第93話 グランドヌエ
翌日。
朝一で両伯爵様に挨拶をして、諜報部にさっそくある仕事を頼んだ。
なんやかんや昨日のうちにそれぞれの家が見つかって、みんな戸惑いながらそこで生活することになり、仕事の重大性も鑑みて給金も支払うことになった。
額はほとんどミハイルのお父さんが決めてくれたけど、クロイサ町の警備隊や狩人隊よりも高い額で、諜報の方が命懸けというのもあって、そういう対応をしてもらった。
ディアナは昨日の夜のうちに屋敷に帰っていたりする。ルデラガン伯爵夫婦だけでゆったりと過ごして欲しかったみたい。
いつもと変わらない授業が始まり、何気ない一日が過ぎていく。
授業が全て終わり、今日もまたエヴァさんの屋敷からお嬢様をクロイサ町まで送り、俺達は西の森の最深部に向かった。
自分達よりも大きい魔獣を次々と倒していくディアナ達。
今日のディアナはいつもよりもどこか嬉しそうだ。
森の最深部をどんどん奥に入っていく。
大蛇魔獣はレア魔獣なのもあってあまり出現せず、月一回見かけるかどうかだからな。あれの素材は意外と高額なので本当は乱獲したいんだけどな。
黒い樹木をかきわけて奥に進むと、ひときわ開けた場所が現れた。
周囲を黒い樹木が隙間少なく囲っていて、どこかコロシアムを連想させるかのように内側はただまっさらな土が広がっている。
その中央には遠くからでも巨大さがわかる大きな影が月に照らされて不気味に目を光らせていた。
「ご主人様。あれが言っていた狙い魔獣なんですか?」
相変わらずリンは俺をご主人様扱いしてくる。二人っきりのときは「キミ~」って呼ぶのにな。
「ああ。あれが目的魔獣――――グランドヌエだ」
体と顔は虎。尻尾は蛇。それぞれに意志があって、前後に隙がない厄介な魔獣だ。さらに全身にバチバチと黒い雷が見える。
「書籍によれば、あの黒い雷に触れるだけでものすごく痛いらしい。あと全身麻痺もな。だからみんな――――これを飲んでおけ」
俺は五百mlくらいのサイズの瓶を取り出して、みんなに一本ずつ渡した。
中には黄色い液体が入っている。
リン達は何の
みんなの体に薄い黄色い光が灯る。
俺も飲み干して戦いに備える。
「この薬で対雷耐性と麻痺耐性が付いたとはいえ、雷に触れたら普通に痛いと思うから気を付けて。特にディアナ。接近戦は極力避けて距離を取って戦うようにな」
「うん!」
「では――――行くぞ!」
俺の号令に合わせてみんなが飛び出る。
内側に足を踏み入れた瞬間、グランドヌエの二つの顔がこちらを向く。
「ギャララララララ!」
強烈な咆哮によってだいぶ離れているはずの木々が激しく揺れ動くと共に、俺達にも強烈な風圧が襲う。
「技【ヴァンガード】!」
ディアナから透明で白いオーラが俺達を包み込むと、相手の風圧が一切影響しなくなった。
職能【勇者】が最強職能と言われている所以の一つは、最高峰の攻撃技を持っているにも関わらず、こうして味方のサポート技まで充実しているところだ。
とはいえ、良くも悪くもバランス型。特化型には劣ってしまうが、パーティー戦に一人いることでパーティーの底上げになるからかなり重宝されている。と聞いている。
前世でも勇者を使っていた彼女だからこそ、サポート技を的確なタイミングで使ってくれるのは非常にありがたい。俺も情報は知っていてもそれはあくまで対勇者戦のために知っているくらいで味方で知っているわけじゃないから。
「あたしが先行する~!」
リンが禍々しい魔剣――――
グランドヌエの巨大な前足が彼女を狙って振り下ろされるが、いとも簡単に避けながら足を斬りつける。
黒い雷がまるで障壁のようになっているが、村雨とぶつかると足に黒い魔法のようなものがさく裂して、グランドヌエが痛そうな声をあげた。
俺の後ろではリサが何かの呪文を唱え続けている。
俺も【ダブルテレキネシスサイズ】を使って、ブラックデイズとデュランデイズを投げ込んで尻尾の蛇をけん制する。
「――――セイクリッドバースト!」
ディアナが突き出した剣から強烈な光のビームがグランドヌエの胴体を突き刺す。
グランドヌエの全身に黒い雷がバチバチと音を立てる。
「範囲攻撃するぞ! 離脱!」
リンとディアナがグランドヌエから距離を取る。
「ギャララララ!」
咆哮と同時にグランドヌエの周りに黒い雷が暴れ始め、通り抜けた地面からは一瞬で焼けた匂いを放つ。
転換でスキルと【サイズマリオネット】から【シャドウウォーカー】に変更。
黒い雷は全体攻撃ではあるが、全方位隙間なく判定があるわけではない。雷に触れなければ全く問題ない。
俺は影糸を数本グランドヌエと近くの地面に伸ばす。
「ベリルくん!? まさか――――」
グランドヌエの属性は闇。こういう相手に抜群なのは――――聖属性武器のデュランデイズだ。
影糸を引っ張って一気に加速してグランドヌエに近付く。
黒い雷が目の前に見えるが、影糸で角度を調整しながら一つ一つを避けて近付いていく。
影糸での移動速度が雷が動く速度を上回るからこそできる芸当だ。
目の前にグランドヌエが見えて首元に付けていた影糸を引っ張って加速。その首を斬りつける。
