第76話 配下判定

 学園の午後の授業。


「今日から毎週の連休前日、本来行うはずだった課外授業を中止し、対魔獣を競技場で行います!」


 教師の一人がマイクを持って競技場の真ん中でそう話す。


 学園の競技場に良い思い出が全くないので、また何かしらの事件が起きないことを願うばかりだが、学園側もさすがに同じ過ちが起きないように警備を強化しているようだ。


 さらに今回は学園側がメンバーをあらかじめバランスよく決めている。その一番の理由は武術授業のみではなく、魔法授業も共同で行うためだ。


 両授業以外の生徒は参加しないが、いつもよりも大勢の生徒が集まっているのは確かだ。


「リサ? 魔法の授業は受けていないんだっけ?」


「うん」


「魔法が使えるのは隠したいのか?」


「ううん。初日だけ行ったけど、あまり面白くなかった」


 あはは……やはりエヴァネス様から教わった彼女なら、とくに一年生の授業はつまらないかもな。


 そんな中、数人の生徒がこちらにやってきた。


「ベリル男爵様にクロエ令嬢様。わ、私達とチームになります……」


 おそるおそるそう話す生徒。どうやら魔法組から四人とチームになるみたいだ。


 確か彼らは男爵家の者達だった気がする。少なくとも準男爵組は一人も見えない。


「同級生だし、そんなに気を使わなくていいよ。俺も男爵になったのは偶然だし、元々農夫上がりなんだから」


 彼らは顔を合わせて溜息を吐いた。


 今までならともかく、貴族になった俺に蔑むような視線を送る生徒もいなくなった。


 これも前世とは違い、この世界――――とくにうちの王国が貴族社会なのだなと肌で感じるものとなっている。


「で、ではお言葉に甘えて……ベリルくんと呼ばせてもらうよ」


「ああ。よろしく頼む。俺とお嬢様とそちらの四人がチームなのか?」


「その通りだ」


 …………おい。学園。めちゃくちゃバランス悪いじゃねぇか! てか前衛が俺しかいないのでは?


「ひとまず、俺はお嬢様の姫騎士としてもし万が一のことがあってもお嬢様を優先するからな」


「もちろんだ。俺達も自分の身は自分で守る」


 魔法授業の生徒代表と握手を交わして、出番を待った。


 最初のチームが始まると、近隣から捕まえてきたと思われるウルフやらボアやらが解き放たれる。


 最初は一匹ずつだったけど、次第に二~三匹放っているが、最弱魔獣ということもあり、みんな難なく倒していた。


 やがて俺達の出番となった。


「お嬢様」


「わかってるわ! 大丈夫!」


 お、おう……お嬢様が何だか……頼もしい!?


「では六組目いくぞ!」


 奥の扉が開いて、一匹のウルフがこちらに向かって走ってくる。


「ポチ。お嬢様が危なくなったらよろしくな」


「ガフッ」


 お嬢様の影の中からポチの小さな返事が聞こえた。


 お嬢様はどうやら両手で持てる武器が使いやすいらしく、今日チョイスしたのはロングスピアだった。


 誰よりも先にウルフを突き刺しながら横跳びで避ける。


 すぐに後方から魔法が飛んで来て、ウルフを一瞬で倒した。


 続けてすぐに魔獣が投入されたが、意外にもお嬢様は上手くあしらいながら、確実に魔法の射線を意識した立ち回りをしていた。


 次々とくる魔獣を俺はただ眺めているだけで、五人があっという間に倒してしまった。


「ふう……終わったわね」


「クロエさん! すごいです!」


「あはは……ありがとう」


 女子達がお嬢様を褒めると、何だかこちらまで鼻が高い。


 それにしてもお嬢様の動き、中々良い感じだったな。


「お嬢様。お疲れ様です」


「うん!」


「どこでそんな動きを学んだんですか?」


「どこって……クロイサの合同訓練のときにそうしてたでしょう?」


「ん? あ~盾役と攻撃担当ですね?」


「そうよ。敵を倒すのに私が強い必要はないし、魔法の方がはるかに強いもの。私はただ彼らが撃ちやすいようにしただけよ」


「おぉ……あのお嬢様が……」


「あのは余計よ!」


 お嬢様の肘攻撃が飛んできた。


 痛っ!?


 いつもなら大して痛くないのに、今のはめちゃ痛かった。


「ベリル!? ど、どうしたのよ」


「い、いや……お嬢様…………もしかしてゴリラになりました?」


「…………」


「じょ、冗談です! てかいつもより痛かっただけです」


「いつもは痛くなかったみたいな言い方ね」


「はは……」


「何だかよくわからないけど、今日すごくたくさんレベルが上がったからかな?」


「え……?」


「レベルってこんなにも簡単に上がるものなのね」


 あ。


 これって……もしかして…………。


「まさかお嬢様もレベル10くらい上がったとか言わないですよね?」


「言わないわよ――――20くらい上がってるかな」


 うわああああ! どうしてお嬢様にも俺の【覇道】が適応されるんだ!? そもそもお嬢様は俺の配下でも何でもないのに!?


 …………いや、待てよ。これって俺がというより、向こうがどう思っているのかがキーなのか?


 よくよく考えてみれば、俺を敵視した奴が潜り込んで【覇道】のボーナスを受けたとなったら、俺にとっては大損だ。そのあとペナルティがあるとはいうが、それでも損は損だからな。


 なるほど……【覇道】の仕組みはよくわからないが、向こうが俺の配下だと思ったら適用されると……。


 そのあと、リサの番となって、リーダー格の生徒が統率して、リサはのらりくらりとみんなと合わせて戦っていた。


 リサって実は周りと合わせる能力を持ち合わせているのか……? それともクロイサで子供達と遊ぶようになって学んだのか……?


 そして帰ってきたリサから衝撃的な言葉が飛び出した。


「ベリルくん。何故かすごくレベルが上がった」


「リサもか……」


「これもベリルくんの力?」


「い、一応な……秘密にしてくれよな?」


「うん! 私とベリルくんだけの秘密!」


 ははは……いずれ誰かにバレるとは思うが、今はこのままでいいかな。

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