第89話 侵入者

「今日はダンジョンで狩り?」


「ああ。三日くらいここで階層を上った方がレベリングはしやすい気がするから」


 ディアナの屋敷の地下にみんなで転移してきて、そこから四人で中に入った。


 赤色を帯びた洞窟の壁がずらりと並ぶ。


「ここは火属性の魔獣が現れるから、リサが得意とする氷属性魔法もかなり効き目がいいはずだし、リンが得意な雷系統忍術も効かなくなるとかはないからいいと思う」


「「「了解!」」」


 いつもならお嬢様の護衛をお願いしているポチも連れてきた。


「ポチが一番前で前進、一番後ろは俺が護衛として付く! 出発~!」


 俺の号令に合わせてポチが道を知っているかのごとく走り出して、ディアナ達がその後ろを追いかける。


 ポチも程よいスピードで走り、前方に敵を見つけた瞬間に、「ワン!」と短く叫ぶ。


「「「了解!」」」


 ディアナ達には何も言ってないし、ポチが何を言っているのかもわからなかったはずなのに、敵だってことがわかるくらいには、ポチの性格をよく知ってくれてる。


 前方に全身が赤い巨大トカゲが現れて、ディアナ達が阿吽の呼吸の連携を見せ、一瞬で魔獣を倒した。


 やはり俺の出番はないか。


---------------------

フレイムリザード・王(レベル60)を倒しました。

経験値30000を獲得しました。

称号【転生者】により獲得経験値が1/10に下がります。

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 魔獣を倒す度に魔石がマジックバッグの中に回収され、どんどん先を進む。


 最奥に着くと、以前ディアナが負けそうになった巨大赤トカゲが姿を現した。


「私! 先行したいっ!」


「「了解~!」」


 真っ先にディアナが走り出し、トカゲを回り込む。


 やがてこちらに背中を向けた頃に、ディアナの攻撃が始まり、背中に向かってリサの魔法とリンの忍術がさく裂した。


 俺も見てばかりじゃつまらないので、【ダブルテレキネシスサイズ】でトカゲの足を斬り落とす。


 ディアナは勇者特有の技【アテンション】を繰り出し、相手に強制挑発効果を与えて注意を引き続ける。


 トカゲの攻撃はディアナに掠りもせず、全てを綺麗に避けながら戦い続け、一分もしないうちに巨大赤トカゲがその場に倒れ込み、魔石となって俺のマジックバッグに収納された。


 ダダダッと走ってきたディアナは嬉しそうに、リンとハイタッチをして、リサにもハイタッチをする。


 そして、俺のところに走ってきては、急ブレーキのように止まった。


「…………」


「…………」


 顔を赤くしたディアナは、何も言わず「次に行こう~!と階段に向かった。


 …………一体何だったんだ? 俺……何か嫌われることでもしたっけ……?


 そのまま二層に入り、魔獣がトカゲから不思議な巨大蝶々に変わったりしたが、二層もあっという間に突破してフロアボスも倒し、三層に着いて今日は狩りを終わりにした。




 いつもの日課でディアナを屋敷まで送る。


「見送りなんていいよ……?」


「いやいや、女性を一人にはできないよ。それに――――」


「…………」


「…………」


「それに?」


「…………いや、ディアナはめちゃ綺麗なんだから、誰かに狙われてもおかしくないから」


「…………」


 言わない方が良かったのかな……。


 それからディアナは一口も聞いてくれず、下を向いたまま屋敷に入っていった。


 はあ…………。



 ◆



 それから数日間、ダンジョンでレベルを上げながら魔石をかき集めた。


 魔石はリサの分をエヴァネス様に渡して屋敷の動力源にしてもらい、残った分はクロイサ町のいろんな魔道具の動力源にする。中でも結界の動力は結構消費が激しいので、定期的に入れないといけないから。


 他にもミハイルのお父さんがもたらしてくれた魔道具もいくつかあって、今では街路灯がクロイサ町の道路に並んでいたり、各家にも明かりが灯るようになった。


 それとまだクロイサ町を開店して一週間も経たないのに、既に利益は相当高いんじゃないかと聞いている。


 やっぱり大浴場の力は凄くて、今では王都から直行便馬車がいつも満員になっているくらいにはお客様が多いし、クロイサ町が賑わってくれてるのが肌で感じられる。


 明日は休日ってこともあって、今日はダンジョンに行かずに、クロイサ町でのんびりする。


 そのときだった。


 バチッバチッと旅館の方の結界に何かがぶつかる感覚・・・・・・が伝わってきた。


 エヴァネス様が作ってくれた結界用魔道具の優秀な点は、強烈な壁になっている以外にも、何か衝撃が加わった時に、こうして“侵入者”がいるって教えてくれる点だ。


 俺と、警備をお願いしているシリング準男爵、冒険者ギルドにも連絡が入る仕組みになっている。


「リン。俺は急いで温泉に向かう。お嬢様の護衛を」


「了解しました。ご主人様」


 一緒にいたお嬢様がポカンとしてる中、俺は力を全開にして技【影移動】を使って一気に屋敷から旅館に向かって走った。


 結界の壁は俺も通り抜けれないので、それに沿って走る。


 すると遠くに黒い装束の複数の人が見える。


 壁に当たるだけなら何てことはないけど、壊そうと強打した場合、感電させる電撃を放つ防衛機能まで発動したみたいだ。それくらい賊達は壁を突破したかったんだ。


 暗殺者ならどうしてうちの屋敷ではなく温泉に? ディアナもお嬢様もうちの屋敷に居たのに。


 それと気がかりなことは、周りに気付かずにここまでたどり着けたのには驚いた。


 影のままだから、俺のことは気が付かないのか、逃げずに麻痺で動けない味方の安否を確認している。


 そこから一気に飛びついて手前の男を叩きつけた。


 ――――カン!


 防がれた!? この速度で!?


 ふと目があった男の顔に見覚えがあった。


「あんたは…………エンブラム伯爵様のところの?」


「久しいな。姫騎士」


 姫騎士……か。そう言われるのも久しぶりだ。最近はもっぱらシャディアン男爵と呼ばれているからな。


「まさかこんな結界を用意できているとはな」


「これでも観光地の領主ですからね。それで? 何のためにここに来たか教えてもらいますよ? いくら貴方がマスターアサシンだと言っても、この包囲網を潜り抜けて味方を全員逃がすのは至難の業でしょう」


「エンブラム伯爵様に敵対するのか?」


「まさか。俺はただ賊を討っただけ。それにこんな男爵になったばかりの俺にやられたとなったら、貴方の実力なんてその程度と言われるだけなのでは?」


「…………わかった。降参する」


「では全員捕縛させてもらいます」


 俺が手を上げると、周りで機会をうかがっていた兵士達がやってきて、彼らに手錠をかけた。魔獣の素材で作られた特殊な手錠はスキルや技を封印して動けなくさせる。これで彼らが暴れることはないだろう。

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