにくい。きっと金持ちの誰かが入手したか、どこかに売られているか、それとも他にもあるのか。
考えても、どちらにしてもアリーがワタシを利用すると言っている以上、ワタシもまた巻き込まれるし、アリーと言う謎の怪力能力を持ったヤツが見張っている限り、ワタシは逃げられない。
だがそれで良い。
最初こそ戸惑ったが、今ワタシには明確な目的が定まった。まさかこんな形で情報が手に入るとは思わなかった。
今はとにかく従順にアリーについていよう。そしてアリーがこちらに対して気を許し、隙が出来たのならば。
アリーが手に入れた『
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