第78話 増えていく仲間
翌日。
早朝からお嬢様とリン、リサ、ディアナは先にクロイサに向かった。
最近ディアナもほぼメンバーになりつつある気がする。
俺が食堂で朝食を食べていると、俺の背中をポンと優しく叩く感触があった。
「よ!」
「ん? アル!? 今日は休日だぞ?」
「知ってるさ。面白そうなことが起きそうだから来たんだ。ただ……すまんが、こちらの女性も一緒に連れていくことになったのでよろしく頼む」
アルの隣にはこれまたべっぴんの女性が立っている。アルと同じ美しい金色のロングヘアにスラッとしたスタイルでどこにいても目立つ程の美女だ。年齢は大体二十代後半か?
「初めまして。シャディアン男爵様。私はアリスと呼んでくださいませ」
「アリスさん……ですね。よろしくお願いします」
見た感じ貴族家の娘っぽいな。まあ、うちのお嬢様よりもずっと貴族家の娘っぽさが溢れている。
アル達は朝食を食べてきたらしく、俺の両脇に座り、楽しそうにいろいろ話しかけてきた。
最初はおしとやかだと思われた女性は、何だか好奇心旺盛な令嬢みたいな雰囲気だった。
朝食が終わって外に出ると、ちょうどミハイル達がやってきた。
「アルフォンス様!? そ、それにそちらは!」
「わあ~ベリル様のご学友ですね~私はアリスって言います。アリスで~す!」
「へ? はっ! は、はい。初めまして。私はミハイルと申します。グッドマル準男爵の長男です」
「うふふ」と笑うアリスさんからは得体の知れない圧力を感じる。
「ベリルくん。すまんがお父さん達がアルフォンス様を見かけると驚くと思うから、俺達が一足先に説明するから少しだけ待ってから来てくれ」
「わかった」
慌ただしく学園の馬車乗り場に向かう三人を見送る。
「アリス様。あちらの三人はこちらのベリルと同じ部屋で過ごしている者達です」
「そうなんですね~ふふっ。また知り合いが増えて嬉しいですわ~」
う~ん。事情を話そうとしないが、このアリスさん……一体誰なんだ? アルが一緒だから怪しい人とかではないと思うし、まあ、いいか。
二分くらい待って、俺達も馬車乗り場に行くと、何人かの大人達とそれぞれ馬車が止まっていた。
「初めまして。ミハイルの父、ソルユ・グッドマルです」
「ベリル・シャディアンです。本日はお越しくださりありがとうございます」
「いえ。こちらこそ誘っていただき嬉しいかぎりです」
そして男性一人、女性一人がソルユさんの両隣に立った。
「初めまして。レイナールの父、ロガン・シリングと申します」
ロガンさんはシリング家が武家という通り、屈強な戦士の風貌をしている。それに感じられる圧力も中々のものだ。
「私はシリカ。セラファ家の妻です。息子が大変お世話になっております」
彼女の後ろにおどおどしているルインと彼に瓜二つの男性がいて、お父さん似なんだなと納得がいった。
「皆さんも来ていただきありがとうございます。ご子息から伝わっているとは思いますが、ここから西に向かった廃鉱周辺が俺の領地になっています。廃鉱前の集落の開発を進め、今はクロイサ村と名乗っていますが、まもなく町規模になってクロイサ町と呼ばれる予定です。主に観光をメイン産業にするつもりで……これから皆様が見たものは決して口外しないよう、お願いします」
「「「かしこまりました」」」
「それと、皆様も知っているとは思いますが、シャディアン男爵家の協力者として、こちらのアルフォンス第三王子様も一緒に行きますので、よろしくお願いします」
「アルフォンス・デル・クロセーム・ジディガルである。よろしく頼む」
「「「ははっ」」」
さすがアルというか……いつも優しい表情だと気さくでいい奴なんだけど、こう貴族の前で威厳のある表情をすると、一気に空気感が変わるな。
それから俺達はそれぞれ馬車に乗り込み、学園を出発して西にあるクロイサに向かった。
「な、何だここは!?」
