第105話 褒美、再会
「おはよう~」
「ベリルッ……!」
「待て待て、俺は男に言い寄られる趣味はない」
「冗談を言っている場合ではない!」
「落ち着けって。王子様の威厳が台無しだぞ」
二週間ぶりに学園にやってきて、教室に入るや否や俺を目掛けて飛んできたのは、他でもないアルだ。
ずいぶんといろいろ悩んで心配していたのか、目の下に隈ができている。主に――――彼女のことなんだろうけど。
俺はそんな王子の肩にポンと手を上げた。
「大丈夫だ。シャーロットさんもどんどん元気になってるし、もう少しで会えるから」
「ベリル……」
うちで療養中のシャーロットさん。まだディオニール子爵の件や【大地の祝福】の件もあって、彼女は誰とも面会禁止となっている。うちの屋敷で二週間ほど過ごしているけど、その間にアルとは一度も会えていないのだ。
これだけ近くにいるのに会えないことがもどかしいのだろうな。
ったく……リア充というのはな。
…………ごほん。
「ルデラガン伯爵様から北方領の連絡が来れば一気に動くと思うから。だから待っていてくれ――――親友」
とても辛そうな表情をするが、どうにもならないのは本人もわかっているからそれ以上のわがままは言わず「わかった。よろしく頼む」とだけ話した。
それからは何もかわらない学園生活が始まった。
ただアルだけはまだぎこちない笑顔を見せるが、どうしようもないのでただ一緒にいて彼の心配を少しでも減らす方向に勤しんだ。
その日の夜にはエヴァネス様に北の領で何があったのか全て一から順を追って説明をした。
ディアブロという名前が出た瞬間にものすごく反応されて、戦ったと話したところで結果も聞かずにまずは説教が始まり、大魔族がどれだけ危険な存在なのかをいろいろ教えてくれた。
まあ、俺も一人で挑むほどのバカではないので、エヴァネス様の忠告をしっかり胸に刻んで、対策を考えたいと思う。
なんせ――――婚約者となったディアナを狙う大魔族はまだ三体も残されているのだから。
◆
クロイサ町に戻ってから一週間近くが経過し、ようやく休日の前日になった。
昼食時間に王国から呼び出しがあると言われ、学園が終わり次第、俺とディアナ、アルの三人で王城へ向かった。
いつもの貴賓室で待っていると、王様と騎士団長、ミリアさんが入ってきた。
「シャディアン男爵。全ての報告はルデラガン伯爵及びこちらの騎士団長と魔導士団長から聞いている」
ミリアさん魔導士団長だったんだ……。
「此度の活躍を認め、褒美をつかわす。まずディオニール領の活躍を認め、シャディアン男爵に子爵への
「ありがとうございます」
「今回の一件の首謀者の一人であるディオニール子爵の爵位を剥奪。元子爵領は全てルデラガン伯爵領へと返還するが、元子爵領に住まう全ての孤児をクロイサ町へ移住させる。それがシャディアン男爵の望みだと聞いているがあっているか?」
「はい。孤児達は全員私の方で受け入れます」
「わかった。元子爵領の件はそうしよう。さらにディオニール子爵の令嬢であり、本件の被害者の一人でもあるシャーロット令嬢の身柄もシャディアン男爵が持ちたいと申し出ていたな?」
「はい。その上で彼女の名誉を守るために、ディオニール子爵の剥奪された爵位を、そのままシャーロット令嬢に与えていただきたいです」
「表向きはディオニール子爵も被害者……ということになるが、それではシャディアン男爵の褒美は一つ減ることになるが、それでもいいということだな?」
「はい。ディオニール子爵にはシャーロット令嬢以外の子供はいなかったですし、彼女に領地経営は難しいとなれば、今回の一件で最も活躍したルデラガン伯爵様にディオニール領が与えられてもみんな納得いくと思います。私に必要なのはディオニール子爵位を持つシャーロット令嬢だけです」
「うむ。では表にはディオニール子爵については一切公表せず、ルドロン街の被害者の一人として対応する。シャーロット令嬢の病気や年齢から領地経営が難しいため、ディオニール領はルデラガン伯爵家に譲渡されたと発表する」
「ありがとうございます」
「では次に、ルデラガン伯爵の報告にもあった大魔族による進行から民を救ってくれたシャディアン男爵とルデラガン伯爵令嬢二名に褒美をつかわす。二人とも何か欲しい褒美はあるか?」
これは実は事前に連絡が来ていて、考えておいてねと言われている。
