第75話 温泉
休日の前日に温泉と大浴場が完成した。
さらに俺の屋敷の内装も終わり、両親や弟妹達の部屋も全て割り振りが決まり、会議室やら俺の部屋に執務室、貴賓室など、いろんな部屋も全て完成した。
「ご、ご主人様、おかえりにゃさいませ」
メイド見習いのリエスティが、可愛らしいメイド服で挨拶をする。ちょっと抜けてる感じがとても愛くるしい。
……あのときは濡れた野良猫みたいで、かなり敵意むき出しだったのに、すっかり可愛らしくなったものだな。
「ご案内いたしましゅ」
こう……したったらずな感じがまた幼い見た目と相まって……くっ!
それから俺の屋敷を端から端まで全て案内してもらった。
それが終わると、玄関でディアナが待っていてくれた。
「その服は!?」
「ふふっ。どう? 可愛い?」
「お、おう……めちゃ似合ってるよ」
ディアナが着ていたのは何と着物で、黒髪美女が似合うイメージがあるけど、ディアナみたいな美少女なら赤髪でも十分似合うものだな。
本格的な着物ではなく、それっぽく見せた制服のようだ。
ディアナに案内を受けて来たのは、屋敷から下に降りたところに構えている広大な大浴場だ。
中に入ると、広い休憩スペースがあって、食事ができるようにと食堂も完備していて、テーブルだけじゃなく、ゆったり休憩できるように座敷がいくつもある。
ざっと見た感じ、休憩スペースだけでも数百人は入れそうだ。
そこから風呂への入口があって、入場券やタオルを購入できる。
中に入ると篭が置かれていて、そこに衣服などを入れて、荷物預けの店員に渡すと番号札をもらって、帰る際に番号札で荷物を受け取ることになる。これは盗難防止のためにこうしている。
大浴場には冒険者達が来ることも想像して、現金や高価な物が盗まれたら大きな問題になってしまうから。
荷物受け取りももちろん男湯は男のみ、女湯は女のみの構成にしている。
受付前の休憩スペースも広いが、中も広く作られている。脱衣場もそこそこ広く作られていて、湯上りでゆっくりできるようになっていた。
男湯、女湯どちらも作りは同じになっているが、防犯という意味で露天風呂はなしにした。作ってしまうと警備により人数を掛けないといけないのは、この世界のよくないところではある。個人の能力がステータスで上昇するから、塀なんて簡単に超えられてしまうから。
肝心な大浴場は――――広々とした大浴槽がいくつも並んでいて、多くの人がゆったりと堪能できる。ちゃんとシャワーも完備していて、風呂に入る前に身を清めることもできる。
その上、大浴槽には常にお湯が変わるようになっていて、微量だがちゃんと温泉も混ざっている。
ディアナ曰く、あまり強く混ぜてしまうと温泉と差がないし、それを目当てにされてしまっては大浴場の意義が薄くなってしまうとのこと。これは俺も同意だ。
できるならお客さん全員に温泉を堪能してもらいたいが……まだ温泉は高価なものという感覚があるから今は仕方がない。いつか全員が好きなだけ温泉に浸かれるようにしたいと思う。
大浴場を後にして、今度は石畳みで作られた上り道を歩いて山の上を目指す。
その先にはとても目立つ大きな和風建物があった。
何でもある“ワールドオブリバティ”の世界というだけあって、温泉地といえば日本文化的なものがあるらしく、お嬢様とディアナとで相談してこういう外観になったらしい。
ふんわりと温泉の甘い匂いが広がる。しつこくないフローラルな匂いは、とても幸せな気持ちになる。
ちなみにうちの屋敷中も温泉の匂いを充満させている。
中に入るとすぐに着物姿の従業員達が「いらっしゃいませ」と礼儀正しく深々と頭を下げて出迎えてくれた。
「こちらが温泉を取りまとめてくれるアリアさんとルナさんだよ」
「「よろしくお願い致します。領主様」」
着物だからかも知れないけど、こう和の美を間近で堪能できるのは何だか嬉しい。
まあ、黒髪女性がいないことだけがちょっと残念である。
「では当館をご案内致します」
玄関からすぐにゆったりできるロビーがあって、そこから一本道になっている中央通りを進むと左右に分かれ道が現れた。
「こちら、右側に二つの部屋、左側に五つの部屋がございます。内装や場所から右側の四つの間が高額な部屋となっており、泊る際にも子爵位以上のみとさせていただく予定でございます」
