第73話 本格的な村おこし
ポロポコ村の村民達がクロイサに来て数日が経過して、休日を迎えた。
その間、いくつか変更点があった。
基本的に建物を中心に建てているが、思っていたよりもずっと速く建ったことで、住民達に家が送られ、みんなで俺の屋敷を建ててくれている。
今日はみんなを集めてとある計画を進める。
「みんな、よく集まってくれたわ。こちらの領主様に代わり、領主代理として私が指揮を執るわ」
みんなが拍手をする。
もうこの光景も慣れたもので、お嬢様もどんどんカリスマ性を増している気がする。
「今日やるのは――――全員でレベリングをする!」
みんなが顔を合わせて驚く。
無理もない。この世界でレベリングというのはあまり馴染みがないことだから。
でも俺からしたら逆に不思議だ。レベルというものがあって、職能が弱くともレベルが上がれば多少はステータスが上がり、いろんなことが便利になる。ならば、住民達にはレベルを上げる機会を設けた方が村の発展のためにもなると判断した。
「これから、こちらのベリル隊、ディアナ隊、リン隊の三つの隊に分かれて狩りに出てもらうわ。隊長がいれば安全は保障するし、ケガした者は領主様からポーションまで用意してもらってるから心配しないで思う存分レベルを上げてちょうだい! みんながちゃんとレベルを上げれば、どんな作業も効率が上がり、ゆくゆく領主様のためになると思って頑張ってね!」
「「「「「はいっ!」」」」」
お嬢様達の安全は念のためリサに任せることにしている。
人見知りのリサでも子供達と一緒にいれば問題ない。
それから俺とディアナ、リンで手分けして住民達を連れて狩りに出た。
村の西側は強い魔獣が出るので、最初は東側に出る。
ここも彼らにとっては十分強いけど、今日までグランとその父のブライアンさんが全力で武器を作ってくれて、全員分の武器を支給してるし、人数も揃えて作戦も伝えている。
最初の魔獣に対峙した住民達は――――意外に勇ましい表情をしている。誰一人怖がっていない。
メンバーの一人が大きな盾を持って、最初に魔獣の注意を引く。
猪型魔獣のボルボアが突撃してきたが、それを大盾で地面に突き刺して塞いだ。
ドーンと音が響くと同時に、後ろに待機していたメンバーが事前に組んでいた隊列で並んで、長い槍でボルボアを突いた。
一斉攻撃によって、ボルボアは反撃することもできず、一瞬で倒される。
「倒したぞ!」
「「「「おおおお!」」」」
士気が激増したメンバーは、同じ方法で次々と魔獣を倒し続けた。
盾役も代わる代わる対応することで、一人に負担を押し付けたりもしなかった。
だがこのときはまだ俺は気づかなかった。彼らに起きた
◆
夕方。
俺は廃鉱入口から横に向かった場所を歩いていた。
「ご主人様~」
「リン。いい加減に普通に呼んでくれないか?」
「え~でも私はベリルくんに買われた奴隷だよ?」
「はあ……」
「ふふっ。わかった。それより、こんなところで何してるの?」
「何って、ほら、温泉掘る場所を探しているんだよ」
「あれ本気だったの?」
「本気に決まってるだろ! ん~ここら辺かな~?」
「ふふっ。頑張れ~ご主人様~」
リンにからかわれながら、俺は岩場を飛び跳ねながら場所を探す。
「――――ここだ!」
「そこ? 何もないよ?」
「そりゃ、まだ掘ってないからな」
「そこを掘ると温泉が出るの?」
「ああ。さて、掘るとするか!」
ブラックデイズとデュランデイズを取り出して飛び上がり、地面に向けて投げつけた。
パキン! と気持ちいい甲高い音が響いて、両大鎌にぶつかった地面に大きな傷跡ができた。
「ベリルくん……?」
「おう?」
「…………私、今までいろんな人を見てきたけど、こんなに簡単そうに地面に穴を空けられる人……初めてみたよ」
「あ~まあ、それにはいろいろ理由があるけど、気にしたら負けさ」
「そ、そうね……ベリルくんだもの……仕方ないよね」
というのも実は“ワールドオブリバティ”の特殊なシステムというのがある。それが、いわゆる――――“壁”というシステムだ。
例えば、力のステータスが高いと手に持った石を握り潰すのは簡単だ。しかし、山を一つ削ることはできない。それは単純に量が多いから――――ではなく、地面に置かれている岩自体が“壁”として判定されるからだ。
王都を囲っている城壁なんかもこの“壁”と判定されることで、純粋な力で殴って壊すことは不可能な状態になる。
ではその“壁”を壊すのために必要なものは何か――――それこそ、称号【ブレイカー】である。