「陛下。ありがとうございます。では私には国内に孤児養護施設を運営できる権利をいただきたく思います」
「孤児養護……? それはすでに教会が行っているのではないのか?」
「はい。ですがどうしても教会の本部が隣国の帝国にあるため、横の連絡が取りにくいのが仕方ない事情だと思ってます。それにうちの王国では寄付金などもあまり集まりませんから」
ディアナがずっと悩んでいたことの一つ。クロイサ町になる前の貧民街だって援助などももらえず、成長するはずの人材も成長できず、頑張りたい人も頑張れない世界だった。それを王国側が何とかしようともしていない。
「うむ。其方がそうしたいのなら許可を出そう。だが、いずれにせよ我が国で彼らのためにお金を募ったりはできない点を忘れず」
「はい。心得ております」
そもそも、許可などなくかき集めてもいいんだけど……残念ながら王国では孤児だとしてもその領地の貴族の……物として扱われ、自由に住む場所を変えることもできない。
だが彼女がこの権威を持つことで、『王国内の孤児であれば誰でもクロイサ町に招待できる』という点だ。
ゆくゆく彼女は貧民問題も何とかしたいと言っていたし、その足掛かりとして孤児からやっていきたいと言っていた。
「ではシャディアン男爵はどうだ?」
「私は――――」
それから俺はとあるお願いをした。
それを聞いた王様は少し苦笑いをしていたけど、俺にとっては大きなことで、まあ……正直に言えば、俺が男爵となって入ったお金で解決できる問題でもあったけど、せっかくならこれらも一つの事業としてやれたらなと思いつつ、これこそが……俺のためにいつも尽くしてくれるあの子のためになると思う。
謁見が終わり、空がすっかり赤く染まっていたが、俺とディアナは――――アルと一緒にクロイサ町にやってきた。
◆
シャーロットさんの部屋には俺と彼女だけ。
みんなは外でアルが突撃しないように見張ってくれている。
王様との話し合いの結果を伝えると、彼女は深々と頭を下げた。
「最後になりますが、シャーロットさん」
「はい」
「俺は――――自由に生きて欲しい。父親のことで責任を感じているなら、なおさらのこと。これからアルを支えるのもよし。貴方が思うように活躍するのもよし。アルのことがあってもなくても俺はシャーロットさんを一人の友人として応援するよ。だから――――これからは歩けなくなった頃からの分も取り戻すべく好きなことをやって生きてね」
「ベリルくん……ありがとう! 私……君が助けて良かったと思えるような、そんな人になれるように頑張るわ。たくさん学んで、アルフォンスともちゃんと向き合って……」
彼女の目に大きな涙が浮かぶ。
「これ以上待たせると、アルに怒られそうだから、そろそろ――――行こうか」
「うん……!」
手を差し伸べると、俺の手を取って――――ゆっくりと立ち上がるシャーロットさん。
彼女の足に掛けられていた【大地の祝福】という名の呪いが解け、ようやく少し歩けるようになった。
まだ長時間歩けることはできないけど、こうして自分の足で歩けるようになった彼女は、とても晴れやかなものだ。
一歩ずつ歩き、扉の前で一度深呼吸をして扉を開くシャーロットさん。
その先に向かってとびっきりの笑顔を見せた。
「アルフォンス、久しぶり」
「シャーロット……!」
部屋に入ってきたアルは、すぐに彼女を抱きしめ、彼女もまた手を伸ばしてアルを抱きしめた。
そんな幸せな二人の向こうには、お嬢様、リサ、リン、ディアナもまた嬉しそうな笑みを浮かべて、二人を見つめていた。
――【六章終了】――
農夫転生をここまで読んで頂きありがとうございます!
六章が終わってみると、五章から通して六章も内政パートが長くなってしまいましたね。
こうしてようやくディアナちゃんも婚約者になったベリルくんが幸せそうですが、果たしてこの先どうなるやら、作者もこの先がとても楽しみだったりします。
個別なことですが、夏は四季の中で最も苦手な季節で、絶賛夏バテ中ですが、七章も張り切って書いて行こうかと思います!
近々、最近書きたかった題材の短編(多分15万字くらい)の新作を上げるかもしれません。そのためにもストック増やしながら頑張っていきます!
ずいぶんと長い作品になってしまったんですが、ゆるりと読む一作品としてのんびり読んで頂けたら幸いです!
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