「部屋によって値段が違う設定なんだ」
「さようでございます。当館は格式を非常に重んじる作りになっており、この地を訪れた皆様がゆったりと過ごせるようにしております。最初に左側の五つの間を紹介させていただきます」
俺が想像していた温泉とは少し変わって、全ての
「どの部屋も個室の温泉湯と景色を意識した作りになっております」
確かに全ての部屋から村が一望できる作りで、遠くの自然も見渡すことができる。その上に温泉の匂いも相まって、とてもリラックスできると思う。
「お料理も全て個室に提供させていただく予定でございます」
「ベリルくん。料理についての相談なんだけど、実は料理人と材料に困っているのよね。大浴場の食堂は平民向けだから難しくないけど、ここはそれなりの値段を取るから高級食材に腕前のいい料理人を連れてこないといけないかなと思う」
「なるほど……ん~思い当たる料理人もいなければ、食材はどこから仕入れよ?」
「こればかりは私もあまり力になれそうにないかな……どこか王都で信頼できそうな人を探してみるしかないかな?」
「ふむ…………わかった。念頭に置いておくよ」
そもそもだ。こんなにも速く建物が建つとは思わなかったから、そこら辺の準備をする暇がなかった。
「ディアナ。開店予定はどのくらいだ?」
「う~ん。遅くても一か月を予定してるけど、できればもっと早く決めたいよね。ほら、例の件が絡むと大変だし」
「わかった」
今度は分かれ道の右側にある二つの間の案内を受けた。
一言で表すなら、部屋全体が贅沢三昧という言葉がピッタリ合う作りになっていて、別荘と呼んでも問題ないくらい広々とした作りになっている。
しかも二階建てで、二階から見える景色は圧巻そのもの。風呂もしっかり露天風呂になっていて、外の風を浴びながら壮大な景色を見ながら入る風呂はさぞかし気持ちよさそうだ。
源泉も多めに使っていて、湯も白濁感が出て、とても良い感じだ。
「ディアナ~温泉には入ってみたのか?」
「ん? まさか~」
「あれ? まだ入ってないのか? 楽しみにしてたと言ってたから」
「……ベリルくん? ここはベリルくんの領地よ? 誰よりも先に入るのはベリルくんじゃないと……そもそもクロエさん達もまだ入ってないよ?」
「え。俺なんて気にしなくていいのに」
「そういうわけにはいかないの! 屋敷の温泉や大浴場もまだ使用禁止だからね」
「まじか……うちのソフィアに速く使ってもらいたいし、今日から解禁させよう」
「なら最初にベリルくんが入らないとね」
「そうだな。まあ、みんなで入ったらいいんじゃないかな」
「…………えっち」
「ちげぇわ! 男湯と女湯って分かれてるから別々にって意味だよ!」
「ふふっ。早く温泉に入りたいな~」
「遠慮なんてしなくていいのにな。まあ、貴族って形とか重要だもんな」
その足で俺は屋敷に戻り、さっそくお風呂に入ることにした。
屋敷の風呂場も複数人数で入れるような作りにしているし、ゆったり過ごせる作りになってる。
父さんとブライアンさん、アル、グランと一緒に屋敷の温泉風呂に入る。
「うおぉぉぉ……これが温泉……」
「どうだ? グラン。気持ちいいだろ?」
「これはとんでもねぇ……」
「大浴場もいいけど、あそこは温泉成分を減らしてるから、いつでもうちに入りに来ていいからな」
「まじかよ……」
「遠慮なんてしなくていいから。グランにはこれからもバリバリ働いてもらわないといけないしな~」
実のところ、いろんなものが作れる鍛冶屋が欲しかったところだ。ブライアンさんとグランが来てくれて本当に助かっている。
もう何年ぶりなのかも忘れたくらい久しぶりの温泉は最高に気持ち良かった。
「ご主人様~♡」
隣から声が聞こえる。
「リンだな」
「温泉とっても気持ちいいですよ~」
「お、おう。こ、こっちもだ」
てか男湯と女湯って壁一枚で隔てているのかよ! もうちょっと離れていいと思うんだけどな。
「ご主人様~ディアナ様から、この壁を取り外せるように作ったみたいですよ~どうやら混浴っていうみたいです」
「ぶふっ!?」
「ご主人様と混浴したいな~」
「や、やめろ!」
そんな俺達に、風呂がみんなの笑い声に包まれた。
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