第79話 会議

 まさかのお嬢様とディアナが王妃様と一緒にいるってことで、自然と俺が指揮を執らないといけなくなってしまった。


 全てをお嬢様に押し付けようとしたのが裏目に出てしまった……。


 ミハイル達三人はリサと子供達が案内をしてくれて、俺はアルと一緒に大人達と話し合いの場に集まった。


 長椅子にずらりとそれぞれの代表が並び、その後ろに各家や所属部下達が並ぶ。


「ごほん。本日は集まってくれてありがとう」


「「「ははっ!」」」


 あああああ! こういう雰囲気めちゃ苦手すぎるんだけど!


 ちらっとアルに助けてって視線を送ったが、「自分でやれ」って視線を返してきた。


 はあ…………お嬢様のためにもやるしかないか。


「まずは、先ほども紹介したが、新たに仲間になることが決まった三家だ。準男爵位ではあるが、この町では爵位などに囚われず、みんながそれぞれ思う存分才能を発揮し努力して欲しい。貴族だからといって優先して報酬を多くするつもりも待遇を良くするつもりもない」


「「「ははっ!」」」


「早速になるが、これからそれぞれ部隊を細かく分けることにする。まず、ロガン・シリングさんを主軸に警備隊を結成。町の守りから町内での犯罪行為なども含め警備全般を任せる」


「光栄でございます……! このロガン。今まで培った全ての武を持って、この地を守ると誓いましょう」


「では次、町の経理全般をソルユ・グッドマルさんに任せる。土地や商売権利などの詳細は今後の相談にはなるが、シャディアン領地内の全ての商売を任せるつもりだ」


「お任せください。シャディアン家に最大の富をもたらせるように励みます」


「次、アリアさんとルナさん。お二人には町全体の温泉業を任せる。まだ開店していないがこの町の一番の稼ぎになるであろう高級温泉旅館の運営、そして平民達の憩いの場となる大浴場の運営。食材や料理人などはこれからグッドマル商会と提携して進めてくれ」


「「お任せくださいませ。領主様」」


「次、スイランさん。今まで集落を率いたその実力を高く評価し、これからクロイサの――――町長を任せる」


「!? りょ、領主様! お、お待ちください!」


「ん?」


 スイランさんが驚いて目を丸くして俺を見つめる。


「この老いぼれにそんな大役など……しかも貧民であった私などではなく……」


 確かに年齢のことを言うなら、スイランさんは七十歳のおばあちゃんだ。とはいえ、まだまだ元気だし、何より――――彼女の物覚えの良さには驚くものがある。例えば、町に住む子供から大人まで全員の顔と名前を憶えているし、何なら彼らが何が得意で何が好きなのかも全て覚えているのだ。


「もしスイランさんが年齢上働けないのなら無理強いはしない。でも俺は爵位とかではなく、みんなの実力を買いたい。この町で誰よりも町民達のことを知っているのは他ならぬスイランさんだ。もちろん一人でとは言わない。後ろにいるお孫さんのディルさんとも連携し、これまでと同じようにしてくれればいい」


「領主様……」


「それに俺ではなく、この地に住む民の中で最も信頼できる人と言えば――――スイランさん。貴方だけだ」


「っ……貧民や農夫など関係なく……我々を雇用してくださるのですね」


「もちろんだとも。仕事は爵位でするものではない。みんなが得意なことでみんなのために働いてお互いを支え合うからこそ、良い仕事ができるというものだ。これからも町を……いや、町民達のためにその力を振るってはもらえないだろうか?」


 その言葉に、スイランさんだけでなく、周りの他のメンバーも涙を流し始めた。


 ええええ!? ど、どうしたんだ!?


「領主様からの期待……この老いぼれ、年齢にいい訳せず、自分ができることを精一杯やりましょう……!」


「それはありがたい。ただ無理をして体を壊さないように、ちゃんと毎日大浴場に入って心身ともに健康的にしてくれよ」


「ははっ……!」


「さて、次は……グラン。お前には領地内の全ての鍛冶に関する管理を任せたい。基本的には町民達が必要な道具を作ってもらいつつ、警備隊が必要な装備を優先してもらいたい。領内の経営が落ち着いたら、あとは自由に鍛冶できるようにしよう。経費に関しても多めに確保するようにする」


「お、おう!」


「次はボルドさん。領地内全ての大工に関する管理を任せる。クロイサ町の開発もそうだが、今の規模よりもずっと大きくなると思う。それを想定した作りを心掛けてもらいたい」


