第100話 激闘、大魔族vs勇者

 地面に落ちた真っ黒くて太い腕が蒸発して消える。


 背は向いているけど……こりゃ、全然気が抜けないな。


 こいつって……たしかディアブロだよな。“ワールドオブリバティー”でクソ強いボスランキングで常にトップにいたボス。


 まさかこいつが魔族とやらだったとはな。


 俺がディアブロと戦ったのは、サービス終盤で実装された深淵のダンジョンという特殊なダンジョンだ。


 当然……ソロは考えていないパーティーの強さだったからかなり苦労したのを覚えている。


 そんな中、酷く疲れてそうな顔になっているディアナが大きな涙を浮かべて俺を見上げていて、伯爵様も全身がボロボロ、ノアさんとポチがぐったりと倒れている。


「なあ。お前。ディアブロって言うんだろ?」


「カカカ! ヒトゾクフゼイガ、ワガナヲシッテイルトハナ!」


「そりゃな。ルドロン街の魔獣を産んでた魔法陣を壊したときに、アークデビルが教えてくれたんだよ」


 まあ、嘘だけどな。


「ナンダト……?」


「お前、ずいぶんと強いらしいじゃないか。少しだけ待ってくれよ。第2ラウンドは俺も入れて戦わせてくれ」


「クククッ。ガーハハハッ! ナラ――――キサマラガマケタラ、キサマハワレノハイカとナレ」


「お前の配下か……わかった。でもいいのか? こっちには――――勇者様がいるんだぞ」


「ガハハハハ!」


 ディアブロの腹が揺れる程に大声で笑う。


 俺はマジックバッグからポーションを取り出して、伯爵様に掛けた。


「伯爵様~俺一人では荷が重すぎますから、もう一回戦ってください~」


「この老いぼれにまだ戦えというのか!」


「そうです! 伯爵様が一番強いんですから! もう一回頑張って! ほらほら!」


「かかかっ! 昔なら一人で戦いたいとわがままを言ったところだがな!」


 今度は倒れているノアさんとポチにもポーションを掛ける。


「ポチ。ディアナを守ってくれてありがとうな」


「ワフッ」


「ノアさん。久しぶりですね」


 剣を杖代わりにして立ち上がるノアさんの顔は、どこか複雑そうな表情だが、その目は――――闘志が燃えている瞳だった。


「感謝します。ベリル殿。もう一度戦える機会をいただけて」


「共闘するの楽しみにしてましたよ」


「ええ……私もです」


 最後にディアナのところに向かった。


 普段元気いっぱいでニコニコする彼女と違って、絶望に染まった酷い顔だ。


 魔族とやらがいたらこうなるんじゃないかと思ったけど……本当にこうなるとはな。


 ディアナの前にポーションをひと瓶置く。


「頑張ったな。ディアナ」


「ベリルくん……わ、私……」


「勇者ってやっぱ大変よな。俺はその重荷なんて想像もつかないし、こんな風にディアブロなんかに狙われたりよ…………でもまあ、お前は一人じゃないんだ。見てみろよ。伯爵様もノアさんもポチも俺もここにいる。ディアナに巻き込まれてここにいるんじゃない。俺達は俺達の意志で、今までディアナと時間を共有してここに立ちたいと思ってるからここに立ってるんだよ」


 マジックバッグから一本の剣を取り出した。


 真っ白な鞘に金色の装飾が施されていて、柄も彼女が握りやすいように少し細めに作られていて、全体的にどこか聖剣をイメージしたような、そんな作りの剣だ。


「さっきバタバタしてて渡すの忘れていたけど、いつもクロイサのために頑張ってくれたお礼に渡そうと思って、俺が尊敬する鍛冶師さんにお願いして作ってもらっていたんだ」


 ディアナが剣をもらって見下ろすと、剣の鞘に一滴、また一滴の雫が落ちる。


「俺が知ってる一番強かった勇者様はさ。常日頃言っていたんだ。自分が強いからパーティーが強いんじゃない。みんなが強くて、みんながそこにいるから自分が勇者として彼らを支えることで、パーティーの本当の強さを発揮する。勇者は何でもできる……そう思っていたときが一番弱かったと。だからさ――――一人で頑張らなくていい。頼っていい。ディアナには、ディアナを想っている伯爵様もノアさんもいるんだからさ」


