第5話 侵入者に目を付けられる

 その空間には、館の主であり空間の主でもあるカーペンタ氏と檻に閉じ込められたその他大勢がいるハズだった。しかし、そんな場所に檻に入らず、平然としている謎の人物にカーペンタ氏はただ驚き狼狽えていた。

 檻の中のヒト達もカーペンタ氏同様に何人かが驚いていたが、ワタシ一人だけがその謎の人物を知っており、皆とは違う意味で驚いてアリーを凝視していた。


「だっ誰だ!」

「あっ?なんだあんた。相手の名前を知りたいなら自分から名乗らねぇとだめなの、知らねぇのか?」


 そう言えばアリーはちゃんと自分から名乗っていたなぁ、と思い出して、直ぐにそう言う場合じゃないと自分に言い聞かせた。それよりもとんでもないものが目の前に現れた。

 アリーがいつの間にかこの場に現れ、檻を眺めつつカーペンタ氏の方へと歩み寄っていた。一体いつから、どうやってここに来たのか。その前に今までアリーは何をしていたのだろう。


「お前か。最近館の周りをうろついていた鼠は。」


 カーペンタ氏は、宴の最中に見せた温和な表情とも、先ほどの正気を失ったような楽しげな表情とも違う、まるで唸り声を上げて警戒する動物の様な雰囲気と低い声を出していた。


「おう、やっぱりきづいてたか。おかげで魔法のかべがかたくてかたくて、何度たたいてもこわれねぇから、いっそ客としてなら入れるかなぁと思ってな。

 そしたら案の定かんたんに入りこめたわけだ。油断しなぁ?おっさん。」


 アリーには魔法による結界が破壊出来る。そのハズなのに館に張られた結界を壊さずに面倒な手段をとった理由がそれだったらしい。


「困るんだよ。君みたいなのがうろつかれると、折角の趣味が興ざめになる。サッサと外に出てこの事を黙っているか、さもなくば君も檻にいれなくては。」

「はっ冗談!誰がそんなおっさんの趣味に付き合うかってんだ。趣味なら勝手にやってろ。まっほんとうにいやな趣味だよなぁ。でもおかげでここまで簡単に入ってこれたけどな。そいつがおっさんの趣味の範囲内に入ってたすかったぜ。」


 そう言い、アリーはワタシを指さした。アリーの言う『そいつ』とはワタシの事らしい。つまり、ワタシを連れてきたのは、結界を突破する為だけでなく、ワタシを囮にして中を探るためだったのか。

 最悪だ!さっきまで本当にひどいヒトが他にもいると思っていたら、やっぱり最初に会ったヤツが一番最悪なヤツだった!


「最初から私の事を探るために侵入したのか。てっきり金目当てかと思ったら、お節介な英雄気取りか?証拠でも見つけて私を憲兵か騎士団につき出す算段か?

 生憎だが、これでも『そういう所』でも私は知らせていてね。そう簡単には」

「あぁ!別にあんたがどんな犯罪してるかってのは関係ないって言うか、やりたいなら好きにやってれば?」


 あっけらかんに言ったアリーの言葉にワタシは違う意味で言葉を失った。ワタシもてっきりこの誘拐事件を暴く為に泥棒と言う名義で来たのかと思っていた。

 しかし見た感じ、金品目当てとも言い難い。一体何を目的にこんな場所に来たのか皆目見当がつかない。

 そもそもヒトが檻に中に閉じ込められていると言う状況なのに、眉一つ動かさず、あまつさえどうでも良いという発言に憤りを感じる。


「ここのけっかい、固いだけでなくこわしてもこわしても次々に復活してきりがなかったんだよ。よほど強い魔法の力を持ってるんだなぁ。

 もしくは、魔法の力を与えてくれる『触媒』を持っている、とか。」


 アリーの言葉に警戒しているカーペンタ氏が反応を見せた。


「…成る程、金品目当てでは無く『こちら』が目当てだったか。」


 そう言い、懐から何かを取り出した。

 それは赤く輝く大きな結晶体だった。円柱型で底面と上面に結晶体を抑え込むように装飾が施され、一見すると水晶の置物の様に見える。

 でも少しだけ魔法に精通しているワタシには分かる。あれは大きな魔法の力の塊だ。魔法を得意とする妖精種の様に魔法の力を視認することは出来ないが、肌から魔法の力を感じ取れるほど強い力を持っている。それ程の代物だと察した。


「本当に探したぜ?けっかいはこわせない、おっさんは館から出て来ない、おかげでどうするかなやんだぜ?

 ここの事は黙っててやる。だから『ソイツ』をおれにとっととよこせ。」


 そう言い、アリーはカーペンタ氏の持つ結晶体に向けて左腕を伸ばした。

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