第56話 邂逅
「えっ……? ベリル……くん?」
「すぐに気付いてなかったのかよ!」
「へ!? あ、あれ? どうしてベリルくんがここに⁉ というか死神の鎌? 転生者!?」
急にアタフタするディアナ令嬢に溜息が出る。
ようやくいつもの彼女に戻ったっぽいな。
「ポチ~俺も片づ…………」
そこにはボロボロになった赤いトカゲの上に立ち、尻尾を振りながらドヤ顔するポチの姿があった。
お、おう……俺の出番はなかったか。
ひとまず、ブラックデイズを仕舞い込み、ディアナ令嬢にエヴァネス様作のポーションをふりかけて傷を癒す。
「……ったく。何をそんなに焦ってるんです。ディアナさん」
「え、えっ……ほ、本当に……ベリルくん?」
「ええ。クロエお嬢様の姫騎士ベリルですよ」
そんな彼女の可愛らしい大きな目に少しずつ涙が浮かぶ、大粒の涙が頬を流れた。
「うお!? まだ痛いんですか!?」
「ううん……違うの……私っ…………また……助けられて…………悔しくて」
「悔しいから泣くのかよっ!」
「ふふっ……あはは……あははは~!」
泣いたと思ったら、今度は大声で笑う。
久しぶりに自分の気持ちに素直になっている彼女の良いところだ。
それから泣きながら笑う彼女を宥めるのに随分と苦労した。
「ありがとう。ベリルくん」
「はい」
「あの……」
「はい?」
「どうして敬語を?」
「どうしてって……俺は農夫上がりの姫騎士で貴方は伯爵令嬢でしょう」
「でもさっきは呼び捨てにしたよね?」
「ギクッ!? あ、あれは、ほら、ちょっと、こう、あれがあれで~」
「ふふっ。ねぇ~ベリルくんも転生者なんだよね?」
目を輝かせる彼女に、溜息を吐きながら頷いた。
「しかも“ワールドオブリバティー”で魔王の称号までもらえた最強プレイヤーのベリル!」
「う、うぐ……」
「わぁ……あの憧れの魔王ベリルとこうして話せるなんて……びっくり……」
憧れ!?
「ねえ。ベリルくん。私と二人でいるときはディアナって呼んで。あと敬語も禁止」
「無理です!」
「じゃあ、転生者ってクロエさんにばらす!」
「それはやめて!」
「早く~早く~」
くっ……数日間、この世の全ての背負って絶望した顔してさっきまで泣いていたのに、美少女の天真爛漫な笑顔の破壊力は凄まじいな。
「はあ……わかったよ。みんなには秘密だからな」
「うん! もちろん! 私と君の二人だけの秘密!」
「お、おう……それより」
「うん?」
「何をそんなに思いつめていたんだ? 聞いてあげるから全部話しなよ」
少し驚いた彼女は恥ずかしそうに笑った。
「……私の職能、見てわかるでしょう?」
「ああ――――最強職能【勇者】」
「うん。そう。勇者。あ、ちなみに前世でも勇者だったよ~」
「だろうな。あの魔獣相手に二発目のセイクリッド・バーストを狙い通り当てれてたから、ずいぶんと使い慣れてるなと思ってたよ」
「あはは……実はあまり自信なかったけどね。えっと……君はこの世界の職能について調べたりした?」
「してない。何しろ田舎村出身だもんでな」
「エンブラムに二年もいたんでしょう?」
くっ……。
「…………ずっとレベリングしかしてない。俺は人がいるところが嫌いだから、図書館とかも行きたくなかったから」
こいつ……ずっとニコニコしながら俺を真っすぐ見つめて来やがる……!
「簡単に言うとね。世界で職能【勇者】を持つ者はたった一人だけ。だから私以外に【勇者】は存在しないんだ」
「ん? 隠しルートなだけで誰でもなれるんじゃ……?」
「ううん。もし【勇者】の座に一人でも座っていれば、進化ルートを辿っても【勇者】には進化できない。この世界のルールみたい」
まじか……そういうこともあったんだな。
となるともし俺が最初の職能を自由に選べて、剣士とかにして勇者を目指してたら一生勇者にはなれなかったってことか……! あ、あぶねぇ……! 農夫で良かった!