俺はキングブラックウルフを初めて討伐したとき、レイドボス級魔獣初討伐追加報酬として【ブレイカー】を手に入れている。これがあれば“壁”にダメージを与えることができて、“壁”が持つ防御力以上の攻撃力で攻撃すれば傷を付けられるってことだ。
この仕様を利用して【ダブルテレキネシスサイズ】を使って地面をガンガン掘っていく。
速さだけを追求するなら【サイズマリオネット】より【エクスキューショナー】の方が遥かに速いんだろうけど、穴を大きくし過ぎると温泉が噴出してしまいそうだからな。手加減しつつ掘るには操作が簡単な【ダブルテレキネシスサイズ】が一番適切というわけだ。
しばらく掘っていると、明かりを持ってお嬢様、ディアナ、リサ、アルがやってきた。
「ベリル。何をしているのよ。ドンドンって向こうまで響いているわよ?」
「お嬢様。みんな。ほら、温泉掘ってるんですよ」
「温泉って……諦めてなかったの?」
「諦めるものですか! というか、温泉ってめちゃくちゃ効能はいいし、俺も温泉に入りたいですしね」
「……ん? ベリルって田舎暮らしだったのよね?」
「そうですよ」
「……ベリルが住んでいたところに温泉地なんてあったっけ?」
「!? い、いやだな~田舎にあるわけないじゃないですか! ほ、ほら! 図書館で見たんです! 温泉って入るだけでものすごく気持ち良くて、いろんな効能があるって! 夢みたいじゃないですか!」
「入ったこともなかったのに温泉をクロイサの名物にしようとしたの?」
「そ、そうですけど……」
「ベリルって……ふふっ。そういう夢見ることもするのね」
「あ、あはは……」
危ないところだった!
小さく溜息を吐くディアナが見えた。
しばらく地面を掘っていると、大鎌を伝わって岩の感触が変わった。
「あ、そろそろかも」
退屈そうに地面に空いた穴を眺めていたお嬢様達が目を輝かせる。
「本当に温泉が出るの?」
「たぶん出ると思いますよ。最初の穴はできるだけ小さく空けますから」
大鎌の勢いを弱くして地面を叩くと、スポッと抜ける感覚があった。
「抜けたかも! みんな危ないからちょっと離れて!」
地面の穴から少し距離を取ってしばらく待っていると、何だか甘い香りがした。
「あ! 温泉の匂い~!」
誰よりも先にお嬢様が声を上げる。
温泉が……甘い匂い……だ……と?
いやいやいやいや、普通は硫黄の匂いじゃないのか!?
穴から白い煙が上がり、やがて少し白濁な水が――――温泉が出てきた。
「本当に出てきた~!」
俺が知っている温泉と匂いが少し……いや、だいぶ違うが、この花のような甘い匂いは嗅いでいるだけでリラックスになりそうだ。
「ほら! 言ったでしょう?」
「ベリルにこんな特技があるなんてね。すごいわ。温泉って匂いだけでもリラックス効果はあるし、風呂に入るだけでいろんな効能があるからね~」
「詳しいんですね」
「当然よ! 王国貴族にとって温泉は一番の贅沢だもの。そもそも王国に温泉地なんてないからね」
「となると、ここが王国初温泉地になるわけですね」
そもそも“ワールドオブリバティ”内でも温泉を掘ることは可能だったりする。いろいろ条件はあるけど。
もしゲームと同じ仕様なら――――温泉が枯れるなんてことはないから、非常に強力な名物になるはずだ。
そのときディアナが手を挙げた。
「はいっ! 皆さん。注目してください!」
みんなディアナを見つめる。
「クロイサに温泉ができたのは非常に喜ばしいことです。ただ、温泉が出た以上、王国にとって最も大きな事業になりかねません。今のまま王国側に伝われば、王命で温泉地を献上するように言われかねないんですよ~!」
ディアナの言葉に、今度はみんなの視線がアルに向いた。
「ははは……残念ながらディアナ令嬢の言う通りだ。俺からお父様に報告はしばらくしないようにする。でも温泉がいつまでも隠せるとは思えない。バレる前にこの地を献上できない理由を作らないとな」
「それに関しては私から一つ提案があります。ベリルくんに悪いようにはしないので私に任せてもらえる?」
「もちろんです。ディアナさん! 何でもいいのでやっちゃってください!」
「ふふっ。お任せあれ~!」
ただ、彼女から「一つ貸しだよ?」と言われた気がした。
――【Tips】――
前話のコメント等からして誤解されそうなので念のため記入しておきます。
こちらで掘り当てた温泉ですが、また章後半か六章当たりで詳しく説明をする予定ですが、地球上の温泉とは異なるものになっております。(形は温泉そのものです)
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