第3話 ダンジョン!!
「? 別にあなたが謝る必要なんてないですよ。それより……。はぁ。まったくあの大家、いつでも侵入できるように手入れしておけって言ってたのによぉ。……蝋燭はまだ余ってたし、三角木馬も掃除したばっかだったよな?」
「あ、あのお……」
「あ、今のはこちらの話ですから! それでは中に入りましょう! 大丈夫です。あれくらいのモンスターあなた様なら数日で倒せるようになります」
「そ、そうですか」
案内人さん、俺ただでさえビビってんのに物騒な玩具の名前出すの止めてください。
その笑った顔が逆に怖さを増幅させるんですけど!
ま、まぁこういう人柄のお蔭でモンスターがどうでもよくなってるっていうか、その怖さが半減してる気もするっちゃするんだけどね。
うん。ダンジョンに入ることに全く抵抗感ないわ。
――パタン。ガチャ。
「ダンジョンに入った後は外にモンスターが出ないようにまずは鍵をかけてください。これ忘れるとペナルティが発生する場合がありますので気を付けてください」
「……」
「あの、聞いてます?」
「あ、す、すみません! いや、まさか建物の仲がこんなことになってるなんて思わなくて」
「……そ、そうですよね。こっちの人はダンジョンって見たことないですもんね」
部屋に入ると扉を閉める音も案内人への恐怖も吹っ飛ぶくらいの光景が俺の目の前に広がっていた。
洞窟タイプのダンジョンは光る石のお蔭で明るくて、幻想的、道は広くて天井も実際の建物の尺に合ってない。
ザ・ファンタジー。
アニメとか漫画とか、そんな世界。
それはつまり……俺の大好物。
隣人はむかつくし、ペナルティばっかなのも腹立つけど、俺……いや、おらワクワクしてきたぞ!
「このダンジョンは10階層が最終階層になっていて、ボスがその階層ごとにいます。大抵はそのボスを倒すことが次の階層解放の条件になってます」
「10階層……。案外浅いんですね」
「最初ですからね。そんなもんです。またモンスターは無限湧き、倒すと名前以外の情報が閲覧できるようになります。ちなみに名前はこう目を凝らすと確認できますよ。丁度いいのでこれで試してみてください」
「は、はい」
案内人さんはさっき倒した狼に似た黒毛のモンスターを持ち上げて近づけてきた。
えらい、ぐろい。
ちょっともどしそう。
できればそこはゲーム的に処理してほしかったんだけどな。
てか、このモンスター改めて見ると滅茶苦茶強そう。
なんかファンタジーものによくある展開で強いのが序盤に出てきちゃったパターンじゃないの?
……分かった! これ、実は主人公がチートスキル持ちで強いモンスター倒しまくってガンガン成り上がるやつや!
『――ザッコザッコウルフ』
名前、露骨すぎんか?
え? これが最低レベルのモンスターってこと?
……そういえば、さっきこれ倒すのに俺だと数日かかるって言ってたっけ。
あー。これ、ハード系ダンジョンものの匂いがするわ。
「自力で倒すとこれに攻撃力とかドロップアイテムとかそういった情報も足されます。それでこれが一番気になるところだと思うんですが、今度は心の内で『ステータス』って呟いてみてください」
きた。ドキドキの瞬間。
これで当たりの内にかを引かないとマジでハードモード入っちゃうからな。
頼む。魔法剣士、勇者、魔王、テイマー、つよつよ職業か不死身とか即死スキルみたいなぶっ壊れスキルこいっ!
◇
名前:日下部(くさかべ)拳(けん)
レベル:1
HP:10/10
攻撃力:2
防御力:3
職業:壁叩き師
物理系スキル:なし
魔法スキル:なし
持ち物:なし
状態異常:悪臭
◇
「……あの、これって当たりだったりします?」
「……。見たことはないので、ある意味レアだとは思いますよ。はは……。なるほど、匂いの原因って……」
ホログラムみたいに現れたステータスを案内人に見せた。
鼻を触りながらの苦笑いはどうしようもなく心にくる。
俺のパンツ、どんだけ臭いのよ。
「――がるる……」
「あっ! モンスターです! あとはこういうのを倒しまくってドロップ品集めて、そうしたら私のいる買取所が解放されるので頑張ってください! それと……HPが無くなると死にはしませんが、デスペナルティでレベルが下がったり、状態異常が悪化するので気を付けてください。他の説明については都度アナウンスが入りますのでそれで確認してください。ではっ!」
「あ、ちょっと!!」
気まずい空気がただよい始めたかと思えば早速ザッコザッコウルフ君が1匹割り込んできた。
そしてそれを機に案内人は完全に鼻をつまんで退散。
「最悪の出だしとしだよ、こんなん」
「がああああああっ!!」
こうして武器もなにもないまま戦闘は開始、壮絶な殺し合いの火ぶたがきられ――
「う、があ……。おえええ……」
「……。俺、マジでそんな臭い?」
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