第91話 まさかの答え
さらに一週間が経過した。
その間も俺達は毎日のように、ダンジョンに潜りレベリングを続けた。
最深部の五層にたどり着いてから、レベリングの速度が一気に上昇した。
「ご主人様~褒めてください~!」
リンが俺に頭を押し付けてくる。
「はいはい」
彼女の頭をポンポンと優しく撫でてあげると、可愛らしい猫みたいに「はにゃ~」と鳴き声をあげる。
「ベリル。私にもして」
「お、おう」
左手のところにリサがやってきて、彼女の頭を優しく撫でる。
後ろから尻尾を振りながらこちらを見つめるポチがまた可愛い。
彼女達が満足したあとにポチもワシワシと撫でてあげた。
「…………」
「…………」
ディアナと目が合う。
「え、えっと」
「えっち」
「まだ何も言ってないし!」
ぷいっと後ろを向いた。
最近ずっとこんな感じなんだけど一体どうしたんだ……。
「みんなレベルはどのくらいになったんだ?」
「私、89」
「私は92だよ~ご主人様~」
「お~いい感じで上がってるな」
今の俺の配下判定ならレベル50までならあっという間に上がるけど、やはり99まではそう簡単には上がらないんだな。
「ん? ディアナ? どうしたんだ?」
「え、えっと…………二人とも上がるの速いね? この前まで私より低かったのに……」
ディアナは狩りを始める前は73。リサが意外と60でリンが69だった。
それがあっという間に上がって、90台近くまで上がったな。
できればカンストの99まで上げたいところだが……まだ少し時間が足りないな。
「ディアナはいくつになったんだ?」
「私……75……」
「お。2も上がってるじゃん。たった一週間ちょっとでかなりハイペースだな」
「そ、それはそうなんだけど……二人の上がる速度が思ってたよりもずっと凄い……どうして――――」
ディアナと俺と目が合って、段々何かを納得したように「うんうん。そっかそっか」と呟いた。
「これも全部ベリルくんのせいね?」
「せいじゃなくておかげって言って欲しかったな~」
「やっぱり…………」
「誤解されそうだから言っておくが、ディアナは仲間はずれだからしてないんじゃないからな」
「えっ? そうなの?」
「おう。ディアナは大事な仲間だからな。ただ……この能力は俺が選ぶことができないんだ。俺と相手がお互いに納得した上で、俺の配下になることでボーナスが与えられるものになっているんだよ。だからクロイサ町のみんなも簡単に上がるんだ」
「配下か……リンちゃんはわかるけど、リサちゃんはどうして?」
「それは俺も知りたいところだな」
リサに視線を向けると、大きな目をパチパチと瞬きした。
「私、ベリルくんの婚約者」
「「あ~」」
ディアナと声が揃った。
「だからお嬢様もか……なるほどな~婚約者って配下じゃないと思うんだけど、そこの定義はわりかし曖昧なのかもな。少なくとも友達は判定されないのは確かだな」
「……それってリサちゃんがベリルくんの婚約者になりたいだけで、ベリルくんがリサちゃんを婚約者だと認めなかった場合はどうなるの?」
「それは多分判定されないかな。あくまで俺も認識していて、相手もってなってるっぽい」
「そうなんだ……」
「だから仲間外れにしてるとかじゃないからな?」
「う、うん」
「まだレベルカンストまで少し掛かるな……それはそうと、明日は伯爵様がいらっしゃる日だな」
明日の休日は、エンブラム伯爵様とルデラガン伯爵様の二人が来ることになっている。
こうでもしないと、あの王妃様が毎週来てしまうからな。
さすがは王家というか、金払いは良いので太客ではあるが独占は勘弁して欲しい。
「そうだね。お父様はともかく、お母様はとても楽しみにしているんじゃないかな」
ディアナのお母さんは、可もなく不可もない令嬢って感じで、ルデラガン伯爵様の後ろにひっそりと控えている優しそうな女性だったな。
「婚約者さんも一緒にくるのか?」
苦笑いを浮かべるディアナ。
「たぶん来ないんじゃないかな。お父様が離れたときに領を守る仕事があると思うし」
