第72話 思わぬ贈りもの
翌日。
いつも通りに学園が終わった頃、とある人が俺を訪れてきた。
紳士服を着ているが切れ目でどこか敵対心のようなものが伝わる。
「シャディアン男爵様ですね?」
「あ、ああ。俺がシャディアン男爵だ」
「私はクゼリア伯爵様のお使いです。こちら……エンブラム伯爵様への示談金になります。エンブラム伯爵様より全てシャディアン男爵家に送るように言われております」
あ…………エンブラム伯爵め……最後まで俺に全てを押し付ける感じだな。
こうすれば、俺に言われた通りにしたと言い訳はできるし、エンブラム家のせいにしなくて済むだろうしな。
「わかった。ではこちらの物資は全て受け貰う」
執事の裏には十台もの荷馬車がある。その荷台には中身はわからなくても、ものすごい量の物資が積まれている。
全てをマジックバッグに収納して荷馬車は全部返した。後から何か言われると嫌だからな。
執事は最後まで顔色一つ変えずに淡々と俺とお嬢様に荷物を引き継いで去っていった。
一応形上は、エンブラム家からクゼリア家に婚約破棄の責任を問い、クゼリア家からお詫びの品というのが送られたが、それを娘であるお嬢様に送る。しかし、その裏にはお嬢様と婚約したシャディアン家に送られたというのが今回の形。
「ですので、こちらの物資はお嬢様に権利があると思います」
馬車の中でお嬢様に経緯を説明する。もちろんみんなわかっていることではあるんだけども。
「わかったわ。では全部ベリルにあげる。私が持っていても持て余すし、クロイサの発展もお父様の指示だもの」
「わかりました。では全部クロイサの発展に使いますね」
すっかりみんな毎日クロイサに行くのも普通になってきて、夕飯も食べずに馬車で向かう。
意外なことにアルもクロイサがかなり気に入ったようで毎日来ているが、護衛とかは大丈夫なんだろうかと心配になるが、どうやら俺が近くにいるから許可が出ているらしい。
王家よ。それでいいのか?
やがて馬車がクロイサに着きそうな頃、ポチが急に影から顔を出して吠えた。
「ワンワン!」
「ん? どうした? ポチ…………速くクロイサに行きたい?」
「ガフッ! ワフッ! ワンワン!」
「ポチがすごく興奮しているわね」
「何かウキウキしてるみたいですけど、クロイサで何かあったのかな?」
とはいえ馬車の走る速度は変わらないからな。
俺達を乗せた馬車がクロイサにたどり着くと同時に、ポチが影から飛び出た。
そして、すぐに聞き慣れた声が聞こえてきた。
「ポチ~! 久しぶり!」
「ワンワン!」
「あははは~」
その声に俺もポチのように馬車から飛び出た。
そこで待っていたのは――――
「父さん!? 母さんにソフィア! ルアン! グレン!」
まさか、クロイサに家族がいるとは思わず、胸の奥から込み上がるものがあったが、そんなことよりもすぐにみんなを抱きしめる。
卒業するまで会えないとばかり思っていた家族にこんなにも早く会えるなんて驚きだ。
みんなと一通り抱きしめると、父さんと母さんが俺の前で跪こうとした。
「シャ、シャディアン男爵様」
「父さん! やめてくれ。貴族にはなったけど、俺は生まれてから死ぬまで父さんの子供だ」
「だ、だが……」
「父さん……お願いだ……」
「ベリル……わかった。すまなかったな」
何だか、俺に敬語で話す両親に、前世で俺を冷たく捨てたあの男を思い出してしまって、久しぶりに会った家族がそうなるんじゃないかと一瞬心配になってしまった。…………それくらい俺の中で家族というのは大きくなっているんだな。
「グラン。久しぶりだな」
「お、おう……えっと……シャディアン男爵様?」
「おいおい。グランまでそういうのやめてくれ。親友だろ?」
「お、おう……」
拳を前に出すと戸惑いながらもグランも拳を合わせてくれた。
「ほぉ……ベリルの親友?」
「紹介するよ。こちらは鍛冶屋のグラン。俺の幼馴染の親友だぜ。グラン。こちらは学園の同級生の親友のアルだ」
「アルフォンスという。アルと気兼ねなく呼んでくれ」
「お、おう……グランだ。まさか……貴族様とか言わないよな?」
「気にするな。お互いにベリルの親友だからな。ははは!」
「不安だ……」
グランめ。少し鋭くなったか?
それからポロポコ村の村民達を仲間達に紹介した。
「父さん? どうしてみんなでここにいるんだ?」
「まだそれを伝えてなかったな。領主様からベリルがシャディアン男爵になって村を作っているからと、ポロポコ村に住む全員は強制移住になったんだ」
うわぁ……あの領主め……徹底してんな……。
でもおかげでまた家族と一緒に暮らせるし……もしかしてエンブラム伯爵的には俺に恩を売っておいたつもりなのか? クゼリア伯爵からの物資もそうだし、お嬢様の婚約も……。
となると、何が何でも俺を出世させてエンブラム伯爵家の力にしたいんだな?
「大歓迎するよ。むしろ、父さん達が来てくれたおかげで、うちの村でも畑を作れそうだね」
「ああ。事情もある程度聞いていてな。畑を開ける道具やら素材やら種とかも全部持ってきた」
「それは助かるよ! ただ建物がまだ不足してるから、家ができるまで少し我慢してくれると助かる」
「もちろんだ。俺達も力になるぞ。ベリルのおかげで何年もの間、楽させてもらったからな」
「あはは……できればずっと楽させてあげたかったけどな……」
「いやいや、働かない者、食うべからず。だからな」
それからお父さん達をクロイサの住民達にも紹介した。
経験豊富な農夫が増えるのは村にとっても大きな力になる。クロイサの住民達も歓喜した。
その日はポロポコ村の住民達の歓迎会も含めて、いつもよりも豪華な祭り騒ぎとなった。
帰り道。
「ベリルくん」
おもむろにディアナが俺を呼んだ。
「はい?」
「クロイサの発展もどんどん進むんだけど、そろそろ以前言っていた観光地として開発するところも進めた方がいいんじゃない?」
「観光地としての開発……そうですね」
「どういう観光地にするつもりなの?」
「ふっふっふっ。狙いは――――」
ディアナだけじゃなく、みんな目を輝かせて俺に注目する。
「ずばり! あの地を、温泉大国にしたいんです!」
「「「「…………」」」」
「あれ? みんな反応が薄いな」
「ベリルくん……? その温泉は…………どこから出るの?」
「どこから? 山といえば温泉でしょう? 山を掘れば出るんじゃないですか? 詳しくはわからないけど」
「「「「…………」」」」
「みんなどうしたんだ……?」
「ベリルくん……まさか当てもなく掘れば温泉が湧くと思ってる……?」
「いや、あそこに山が……?」
「「「「…………」」」」
みんなが大きな溜息を吐いて、窓の外を見つめた。
こいつら……信じてないんだな。
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