 下を向いて泣いている彼女の頭をポンと優しく乗せてから、立ち上がりディアブロに向いた。


 伯爵様がディアブロの目の前で睨み付けていて、あの人何してるのって思ってしまった。


「待たせたな。ディアブロ」


「クククッ」


 俺に切り落とされた腕は当然のごとく回復している。


 それにしても、ディアブロという魔族がここまで自分の力を過信した上で、油断してくれて助かった。


 正直――――俺一人で相手するとなると……今のままだとかなり厳しかったからな。


 こうなると思ってたら、もっと一人でレベリングをしておくのに……と言っても、それは過ぎた過去だからな。今は目の前の強敵をどう倒すか考えるのみだな。


「さあ、第2ラウンドと行きますか。今度は俺も混ぜてもらうぞ。ディアブロ」


「ガーハハハ! ムシケラガイクラフエテモナ!」


 伯爵様が大剣を構えて、戦いが始まる。


 ディアブロとの初撃で凄まじい風圧が、周りに響く。


 伯爵様ってば、その年齢でその強さって…………。


 すぐにポチとノアさんが加勢して戦いが始まる。


 そこに合わせて、俺も隙を見ながら影糸による超高速攻撃で攻撃を与える――――が、ディアブロのやつは一向に俺の攻撃を避けようとしない。


 ブラックデイズに斬られた場所がすぐにくっついて回復する。


 できれば連撃を与えたいんだが…………パーティー戦なんてやったことないから伯爵様とノアさんがどう動きたいのか全然わからん! てか人って誰かの気持ちなんてわからないだろ!


 そう思うと、前世で500回も戦った白銀の英雄シレンさんのパーティーって……すごかったんだな。さすがは最前線を走り抜けていた最強パーティー。


 ノアさんの攻撃に合わせて俺も斬りつけてみる――――が、ノアさんと横ステップに体をぶつけてしまった。


 すぐにディアブロの肘攻撃が俺とノアさんに飛んできた。


 急いで大鎌で防いだが、強烈なハンマーで叩かれたような衝撃を受けて大きく吹き飛ばされた。


 一緒に吹き飛んだノアさんと仲良く地面に激突している間、伯爵様一人でディアブロと激闘を繰り広げている。


 いや……伯爵様よ……ずっとそんな化け物相手してたのかよ。


 てかいまさらというかアークデビルもそうだったけど、ゲームとは比べ物にならない速度で動いている。それを言うならポチや俺の影糸もそうだけど、あの速度に追いつけない人は手も足も出なさそうだ。


「ノアさん。申し訳ない」


「集団戦は初めてか?」


「ええ」


「なら味方への相手の攻撃の直後を狙うといい」


「りょうかいです。ありがとうございます」


 俺達の代わりにポチがディアブロの足を狙って噛みつくが、あの鋭い牙も通らない。


 伯爵様の動きを見ながら、ディアブロが彼を攻撃した瞬間に俺も攻撃を与える。


 なのにも関わらずディアブロは避けようとせず、俺とノアさんの攻撃をそのままに受けた。


 避ける必要すらないってか?


 それを物語っているかのように、ノアさんの剣は肌に弾かれ、俺の大鎌は斬れたけど、傷がすぐにふさがった。






 ――――そのとき、美しい一閃がディアブロの脇腹を斬りつけた。






「キシャアアアアア!」


 初めてディアブロが大きな声を上げて、まるで遊んでいた動きから急に暴れ出した。


 一閃を放ったところに視線を向けると、綺麗だった長い赤髪を乱雑に切って短髪に変貌したディアナが立っていた。


「お待たせ!」


「ユウシャアアアアア!」


 ディアブロの腕を黒いオーラが纏って手甲剣のようになり、ディアナを突き刺す。


 それをいとも簡単に避けた瞬間に、今度は伯爵様の強烈な一撃がディアブロの傷がある反対側の脇腹を叩きつけた。


 当然――――ノアさんの剣が腕に、俺の大鎌が首を斬りつけた。


 何だか……集団戦してる感じがする! してるんだけども。


 と言ってもノアさんがかなり合わせてくれているのが、集団戦初心者の俺でもわかる。隊長を任せられている男の凄さを感じる。


 怒り出したディアブロの体が黒い靄に包まれると、元々悪魔らしい姿から、ちょっとしたゲテモノの姿へと変わっていく。


「ディアナの攻撃が効くようだな! ノア! ベリル! 合わせろ!」


「「りょうかいっ!」」


 どう合わせるのかはよくわからんが、そこは空気読みだ!


