七章

第106話 子爵、新たな出会い

 ディアブロとの激戦後、王様から褒美を貰えた日から一か月が経過した。


 その間というと、シャーロットさんが子爵位を引き継いで、父の方は事故に巻き込まれた可哀想な人として認識され、誰一人シャーロットさんに変な目を向ける生徒はいなかった。


 今では婚約者である第三王子のアルと無事毎日イチャイチャしている。


 俺はというと、実は子爵位を貰う約束だったが、男爵を叙爵じょしゃくして間もないから他の貴族から反感を買うという計らいで――――ようやく、本日子爵となった。といっても実は裏では子爵としての権利とかいろいろもらっていたんだけどね。


「ベリル……! 子爵おめでとう!」


 休日の前日。俺を祝うから関わっている全ての人達を集めてパーティを開くことになった。


 場所は、俺の屋敷の下に作られた巨大な建物で、クロイサ町が今ではとても町とは呼べないくらい広くなってしまったので、こうして多くの人が集まれる場所のためと、貴族として執務を行うのに屋敷だと休まらないからと、役所を作ってくれたのだ。


 ホールに多くの人がいて、一人一人挨拶をしていく。


 クロイサ街が温泉街となった頃から関わる人々がどんどん増えて、今では名前も知らない初めましての人もたくさんいる。


 さすがに覚えることも厳しいので、人事を受けているグッドマル商会のソルユさんが紹介から挨拶までずっと隣で力になってくれた。


 そんな中、珍しい一団が挨拶にきた。


 五人の男性が一人の女性を囲っていて、周りの面々とは少し異質な雰囲気がある。囲まれていた女性が一歩前に出て、俺に軽く頭を下げた。


 綺麗な水色の長い髪が、純白のヴェールの中から伸びており、パッと見ただけで忘れられないくらい美しい人だなという印象を抱く。エヴァネス様とディアナを知らなかったら、今までで一番の美女と言ったと思う。


「初めまして。シャディアン子爵様。私は――――オルレアン教のセレナ・ユーレティスと申します」


 やはりオルレアン教の者か。


 聖職者らしい衣装だからそうかなと思ったけど……まさかこんな田舎にまで来るとは驚きだ。しかも……彼女は…………。


「ベリル・シャディアンと申します。まさかこんな田舎にまでユーレティス大司祭様がいらっしゃるとは思わず、驚きました」


 彼女は少し笑みを浮かべた。


「私の名を存じていただきありがとうございます。田舎だなんて――――温泉による大観光地ですから、これからもクロイサ街の発展は続くでしょうね」


 ということは、彼女の周りに立っているのは――――オルレアン教会の最高戦力“パラディン”で違いなさそうだ。


 前世の“ワールドオブリバティー”の時代にああいう鎧を着こんでいるNPCを見たことがある。帝国のダンジョンとか入るときのフラグを作るのに少し関わったりするしな。


「ありがとうございます。これも全部婚約者の二人やここにいる協力者の皆さんが頑張ってくれたおかげです」


 そう話すと、少し驚いた表情を見せた彼女は、一息置いてまた笑みを浮かべた。


「トール」


 俺は隣に立っている燕尾服の中年の男を呼んだ。


「はい。子爵様」


「本日の旅館に空きはあるか?」


「申し訳ございません。五部屋・・・全て埋まっております」


「向こうは?」


「空いております」


「ありがとう」


 彼はスケジュール管理のために雇った執事で、貧民街上がりの人だ。ただ、いろいろ事情があって、元々は商会で活躍していたが、上司に嵌められて落とされてしまった。元々能力も高く、非常に気が利く人なんだけど、俺専属執事を募集したら誰よりも早く応募してくれて、そのまま数百人の中からストレートに勝ち抜いた人だ。


 本人曰く、ずっと狙っていたそう。


 セレナさんに再度視線を向ける。


「セレナさん。もしよろしければ、我が家が経営している旅館にお泊りになりますか? 本日はお見知りおきをということで、無償で提供させていただきます」


「あら、とても嬉しいご提案ありがとうございます。ではお言葉に甘えさせていただきますね」


「ええ」


 彼女が右手を指し伸ばしたので、近付いて握り返す。


「もし時間があれば、お待ちしております」


「……わかりました」


 やはり、目的は俺との対談か。


「ではごゆっくりと過ごしてください」


「ありがとうございます」


 それからも俺は何人もの人と挨拶を繰り返した。




 その日の夜。


 高級温泉旅館のセレナさん達が泊っている高級側の部屋に一人でやってきた。


「いらっしゃいませ。まさか一人でいらっしゃるとは思いませんでした」


「まさかここに来て暴れたりはしないでしょうし、周りの結界のこともすでに知っていることでしょうから」


「ふふっ。そうですわね。私の全力でもあの結界を通るのはとても難しいでしょうからね」


 できないと言わない当たり、彼女自身も非常に高い実力の持ち主なのが伝わってくる。


 ソファーに座り、向かいに彼女が座る。


 他のパラディン達は部屋の中で待機しているようだ。


「本日はお越しくださりありがとうございます。ご本人から聞いた方が確かだと思ったので……」


「ディアブロの件ですか?」


「はい。あの一件で教会は大騒ぎ状態でして、破壊されたルドロン街には教会の調査団が派遣されているのは子爵様も知っていると思います。伯爵様にも話を聞きましたが、あまり良い返事をいただけませんでした」


「なら俺からもあまり良い返事はもらえないと思いますよ」


「ふふっ。事情は大体察しがつきました。その上で私の判断と――――勘から、ベリル様はとても信頼に値する方だと思いました。ベリル様には迷惑な話かもしれませんが……私の話を少し聞いてください。お願いします」


 そう言った彼女は、その場で立ち上がり、座っている俺に頭頂部が見える程に深く頭を下げた。


「聞くだけならタダと言いますから。力になれると約束はできませんが、ぜひ聞かせてください。大司祭様と近付けるのは俺にも利がありますから」


「ありがとうございます……!」


 しばらく彼女の話を聞くことになった。





――【Tips】――

 誤解があるかもと思ったので明記しておきます。

 以前ディアナが放していた「教団」という組織は、今回出た教会こと「オルレアン教」とは別物となります。

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