「お、俺ですか!? か、かしこまりましたっ……! まさかこんな俺がこんな重要な役割を任されるとは思いませんでしたが……全力で頑張ります!」


 ボルドさんは大工の中で一番実力もあるし、人当たりも良い。前世のイメージで大工の人は荒っぽいイメージがあるけど、ここが貧民達の集落だったからなのかはわからないが、みんな凄まじく協力し合ってたりする。その主軸にいるボルドさんにこそ相応しい立場だ。


「次は――――父さん。ポロポコ村出身の農夫達をまとめて農家をまとめてもらいたいんだ。それと王国の農夫は異様に下に見られがちだけど、小麦にはいろんな使い方があるし、これからそれらを開発するチームも作りたい。クロイサ町でも非常に重要な役割だから頑張って欲しい」


「ま、任せておけ! 領主様の父として全力で頑張るぞ!」


「その件の続きで、母さん。さっき言った小麦の開発チーム――――つまり、料理を開発するチームをまとめてもらいたいんだ」


「料理……?」


「うん。クロイサ町はこれから観光大国にしたいと考えている。目当ては温泉なのはそうだけど……できるなら美味しい料理があった方が絶対にいいと思う。観光地なら少し値段を上げてもみんな買ってくれるはず。温泉の値段を少し安くして料理の値段を高くしたいのが一番の狙い。これでよりグッドマル商会が食材を活発に利用できるようになるからね。それにいろんな美味しいものが食べられるなら次も来たいって思わせるからね。お願いできる?」


「そ、そっか……わ、わかったわ! 領主様の母として頑張ります!」


 父さんと母さんがいてくれたら百人力だ。


 できるなら楽させてやりたいんだけど、たぶん二人とも落ち着かないだろうし、今でも屋敷に住んでいるのにいつまでも慣れないみたいで、メイド達に何かしてもらうと頭を下げて感謝を伝えている。


 だからこそ二人が楽しく活躍できる場を提供する方がいいと判断した。それに、何も両親だからって理由だけじゃない。父さんの農業技術は今までいろんな農夫を見てきたけど、かなり上位の実力だ。


 父さん曰く、幼い頃に俺が仕事を手伝ったのがめちゃくちゃ悔しかったらしい。俺に心配かけないようにと父さんの心に火が付いて頑張ったという。


 母さんは食材が取れるようになってから、いろんな料理を試していて、いつも美味しいご飯を作ってくれた。きっと料理が好きな上に、新しい料理を研究する料理研究家としての才能があると思う。それを存分に発揮してほしい。


「次はライゼンさん。グッドマル商会から食材の輸入だけじゃ足りない。幸いなことにクロイサ町の周辺は魔獣がバランスよく出現するので、肉の調達がとてもしやすい。そこにも力を入れたいので狩人をまとめてもらいたい」


「領主様。一つお聞きしてもよろしいでしょうか」


「どうぞ」


「どうやら最近みんなのレベルが急激に上昇しております。できれば西の森へ入る許可をいただきたいのですが」


 クロイサ町は東が弱い魔獣、西が強い魔獣が出現する。


 中でも西は王都周辺でもかなり強い部類で、炭鉱が廃鉱になってから炭鉱町が廃れた一番の理由でもある。


 ときおり現れる強力な魔獣……だが炭鉱町が廃れて強い魔獣も来なくなった。


 先日、俺が西の魔獣はそれなりに狩っておいたからしばらくは問題ないが、今からは大きな問題にもなる。


「許可する。むしろそれらも頼もうとしていた。だが、すぐにではなく、まずは装備を整えよう。鍛冶組に作ってもらうには少し時間がかかるから、グッドマル商会を通して調達する方向でいく」


「ありがとうございます……!」


「以上の組分けをし、しばらく活動をしてもらう。給金などはこれからグッドマル準男爵とも相談して悪いようにはしないと約束する。成果には言葉だけではなくちゃんと報酬も与えようと思っているので、それぞれ部下達にも今日の決まり事など、細かく伝えてくれ。それと再度になるけど、身内での格差を作るつもりはない。貴族位も関係なくお互いがお互いを支え合う領地を目指す。それが嫌な人は今のうちに離れるように!」


「「「「ははっ!」」」」


 ようやく会議は終わり、みんなが会議室から出ていって、大きな溜息を吐くとアルが「お疲れ」と肩をポンと叩いてくれる。


 アルも王子としてこういうことをしているんだろうし……こういう指揮を執る人は本当にすごいなと改めて思った。


 そして、もう二度とやりたくないと思った。

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