「そっか。できれば、ディアナの婚約者さんとも仲良くなっておかないとな」
「ノアさんと? どうして?」
「どうしてって、うちのお嬢様とディアナが仲良しだからな。婚約者同士も仲良くなっておきたいというか、ほら、俺って敵多いしさ」
「ふふっ。ベリルくんがそう思うなんてびっくりしたよ」
「まあ……ディアナに言われて……お嬢様にも向き合わないといけないって思ったからな……い、一応……婚約者なんだし」
「そうね。これからもちゃんとクロエさんのこと、大事にするのよ?」
「お、お嬢様が他の好きな人ができたら婚約は何とか破棄するから!」
「はいはい~あと、リサちゃんもね?」
横で一緒に聞いていたリサがひょっこりと顔を出した。
「そうだな。エヴァさんを説得しないとな」
「あ……エヴァさんが反対したんだ…………それは大変だね」
「ははは……頑張るよ」
談笑をしながら、ダンジョンを出て、転移陣を使い屋敷に帰ってきた。
◆
翌日。
朝一に広場で待っていると、毎週来ている豪華な馬車とは違う豪華そうな馬車が一台やってきた。
扉が開いた瞬間、ぶわっと凄まじい強者の気配が周りに広がっていく。
一応護衛のために警備隊長でもあるレイナールのお父さんとその部下達も待機していたのだが、全員が身構えてしまうくらいに強烈な気配だ。
馬車の中から、巨体の男性が降り、後ろからおしとやかな女性が降りてきた。
「ルデラガン伯爵様。お待ちしておりました」
「がーははっ! 久しいな! シャディアン男爵!」
「ど、どうも」
笑い声だけで周りに風圧が感じられるくらい凄まじい。
そんな伯爵の後ろを平然と歩いている伯爵夫人も実は中々すごいのでは……?
「お父様。お母様」
「おう。久しいな、娘よ」
これだけ怖い伯爵も娘さんの前では愛おしそうな表情をするものだな。
「夕方から町で祭りも行われますので、それまでごゆっくりと過ごしてください」
「ああ。そうさせてもらおう。行こうか」
「はい。貴方」
ディアナが案内してくれて、その後ろを伯爵様が追いかけ、一歩後ろを伯爵夫人が歩く。
こう見るとやっぱり家族なんだなってよくわかる。
ルデラガン伯爵様達がちょうど旅館に入った頃に、もう一台の馬車がやってきた。
「お嬢様。緊張してますか?」
「す、少し……」
「大丈夫ですよ。何があっても俺が守りますから」
「うん……ありがとう。ベリル」
久しぶりに小動物みたいになってるお嬢様がまた可愛いな。
馬車が止まり、扉が開いて一人の男性が降りてきた。
久しぶりに見るふてぶてしい腹と表情。人を人だと見ていない冷たい目。こう見ると俺が六歳で初めて出会ったときと変わらないな。
「いらっしゃいませ。エンブラム伯爵様」
「……あれが旅館か?」
「はい」
伯爵の後ろで顔色を伺いながらも旅館に目を光らせている伯爵夫人も相変わらずだなと思った。
そもそも降りたら娘のことを真っ先に気にするべきだろうに……。
「お、お父様……」
「クロエ――――よくやった」
「へ……?」
まさかの言葉に俺もお嬢様も思考が停止するくらい驚いてしまった。
「シャディアン男爵家がこの地に温泉を管理し、この先エンブラム伯爵家の力となれば、お前は最高の役目を果たしたことになる」
おいおい……どこまでも娘を……家の道具として使うつもりなのか……!
「は、はいっ……」
ただ、お嬢様はどこか嬉しそうに少し目元に涙が浮かんでいるのが見える。
「これからもシャディアン男爵の婚約者として最善を尽くせ」
「はい」
「クロエちゃん、偉いわ~!」
「お母様……ありがとうございます」
お嬢様の腕に抱き付いた伯爵夫人は、そのまま二人で旅館に向かった。
「エンブラム伯爵様。少し時間をいただきたいのですが」
「ああ。陛下から連絡はもらっている」
「ありがとうございます。ではこちらにどうぞ」
エンブラム伯爵を連れて、諜報員達が捕まっている警備隊の建物に向かった。
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