第96話 悪魔

 翌日。


 アポイントなしでディアナと二人でシャーロット令嬢に会いに来た。


 アルのように簡単には通してくれなかったけど、伯爵令嬢のディアナと、前回アルと一緒に来た俺いたことから執事は渋々会わせてくれた。


「ベリル様。お久しぶりでございます」


「お久しぶりです~シャーロットさん。今回はディアナさんと一緒に来ました」


 ディアナを見て目をパチパチとさせると、不思議そうに俺を見つめた。


「えっと……ベリルさんは確かエンブラム伯爵令嬢様と婚約中だとばかり……」


「俺が婚約しているのはクロエさんで合ってますよ。こちらのディアナさんとは友人関係ですので」


「あら、そうでしたの。大変失礼しました」


 まあ……それは当たり前の反応だよな。婚約者がいるのに、全然違う女性と一緒に来たら、そりゃ驚くよな。


「お久しぶりです。シャーロット様」


「お久しぶりです。ディアナ様」


 二人が挨拶を交わす。


「本日はどのようなご用件なのでしょうか?」


「ええ。ちょうど入学する前にシャーロットさんがお茶会にあまり参加されないことが気になっていたんですが、学友であるベリルくんからシャーロットさんの話を聞いたものでして。実はルデラガン家からもベリルくんの町には支援をしてまして」


「そういう繋がりがあったのですね」


「はい。中々時間が取れなくて誘えないからとベリルくんが嘆いたから、こうしてベリルくんを連れてきたところです」


「ふふっ。心配してくださりありがとうございます」


「さっそくなのですが、これからベリルくんの町――――クロイサ町にいらっしゃいませんか?」


「今から……?」


 すると後ろで待機していた執事がこちらにやってきた。


「失礼します。大変申し訳ないのですが、お嬢様の体調がいつ悪くなるかわからないので、長期移動は非常に難しいため――――」


「クロイサ町には温泉がございます。もしかしたらシャーロットさんの足が治るかもしれません」


「ディアナさん…………心配してくださりありがとうございます。ですが、お父様から屋敷を出ないようにと強く言われておりますので…………」


「ふふっ。その割にはお茶会では抜けだしたりしていたのでは?」


「そ、それは……あはは…………」


「ご心配なく。シャーロットさんの身は私とこちらのベリルくんが責任を持って守りますので」


 シャーロットさんは困ったように笑みを浮かべた。


 破天荒だった彼女がここまで遠慮気味になったのは、今の自分に令嬢としての価値がなく、家族に迷惑をかけているから。そう思っているのが目に見えてわかる。


「シャーロットさん。遠慮なんてしなくていいんです。そもそも誘うって約束したのは俺ですからね。どうしますか?」


「私は……」


「お嬢様! なりません! 旦那様との約束をお忘れですか!」


 この執事もしつこいな……。


「執事さん。どうして彼女が外に出てはならないんですか?」


「そ、それは……お嬢様の体調が……」


「クロイサ町には温泉があります。温泉は万病に効くと言われていますからね。それでも?」


「…………」


 苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべる執事。


 もしかしたら執事も何らかの情報を言われているのかもな。


「ベリル様。彼を責めないでください。お父様が屋敷を空けていますから、お父様に代わって私を守ってくれているのです。私もできれば行きたいのですが……まだお父様に許可を頂けていないので……ごめんなさい」