馬車を降りたミハイルのお父さんが大声を上げる。
それもそのはず。元々貧民達の集落しかなかった場所が、今では見た目だけなら絵本に描かれた東方風温泉地に見えるからな。
「さっきは言えませんでしたが、実はこの地には温泉が湧き出ているんです。それを利用して温泉地として王国内最大観光地となる予定です。あの上に見えるのは貴族や大商会御用達の高級温泉旅館で、下に見える超広大施設が平民用の温泉になります。うちのシャディアン家としてはここまでが限界で、ここを最大限に利用するには皆さんの力が必要だということです」
と説明を終えた瞬間、ルインくんのお母さんが俺の前に滑るように跪いてきた。
「ベリル様。どうか我がセラファ家をここで住まわせてください!」
「シリカさん!? い、いや……いくらなんでも早くないですか?」
「ここに温泉が湧き出る……それだけでここは我ら錬金術師にとって夢のような場所です」
「ん? 温泉と錬金術師が何か関係が……?」
「大ありです」
と続けて、後ろからアリスさんが俺に抱き付いた。
「ベリル様~町の案内をお願いします~! とっても楽しそうです!」
「ぬわっ!? ア、アル!? 助けてくれ!」
「はあ……アリス様。いい加減にしてください」
「え~アルフォンス様~いいではありませんか」
「よくありません! いい加減にしてくださいっ! ――――お母様!」
――お母様!
――――お母様!
――――――お母様!
俺の耳にどうやら不穏な言葉が鳴り響く。
「お……母……様? アル……?」
「あっ。アルったら。もうちょっとそのままでいてくれてもいいじゃない」
「お母様がわがまま言うからです。わがままは言わない約束で連れて来たんですから」
「ちょっと待て~! まさか、王妃様?」
「王妃で~す」
「テンションが軽いわ! うわっ! 思わずツッコんでしまった!」
まさかこれでお前の首を斬るとか言わないよな!?
「うふふ。やっぱりベリルくんは面白い子ね~」
そのとき、遠くからお嬢様とディアナが血相を変えて走ってきた。
「「アリス様!?」」
「あら~ディアナちゃんね。そちらのお嬢さんは?」
「は、初めまして! クロエ・ア・エンブラムでございます」
「エンブラム伯爵の娘さんね~会いたかったわ~」
そう話した王妃様はお嬢様をぎゅっと抱きしめた。
何てフリーダムな人なんだ……。
「はは……悪かったな。どうしても行きたいって言われて仕方なくな」
「ったく…………まあ、来てしまったことは仕方がないな。ディアナ~お嬢様~そちらの王妃様はお願いしてもいいか?」
「「もちろん!」」
「あら~二人が案内してくれるの? 嬉しいわ~」
忙しい王妃様はお嬢様達と楽しそうにクロイサに入っていった。
「ははは……シャディアン男爵様は本当にすごい方だ……。ぜひ我がシリング家にこの地を守る仕事をさせていただきたい!」
シリング家も即答!?
そんな中、ミハイルのお父さんは何やら台帳を出して一心不乱に何かを書き続けていた。
「温泉地……ここで儲けはこれくらいで……しかも平民用温泉? そんなこと聞いた事も見たことも想像したこともないが……これで馬車の権利でここでも儲けが出て……宿屋権利なんかも売れるんじゃないか? これならシャディアン家に莫大な財をもたらすことなんぞ、あまりにも簡単すぎるのでは? いや、待て。これは約束された勝利だ。俺がやるべきなのは……約束された中でもどれだけ莫大な財をシャディアン家にもたらすか。それこそが商人としてここを仕切るということだ!」
はは……は…………どうやらこちらも話に乗ってくれそうで良かった。
ミハイル達三人はどうしているかというと、山の上に建てられた高級温泉旅館と俺の屋敷を見上げながら、時が止まったかのように真っ白に燃え尽きていた。
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