 暴れ始めるディアブロから少し距離を取って大剣にエネルギーを溜め始める。


 ああ。そういう合わせろね。


 ディアブロとディアナの間に立ち、影糸で超高速移動を細かく刻みながらディアブロの体を斬り続ける。


「セイクリッドバースト!」


 ディアナなら――――当然頭部を狙うよな。


 彼女の気配と軌道を考えて避けると、すぐに真っ白なビームがディアブロの頭を貫いた。


 ノアさんもディアブロの肌は貫けないが、懸命に弱そうな場所を探り続ける。


 ふと、不思議だなと思ったことがある。


 ノアさんの剣って一切効いていない。なのにディアブロはどうして彼を追い払うんだ? 遊びで? いや……ディアブロの性格なら放置し続けるだろうし……まさか、ダメージになっている? ノアさんもそれに気づいて攻撃の手を止めずに弱点を探し続けている?


「ベリルくん! 足を狙って!」


 すぐに足を斬りつけようとするが、ディアブロの触手のようなものが生えてきて、俺を狙ってくる。


 その間も歩みを止めずに、ズンズンと地面を鳴らしながらディアナに近付く。


 ふとノアさんと目が合った。


「くるぞ!」


「りょうかいっ!」


 ディアナの近くに付けていた影糸を引っ張って移動して、そのままの勢いでディアナを抱きかかえて、さらに後ろに付けていた影糸で離れる。


 ノアさんも離れていて、伯爵様が大剣を振る姿が見えた。


「奥義! ゲイルブレイカー!」


 一撃で魔獣の群れを殲滅できるほどの巨大な斬撃が、巨体のディアブロすらも丸ごと飲み込んだ。


 俺とディアナが着地するとすぐにディアナが剣を構える。


「奥義! デーモンスレイヤー!」


 職能【勇者】の便利なのは魔族やアンデッドに対する特攻を持つ必殺技があること。さらに本来なら一つしかない奥義が、勇者だけ対魔族と対アンデッドと自己強化の三種類持っていたりと優遇っぷりだったが、ここでも健在のようだ。


 放たれた美しい剣戟は、キラキラした光となり伯爵様が放った巨大剣戟と混ざり合い、大きな爆発を起こした。


 全てを呑み込む爆炎などはなく、綺麗な光がキノコ雲のようになり、暗い夜を照らしてくれる。


 周囲に広がっている魔獣と兵士達の骸に、凄惨さがより感じられる。






 ――――そのとき。光の中から全身がボロボロになってサイズも半分以上小さくなった、悪魔姿になったディアブロがディアナに向かって飛んできた。






 それに合わせて、ノアさんが飛びついて体当たりをする。


「ジャマダアアアアア!」


「行かせない! ディアナ様のところには絶対にだ!」


 俺も飛び出てノアさんに合わせてディアブロに攻撃をする。


 そろそろ……くる!


 ディアブロの真っ赤な目から血の涙のように液体が垂れる。


 それと同時に周囲にズーンと重い空気のようなものがのしかかって、俺もノアさんもその場で地面に張りつけられた。


 この強制移動不可になるディアブロの死に際の特殊行動……! やっぱりここでも健在か! でもこれを使ったってことは……!


 ディアナとディアブロが戦い始めるのが見えた。


 ノアさんが歯を食いしばって立ち上がろうとする姿に、ディアナのことを本気で思っているのも伝わってくる。けれど、このディアブロの能力は強力なモノで中々回復するのは難しい。


 先ほど奥義を放った伯爵様も加勢して父娘とディアブロの戦いが始まった。


 剣がぶつかる音やディアブロの体を叩きつける生々しい音だけが聞こえてくる。


「シネエエエエエ!」


 ディアブロの両腕が口みたいに変形し、中から禍々しくて強烈な爆炎が放たれ、ディアナを襲う。


 その刹那。ポチが飛び込んでディアナごと体当たりで吹き飛ばして、ディアブロの攻撃を自ら受けて、その場で消えた。


 ポチ……ナイス!


 従魔だからここで倒されても俺の影に戻ってしばらく召喚出来なくなるくらいのデメリットしかないからな!