「そうですか。それなら無理強いをするわけには――――」


 ディアナと目を合わせる。


「行かなくもないですね」


「えっ……?」


「ポチ!」


 俺の声に合わせて影からポチが現れる。


 それに合わせて速やかに執事さんの腹部を強打してその場で気絶させた。


「よし。シャーロット令嬢誘拐大作戦開始!」


「あいっ!」


「ベリル様!? ディアナ様!?」


 ディアナが彼女を軽々とお姫様抱っこしてポチの上に乗る。


 そのとき、外が騒がしくなって乱暴に扉が開かれた。


 すぐに筋肉質の男達が入ってくる。


「シャディアン男爵。お嬢様を置いてもらおうか」


「怖い怖い~残念ながらシャーロットさんは俺達に誘拐される運命です」


「ちっ!」


 彼らが一斉にこちらに向かって飛びかかってくるが、ポチが外に飛び出して、俺は彼らを一人一人殴り飛ばした。


 すると外からディアナの声が聞こえてくる。


「ベリルくん! やっぱり黒だったよ!」


 護衛達を放っておいて、部屋のテラスから庭に飛び出ると、ポチの前に一人の若い執事が立っていた。


「そいつは?」


「たぶん悪魔。魔族の部下みたいなものかな?」


 すると執事の顔が驚きに変わる。


「これは驚いた。俺様の正体を見破るとはな」


 若い執事から禍々しいオーラが立ち上る。


 地面を覆っている緑の芝生が彼を中心に段々と枯れていく。


「ディアナ、あいつは俺に任せてくれ。ポチも全力で二人を守ってくれ」


「ワン!」


「くっくっくっ。俺様を前に守るだ? ギャハハハハ!」


 クールだと思ったら意外と感情豊かなようだ。


 体を逸らしながら笑う男の体が少しずつ変貌して、大きくなっていく。


「あ、あれはなんだ!?」


 護衛達がやってきては、変貌した男を前に尻もちをつく。


「バカッ! すぐに逃げろ!」


「ひい!?」


「ニガスモノカ!」


 全身が巨大な人型の悪魔になった男が護衛達に襲い掛かる。


 すぐにデュランデイズを取り出して、悪魔の攻撃を真正面から受け止めた。


 男の攻撃によって、大きく吹き飛ばされた。


「ン? セイゾクセイブキカ……コシャクナ!」


 吹き飛んでいる俺に向かって飛び込んでくる悪魔に光る赤い目が見えた。


 ゲームではフィルターが掛かっていて、動きの速さというのは限界値が決められていたし、俊敏を上げまくっても限界速度があり、敵もそれに沿って動いていた。なのに、リアルとなるとそれがないからとんでもない速度で動けるものだな。


 だが――――――――それはこちらも同じ!


 影糸を伸ばして空中で体勢を整えて、こちらに飛んでくる悪魔のぶっとい腕に向かってデュランデイズを斬り上げた。


「ギャアァァァァァ!」


 速度に合わせて斬ってるからか、反応できずに斬られた腕が宙を舞う。


「アークデビルのくせにずいぶんと調子に乗るな。アークデビルってこういう性格だったんだな」


「キ、キサマァアアアアア!」


 影糸を引っ張って着地して、アークデビルに向かって飛びつく。


 デュランデイズを防ごうとする残り三本の腕を一気に斬りつけて一刀両断する。


「ギャアアアアアア!」


「セイクリッドバースト!」


 後ろから光のビームがアークデビルの腹を貫いて大きな穴を作った。


「コノチカラハ……ソ……ウカ…………」


 体が段々と灰になって消えていく。


「ディアナ! 今すぐに街の外に!」


「わかった! ポチ、お願い」


「ワン!」


 ディアナがシャーロットさんを抱きかかえたまま、ポチが全力疾走でディアリア街の外に向かった。


 走ってきた執事が俺の前に崩れる。


「なんてことを……なんてことをしてくれたんだ……」


「何か知っていますね?」


「…………」


「全部聞かせてもらいますよ」


 俺が左手を上げると、待機していた諜報員達が雪崩れてきて、執事や他の人を捕まえた。


 地面から生暖かい風が空に向かって吹き荒れる。


「終わった……全てが終わった…………」


「この風は……?」


「祝福が……終わりを迎える風なんだ……これで…………我が領はまた……地獄の日々に……ううっ……」


 目から涙を流す執事はそれ以上は何も言わなかったので、彼を残し俺は屋敷の中に入った。


 影移動で屋敷を上がり、子爵の執務室の中に入る。


 さらに影移動を使って部屋中を隈なく探してみると、大きな本棚が隠し扉のようになって、後ろに隠し階段があり、そのまま地下に入れるようになっていた。

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