第107話 新しい施設

 俺が子爵になってさらに一か月が経過した。


 これでクロイサ街が始まってから三か月が経ったことになるけど、驚くほどにあっという間に時間が通り過ぎた。


 そして本日、ようやく――――




「ワンワン~!」


 鳴き声を上げながらポチが広大な草原に向かって走り出す――――と見えるが、ここはようやく完成したドックランである!


 クロイサ街の東側から伸びている大通りは王都に繋がっている。


 その傍に作られたこちらの施設は、ポチだけでなく、馬車を引くホース達やそのほかの魔獣達の遊び場だ。


 俺が王様にお願いしたことは、ここに魔獣達の憩いの場を作りたいというもの。


 ある程度のお金を使えば、ポチや子爵家のホース達を遊ばせるサイズは作れるけど、ここまで広大な敷地となるといろいろ許可が必要だったので、王様に許可を求めたのだ。


 二次利用としてホース達や他の冒険者達が休息に来たときにどうしても連れの魔獣達に困ってしまうこともあり、ここで預かるようにしたのだが、一番の目的は――――うちのポチのためだ。


 楽しそうに思いっきり走り回っているポチを見て、自然と顔が緩んでしまった。


「ポチがすごく楽しそう」


 ひょっこりと隣から顔を出すリサ。


「ポチが喜んでくれて本当に良かった。これで好きなだけ走れるし、お友達もたくさんできるんじゃないかな」


「うん~でもちょっと寂しい」


「そうか。みんなポチとよく遊んでくれたもんな」


「孤児院の子達も寂しがってた」


 ここドックランが完成するより前、ディアナが国内唯一の孤児を住む場所関係なく自由に集められる権利を得て作られたクロイサ孤児院。


 建物が完成するよりも前から数週間掛けて国内の孤児達をかき集めているので、相当な人数になっている。


 そんな彼らのためにものびのびと過ごせるようにとクロイサ街中心部からは少し離れた場所に作ってあるし、周りの安全も考慮して壁に囲まれて魔獣の侵入も防いでいる。


 なのでここドックランから歩きだと結構遠くに離れていてポチと会える時間が減ると思ったのかもな。


 実際楽しそうに走り回っているポチを見ると、それも頷けるとこではあるけど、またすぐに孤児院にも顔を出してくれるさ。


「リサ。孤児院は楽しいかい?」


「うん。子供達は楽しい」


 今でこそお嬢様とも普通に話せるようになったけど、彼女は相も変わらず人見知りで、パーティとかにも出ないし、基本的には孤児院で子供達と遊んでいるか、エヴァネス様と一緒にいるかだ。


「これからも子供達をよろしくな」


「あい。みんなからベリルくんも来て欲しいって」


「あはは……俺はあまり人と関わるのが得意じゃないからな」


「ソフィアちゃんも楽しくやってる」


「そういや、妹も通っていたんだな。シスターになるって言ってたな」


 シスターというのはオルレアン教のシスターではなく、あくまでうちの孤児院で働いてくれるシスターを指す。


「とても似合うと思う」


「ソフィアの制服姿……うむ! 想像しただけですでに可愛い!」


「ベリルくん」


「ん?」


「心の声、漏れてる」


「あっ」


「むひっ」


 不思議な笑い方をするリサに苦笑いがこぼれた。


 しばらくポチの走っている姿を眺めていると、後方から猛烈な勢いで走って来る気配があって、やってきたのは――――


「ベリルくん! リサちゃん!」


 凄まじい速度で走ってきたのに息一つ乱れないのは、ディアナだ。


「用事はどうだったんだ?」


「バッチリ! ベリルくんのおかげでみんなレベルがカンストしたって喜んでいたよ」


「それはよかった。これで少しでも街の安全が保てるなら嬉しいな」


「うんうん。みんな強くなったし、鍛冶屋から良い武器も提供されてるからきっと大丈夫!」


 俺の能力で配下判定された者はレベルが上昇しやすくなり、カンストまで簡単にできるようになった。


 これは非常に大きなことだけど、戦いは何もステータスだけじゃないので、実際最前線で戦ってる冒険者と対決になったら一方的にやられるだろうけど、こっちは数で勝負って感じだ。


 それに上位職能を持っている人のレベルがカンストすれば、それだけで強力な手札になるから。


 その中でも、ここ最近ようやくカンストになったディアナには、より深い意味がある。


 世界で唯一職能【勇者】を持つ彼女だからこそ、カンストできたのは大きく、それで大きく上昇したステータスで走り回るようになった。


 さっきの息一つ乱れないのは勇者レベル99の特典みたいなものだ。


「ベリルくんは今日もレベリング?」


「ああ。二人ともいつも頑張ってくれてるのに時間を割いてあげれなくてごめんな」


 すると二人は俺の腕を抱きしめ、こちらを見上げながら、首を横に振った。


「ベリルくんだって考えがあってのことだと思うし、私は応援したいな」


「大丈夫。待つのは得意」


「あはは……二人ともありがとうな」


 少しの間、二人から伝わってくる温もりを堪能して、俺は――――王都地下ダンジョンに向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る