六章

第85話 招待

 晴天。


 周りでは鳥のさえずりの音が聞こえ、クロイサ町の中では多くの住民達が忙しく動き回っている。


 それでも誰一人辛そうな表情は浮かんでおらず、むしろウキウキしてワクワクしているのが伝わってくる。


 さらに彼らの間をすり抜けて走り回る子供達もまた、自分達がやりたいことを見つけたくてうずうずしているようだ。


「領主様っ~!」


「やあ。メイちゃん」


 彼女はクロイサ町の子供達の中でも一番の人気者であり、とても心優しい少女で、いつも多くの人達を気にかけているし、少し調子が悪い人でもすぐに見抜いては強制的に休憩をさせたりしてくれている。


 大きくなったら町長をお願いしたいくらい優秀で優しい子である。


「これから王様がいらっしゃるんですよね~?」


「そうだぞ」


「じゃあ、私達も王様を歓迎しますね!」


 メイちゃんの後ろには多くの子供達が道沿いに一列になって並んでいた。


 何をする気なんだ……?


 そのとき、クロイサ町の入口から何台かの馬車がこちらに向かってやってくる。


 豪華な馬車とそれを囲うホースに乗った騎士達。


 後ろには通常の馬車が十台と荷馬車が二十台くらい列になっていて、かなり壮観である。


 中央広場にやってきた馬車から、多くの人達が降りてきた。


「「「「「ようこそ~! クロイサ町へ~!」」」」」


 道沿いに一列で並んでいた子供達が、チアダンスでよく使われるポンポンと取り出して、奇数偶数に分けて飛んだり、しゃがんだりして綺麗な声を上げてくれる。まるで前世の子供のチアダンスである。


 ちらっとディアナを見ると、嬉しそうにピースサインをした。


 やっぱり犯人はディアナなんだな。


「ほぉ……これはまた可愛らしいな」


「いらっしゃいませ。陛下。ベリル・シャディアン男爵でございます」


「久しいな。シャディアン男爵。今日は高級温泉旅館の開店ということで、最初の客として招待されて嬉しいぞ」


「これも全て陛下のおかげでございます。本日はごゆるりと過ごしてくださいませ」


「少し貴族として慣れてきたようだが、まだぎこちないな。はははっ!」


 あはは……くぅ……王様とかそんな偉い人の前だとやっぱり緊張がな。


 ふと、隣で笑みを浮かべて王妃様が優しい笑顔で手を振ってくれる。


「ベリルくん~招待ありがとうね。温泉とても楽しみにしてたのよ?」


「さっそくご案内します。こちらのエンブラム伯爵様のご令嬢クロエ様と、ルデラガン伯爵様のご令嬢ディアナ様でございます」


「「本日はクロイサ町にお越しくださりありがとうございます。温泉までご案内致します」」


 二人の息もピッタリである。数時間練習しただけのことはあるし、本番できっちり成功させてるところは、さすが英才教育を受けてきた伯爵令嬢様だ。


 王様と王妃様が二人と一緒に高級温泉旅館に向かう。


 一緒に来たアルは、どうやら面白いものが見れるからと二人と一緒ではなく、俺の近くに残った。


 次の馬車から降りたのは、見た目だけでも強そうな人達がぞろぞろと降りる。その中に、冒険者ギルドのサブマスターのディランガさんもいた。


「ようこそ。クロイサ町へ」


「シャディアン男爵様、本日はご招待いただきありがとうございます……まさか廃鉱前の町がこのように生まれ変わっているとは思いもしませんでした」


「たまたま山の上に温泉が湧いてね」


「「「「温泉!?」」」」


 周りの冒険者達も目の色を変えて驚いた。


「あそこの上に見えるのは“高級温泉旅館”と言って、温泉を最大限に堪能できる場所になっている、値段が高いのとそれなりの身分が必要にはなるがディランガ殿なら資格も十分。本日はあちらで泊っていただこう」


「はは……まさかこんなことになるとは……」


「見たところ、他の冒険者達も一緒に来たようだが……?」


「ええ。紹介が遅れました。こちらは王都で活躍している上位の冒険者達やギルドの職員達です」


「ふむ。申し訳ないが全員温泉に泊ることは難しい」


 そう話すと後ろの人達が悲しそうな表情を浮かべた。


「代わりに、クロイサ町では平民達が利用できるように“大浴場”という施設がある。こちらは上程ではないが、温泉の源泉を混ぜた風呂場がある。ただ個室は存在しないので少し窮屈だとは思うが――――」


「じゅ、十分です! ぜひこちらの冒険者達にも堪能させていただける嬉しいです!」


「ああ。ではいろいろ話し合いがあるとは思うが、まずはクロイサ町でゆっくりと普段の疲れを癒すといい」


 道沿いに並んでいた子供達がわーっとなだれ込んだ。


「「「「私達がご案内致します~!」」」」


 そう話した彼らは冒険者達一人一人に付きっ切りで、町を案内し始めた。


 これこそがクロイサ町の子供達の仕事である。


 実は子供達には働くことなくのびのびと成長して欲しかったけど、俺が生まれ育ったポロポコ村のように十歳にもなるとみんな働くのが当然の考えだし、中でも貧民街で育った彼らは幼い頃から誰かのために働きたがっていたりする。


 彼らには正確な給金を与えているわけではないが、それでも衣食住におやつなど、町をあげて与えるようにしてるから彼らもより頑張って働こうとしていたりするのだ。


「こちらの方達は旅館にご案内しますね~領主様~」


「ああ。よろしく頼む。メイちゃん」


 ディランガさん含むギルド上層部の人達と上位冒険者パーティー二組は、メイちゃんが案内してくれた。


 荷馬車組の馬車から降りたのは、ミハイルのお父さんと先日挨拶に来てくれた職人達だ。


「シャディアン様。本日は我々まで誘って頂きありがとうございます」


「俺としてはグッドマル商会がクロイサ町だけでなく我が領の主軸を担う商会になってもらいたいなと思っている。それに連なる職人達にもより働きやすく良い環境を提供したい。本日はクロイサ町が目指す未来を感じてもらい、ぜひ――――移住も考えてもらいたい」


 グッドマル商会に関わる職人達は、ほとんどが王都や近くの街に住んでいる。それは商売のために材料が簡単に買える王都が相性が良いからだが、その分ライバルも多い。


 そこで彼らをこの地に集結させれば、クロイサ町に必要なものをダイレクトに提供してもらうことも可能だろう。


「なるほど。男爵様の狙いはそこでしたか……」


「構わないだろ?」


「ええ。選ぶのは職人達です。なるほど。今日に合わせて材料も持ち込むのも、彼らに示すため……ふふっ。“大浴場”がある以上、勝ち目はないでしょうな~」


 また子供達がわーっとやってきて、職人達に町を案内を始めた。


 ミハイルのお父さんはすぐに荷下ろしを始めたり、俺はアルと一緒にクロイサ町で行う予定の計画を話してあげた。

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