 というのも、ポチがディアナの影の中に入っているのは知っていた。


 さらに伯爵様の斬撃がディアブロを襲うが、疲れ果てている伯爵様はあっけなくディアブロの蹴りを思いっきりもらい、遠くに吹き飛ばされた。


 ディアナも真っ白な刀身の剣を操り、ディアブロを斬りつける。


 一撃が通り、ディアブロはまた痛々しい声を上げながらも、ディアナを殴りつけた。


 たった一瞬だというのに、ディアブロの圧倒的なパワーとスピードに成す術なく崩れるディアナ。


 ――――けれど、彼女の表情はさっきのような絶望には染まらず、苦しそうな表情だが、勇気が灯ったままの瞳でディアブロを睨み付けた。


「ソノメヲヤメロォオオオオオ!」


 ディアブロが大きく振りかぶった。
















 この時を待っていた。

















 ディアナの足につけていた影糸を引っ張り、体を加速させる。


 ステータス【抵抗】を上げていたおかげか、ノアさんよりも早い段階で金縛りが回復して、体を動かせるようになった。


 ブラックデイズを振りかぶって、ディアブロの頭部を狙う。


 俺が斬りつけるのをディアブロも反応した。






 ――――だが、ディアブロは俺に目も向けず、目の前に睨み付けているディアナにそのまま腕を振り下ろす。






 ディアブロの腕が届くよりもほんの少しだけ早く、俺の大鎌がディアブロの首に届く距離。


「残念だったな、ディアブロ! お前の思い通りになんていかない! ――――デュランデイズ! 奥義【シャドウオブデスサイズ】!」


 手に握っていたブラックデイズがデュランデイズに変わる。


 そして――――俺のデュランデイズがディアブロの首を一刀両断する。


 俺が放った――――白い色の影の斬撃が周囲に広がり、ディアブロの動きがピッタリと止まる。


 そして――――不気味に赤く光っている目が、頭部から離れ地面に落ちた。


「ディアナッ!」


「っ!? 奥義! デーモンスレイヤーッ!」


 ディアブロの落ちた頭から体ごと蒸発させた。




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大魔族ディアブロを倒しました。

経験値10000000を獲得しました。

称号【転生者】により獲得経験値が1/10に下がります。

レベル差によるボーナスにより、追加経験値30000000を獲得しました。

称号【転生者】により獲得経験値が1/10に下がります。

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称号【転生者】ボーナスにより、大魔族初討伐追加報酬を獲得しました。

称号【シャドウ】を獲得しました。

スキル【限界突破】が【限界突破・王】へ進化しました。

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称号【魔王と呼ばれていた者】

(10/100)

スキル【魔王覚醒・始】を獲得しました。

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【スキル】

農耕の心得(-)

草刈り鎌達人(-)

大鎌の心得(-)

大鎌展開(-)

大鎌の呪い(-)

◇エクスキューショナー(174832/1000000)

◆シャドウウォーカー(1000000/1000000)

◇サイズマリオネット(259910/1000000)

威圧(-)

限界突破・王(-)

ダークネス(69/30000)

魔王覚醒・始(0/100)

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レベルが19から22に上昇しました。

ステータスポイントを9獲得しました。

称号【転生者】により獲得ステータスポイントが10倍になります。

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【名 前】ベリル・シャディアン

【年 齢】12歳

【職 能】グリムリーパー

【称 号】魔王と呼ばれていた者、転生者

     ブレイカー、覇道、シャドウ

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【職 能】グリムリーパー

【レベル】22

【 力 】50

【俊 敏】200+200

【器 用】50+100

【頑 丈】30

【魔 力】1+100

【抵 抗】50+200

【 運 】166+200

【SPスキルポイント】90

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――【あとがき】――

 「きりよく……100話だっ!」ってなってテンション上がって書いたら、こんな文字数になっちゃいましたあああ! 本当は2話構成だったんですけど、書き切りたくて……分けるのも何だかな~と思って、一気に読んでいただきたく、こんな文字数になっちゃいました……(笑)


 ということで、ここで100話!各話文字数も平均3500文字と多めなのにも関わらず、100話まで読んでいただき本当にありがとうございます!


 六章もまだ続きます!それを描き終えるまで何とか七章と八章の脳内プロットをまとめたいところで頑張りたいなと思います~!


 それと……スキル欄と称号欄……何か抜けてないよね!?とひやひやしておりまして、もし何か気になった方はぜひコメントで突っ込んでいただけると助かります!(他力本願でほんと申し訳ないです……)

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