体が地面からグランドヌエの首を通り抜けて上空に晒されると、尻尾の蛇が俺に噛みつく。
だがそれも計算済みでの行動だ。
尻尾の付け根に絡めておいた影糸を引っ張って上空から蛇の頭部を避けて、デュランデイズをブラックデイズに切り替えて尻尾の付け根を斬りつけた。
「ギャシャアアアアアア!」
全体的には闇属性なのに、尻尾だけ属性なしだからな。こういうときのブラックデイズは強力だ。
「――――セイクリッドバースト!」
黒い雷の発動時間が終わり消滅してすぐにディアナの攻撃が始まる。
リンも混ざりしばらく三人でグランドヌエを全力でボコボコにする。が、さすがにタフで中々倒れそうにない。
わりと全身が傷だらけだからそろそろ倒れそうだが、さすがはレイドボス級魔獣である。
奥で呪文を唱え続けていたリサの周りに、凄まじい魔力の渦ができる。
その気配を察知してか、グランドヌエが顔色を変えてリサに向かって走り出した。
「ベリルくん! まずいよ! リサちゃんが!」
「ああ――――任せておけ!」
俺は念のために残しておいたリサの近くに付けておいた影糸を引っ張って彼女の前に立った。
「リサ。俺を信じろ。何があっても守ってやる」
返事はない。でもリサからは「うん」と答える気配が伝わってきた。
呪文を唱えているリサを見ていると、地面が揺れるのが感じられる。
振り向くと全身が傷だらけのグランドヌエがこちらに向かって走ってくる。
レイドボス級ともなればこれだけ傷があってもタフさで耐えられるし、黒い雷の範囲攻撃をしたときに確認できたのは、自己回復もしているから放置しておくとまた全快してしまいそう。
そんな魔獣でもリサの魔法は恐ろしいのか。
まあ、あの魔力の渦が敵なら俺もちょっと怖いかな。
転換で【シャドウウォーカー】から【エクスキューショナー】に変更する。
右手にデュランデイズ、左手にブラックデイズを握る。
職能【グリムリーパー】のスキル三種はそれぞれ特性があり、速度重視の【シャドウウォーカー】、遠距離と範囲攻撃重視の【サイズマリオネット】、そして――――対人や対ボス戦重視の【エクスキューショナー】。さらに前世で俺が選んだスキルは【エクスキューショナー】。最も使い方を研究し使い慣れているのがこのスキルだ。
「ふぅ……久しぶりにやるか」
息を吸い込んで体に染み渡らせる。
グランドヌエに向かって飛び込んで斬りつける。
だがグランドヌエの突撃は非常に強力で、俺の小さな体など簡単に弾き出されてしまった。
「ベリルくん!?」
遠くで驚くディアナが見える。
懐かしいな、この感覚。
「――――秘技、死神覚醒」
俺の体から赤黒のオーラが沸き上がり、手にもってる二本の大鎌も真っ黒の影を纏い死神鎌へと変貌した。
異世界に来て死神覚醒を使うのは二度目か。
前世ではいつも使い続けていたけど、今世では痛い思いをしなければ使えないのがな。
空中でも空気を蹴りつけて飛び込める。
両手の大鎌をクロスさせて斬りつけると、グランドヌエの全身に大きなエックス字の傷が付けられ、巨体ごとその場から後ろに弾かれて倒れた。
能力が上がり過ぎて空気を蹴れるってすげぇな、異世界!
空に飛び込んで、回転しながら倒れたグランドヌエに追撃を与える。
斬撃のはずなのに斬りつけたグランドヌエが倒れている地面が、ドーンと大きな音を響かせてのめり込んだ。
「ベリルくん~詠唱終わったよ~」
後ろから軽やかなリサの声が聞こえる。
「おう! やっちゃって!」
「あい~!」
グランドヌエから距離を取る。
「――――アビスディメンジョン」
リサの周りの魔力渦が一瞬で消え、グランドヌエの周囲に凄まじい魔力の渦が現れて、地面から無数の黒い手がグランドヌエの体を掴む。
「ギャララララァァァアアアア!」
地面から無数の黒い棘が生えてグランドヌエの頑丈な体を簡単に貫く。
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グランドヌエ(レベル75)を倒しました。
経験値450000を獲得しました。
称号【転生者】により獲得経験値が1/10に下がります。
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称号【魔王と呼ばれていた者】
(9/100)
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レベルが18から19に上昇しました。
ステータスポイントを3獲得しました。
称号【転生者】により獲得ステータスポイントが10倍になります。
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【職 能】グリムリーパー
【レベル】19
【 力 】50
【俊 敏】200+200
【器 用】50+100
【頑 丈】1
【魔 力】1+100
【抵 抗】50+200
【 運 】165+200
【SPスキルポイント】30
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