第74話 発展
翌日からクロイサ村で急ピッチで進んだのは――――俺の屋敷の建設だ。
他の建物は全て中止してみんなで力を合わせて作ることになったそうだ。
それによって起きたのは――――まだ骨格くらいしかなかった俺の屋敷が、たった一日で建った。
「いやいや……ありえないだろう……」
「領主様~! ちょうどさっき完成したばかりです~!」
「なあ。メイちゃん。昨日まで骨組みくらいしかなかったよな?」
「そうです~ディアナ様からの指示で全力で建てるようにってことですが、何だか皆さん、すごく力持ちになって、バンバン建てたんです!」
彼女の後ろには大人達が腕を組んで、嬉しそうに笑みを浮かべて俺を見つめていた。
「はは……は……一週間はかかると思ってたけど…………そういや、みんなレベルがよく上がるって言ってたよな。みんなのレベルはいくつになったんだ?」
建築組の一人が答えてくれた。
「はいっ! 昨日で――――50になりました!」
「50!? 一日で!?」
「はいっ!」
ん……? もしかして!?
急いでステータス画面を開いて、称号【覇道】を開いてみた。
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【覇道】
・所有者の能力値の総量で、配下へのボーナスが与えられる。
※配下だった者を追放した場合、その者には大きなペナルティが与えられる。
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能力値の総量……? 能力値はステータスのことだ。さらに追加ステータスも能力値に加わっているはず。俺は【グリムリーパー】のスキルによるステータス上昇もあるから、ステータスポイントだけでざっとレベル400分くらいだ。
ボーナスというのは明らかに経験値獲得量のようだな。
レベルが50ともなれば、そりゃ身軽になるだろうな……。
「領主様のおかげでレベルが上がったら、みんなすげぇ力持ちになって、みんなで手分けして荷運びをして、大工達で建設に集中できたんです。これも全て領主様のおかげです! こんなに身軽に動けるなんて初めてです!」
「は、はは……はは……それはよかった……」
まあ、こうなった以上、彼らにはこれからも頑張ってもらうことにするか。
指示したディアナもまさかたった一日で完成すると思わずに驚いていた。
「ディアナ。次は何をするんだ?」
「そ、そうね。次は――――みんなには温泉を作ってもらい、ベリルくんには源泉を引っ張ってもらおうかな」
「わかった」
村の構造は、広場の東に廃鉱山があり、そこから少し北が源泉の場所となってる。
俺の屋敷はというと、源泉の場所から少し南に建てられて、高台となっている。ここで村が一望できるというものだ。
念のため、廃鉱山側から侵入できないように壁もしっかり作っている。
ステータスが高い人はどんなに高くしても侵入しちゃうし、普通の冒険者達が入れなければそれでいいと思う。
それに領主の家においそれと侵入したら、王国法で裁かれるからな。指名手配犯になったりする。
ディアナの指示で温泉は源泉の場所から西に進んだ山の上に作られることになった。
彼女曰く、景色が良い方がいいってことだ。
高台に作られているので、温泉まで登るための階段も急遽作った。ちなみに廃鉱から源泉の場所には入れないように大きな岩も運んで道を塞ぎ、出入り禁止にしている。
それによって廃鉱の周りはちょっとだけ不自然な形になってしまったが、ここに屋敷が建ったり、これから温泉が完成すれば景色は大きく変わることになるだろう。
俺の仕事は、源泉の道を引くことで、西にある温泉に真っすぐ引いた上に、うちの屋敷にも引いた。
これでうちの屋敷でも温泉をいつでも満喫できる作りだ。
ちょうど温泉地に源泉を引いたら、ディアナから今度は細い源泉道を山の下にも引っ張って欲しいと言われて、そこまで引っ張った。
「こんな下にも温泉を作るのか?」
「うん! でも、厳密に言うと、温泉ではなくて――――大浴場だよ」
「大浴場?」
「昨日クロエさんも言ったけど、温泉って貴族の贅沢になるくらい高額なの。仮に安くしたら人が殺到してとんでもないことになる。となると、上の温泉は貴族や大商会のお金持ちが利用することになって、ベリルが以前言っていた平民のための町とは程遠いものになっちゃうからね。そこで、誰でも利用できる大浴場を作るの! かなり広く作れば、住民だけじゃなくて、冒険者達の休息の地としても人気が出ると思ったの」
「なるほど……!」
「へへっ! 全部クロエさんの提案なんだけどねっ!」
「お嬢様が?」
「うん。どうせベリルくんは何も考えないで、みんなに良い物提供したらいいって言い出すからって、こうした方が平民や貴族のためになるってさ。私もそう思う」
「そ、そうか……お嬢様とディアナにそこまで気を使わせてしまったな……ありがとう」
「ふふっ。ベリルくんのおかげでいつでも温泉に入れるようになったから頑張りたいな!」
「ディアナは温泉が好きなのか?」
「大好き! 従業員の教育は私が担当していいよね?」
「もちろんだ。よろしく頼む。日本魂を見せてやろうぜ」
「うんうん! それすごくいいと思う!」
完成した後の温泉を想像して、自然とお互いに顔が緩んだ。
◆
翌日。
今日はリサと一緒にエヴァネス様のところにやってきた。
「ベリルくん。あの子の心臓が抜き終わったから、紹介するわ」
あ……すっかり忘れていた。
魔導機械人形に連れられ、おそるおそる魔女ペインことリエスティがやってきた。
以前のような殺気に染まった表情ではなく、どこかあどけない少女の表情をしている。
見た目だけなら可愛らしい少女なんだけどな……。
「リエスティ~? 貴方の心臓は私が持っているわ。これからベリルくんの手と足となって働きなさい」
「は、はいぃ……」
しょぼんとする彼女が少し可哀想と思えるが、彼女がやったことは許されることではない。
「このままこき使うのもいいし、彼女に依頼をしたセネガリア街に送って調べさせてもいいわ。ただ、相手も曲者だろうから、彼女一人だと殺されるかもね~」
「うぅ……」
うるうるした目で俺を見上げる。
「エヴァネス様? 何だか彼女の性格……変わってません?」
「そりゃ……心臓を抜いてるからね。魔女は自身の心臓に負けると破壊衝動に駆られるから。彼女もそういう魔女の一人で、心臓が抜かれて垢抜けた感じよ。このままベリルくんのペットにしても構わないわ」
「ペット……魔法とかはどうなるんですか?」
「今まで通り使えるけど、ベリルくんの命令以外で魔法は使えないようにしてるから。彼女が自発的に使うことはないので心配しないで」
仕組みはわからないけど、これ以上聞くのが恐ろしいので、言われた通りリエスティをうちに迎えることにしよう。
ここで放置しても飢え死にされそうだしな。
リンがメイドを増やしたいとか言ってたし、その一人でいいかもな。それに魔法が使えれば護衛として使えるし、戦力としてもいいかもな。
それにしても……彼女にディアナ暗殺を依頼した人も探さないとな。
何だかいろいろ忙しくなってきたが……学園があるからあまり自由が取れないのが厳しいな。
その日はリサと一緒にエヴァネス様の手料理を堪能して楽しい時間を過ごした。
リエスティはすぐにリンに送って、メイド見習いにすることが決定した。
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