「それでね。勇者として、来る魔族との戦いに備えて強くならないといけないから……でも……まさか同じ年代の人に手も足も出ないって思って……私が守る側にならないといけないと思ったら……いつの間にか焦っていたみたい……えへへ……」
「……ん? 魔族?」
「うん。魔族」
「…………?」
「?」
「この世界には……魔族がいるのか?」
するとディアナは目を大きく見開いた。
「ベリルくん……? “ワールドオブリバティー”にも魔族がいたでしょう?」
「…………」
「えっ?」
「いや~ほら~俺…………人が多いとこに行きたくなくて、メインストーリーとか全然やってないんだよな。だからこの世界の歴史とか全然わからないんだ」
「あっ……そ、そっか……そういうことも……ええええ!? 最強プレイヤーだったのに!?」
「お、おう。俺の職能が特殊過ぎて対人で強かったのと、レベリングとか装備とかはダンジョンに通うだけで何とかなったから。【エンドダンジョン】に通ってたから」
「一人で!?」
「お、おう……」
「わぁ……ベリルくんって……どこまでも規格外なんだね。それは強いわけだ……そっか~」
「おう。一応言っておくと、ディアナが使っていた技とかも白銀の英雄相手に慣れてるし、職能も予想がついていたから完全攻略できてただけだから」
「何だか……驚きすぎてもう驚けないというか……白銀の英雄さんとか天上人だし……」
「俺も驚いた。まさかディアナが転生者だったなんてな」
自分が転生しているんだから、もしかして他にも転生者がいるかも知れないと思ったこともあったけど、まさかこういう形で出会えるとはな。
もしかしてディアナや俺以外にも転生者がいたりするのか?
「積もる話もあるが、今日はもう遅い。そろそろ戻らないと心配されそうだし、最近やりすぎだから今日はゆっくり休め」
「うん……あ、あのね! また……前世のこととか……この世界のこととか……たくさん話したい!」
「ん~二人っきりになるタイミングがあまりないと思うが、そのときにな。間違ってもみんなにはバレないように!」
「うん! 私と君だけの秘密ね!」
何だか嬉しそうにするディアナと一緒にダンジョンを出る。
彼女を外まで見送り、俺はまた【影移動】でエヴァネス様に魔石を届けた。
リサは風呂に入ってて会えなかったけど、長居するつもりはなかったから魔石を届けて今日は寮に帰った。
◆
翌日。
教室前でディアナと鉢合わせになった。
「クロエさん! おはよう~」
「おはよう~」
そして、俺を見つめてニコッと笑う。
「ベリルくんもおはよう~」
「おはようございます。ディアナさん」
挨拶を交わして教室に入る。
いつもの席に着くが、ディアナがこちらに振り向いて、しょぼくれた表情で見つめる。
「ディアナさん? どうしたの?」
「クロエさん……隣、空いてるよ」
隣の席をポンポンと優しく叩く。
「ふふっ。そうね。これからは隣に座らせていただこうかしら」
「うん!」
すっかりお嬢様へのアプローチの仕方をマスターした気がする。
お嬢様を中心に、右に俺、左にディアナが並んで座る。
ふと、後ろの席から貴族達の噂声が聞こえてきた。
「ねえねえ。聞いた? 校長先生の件」
「聞いたわよ。連続して大変なことになったからクビになったってさ」
「アルフォンス様を危険な目に遭わせたし仕方ないわよね。それもだけど、多分クゼリア伯爵令息の件の方も大きかったわよね」
「決闘のルール無視はね……貴族として一番やってはいけないものね……」
少なくとも貴族達にとって誇りは大事のようだな。
まあ、あれだけ平民を蔑むわけだしな。
そのとき、俺の隣にアルが座り込んだ。
「俺も混ぜてくれ」
「お、おう。別に席くらいどこでもいいと思うが……てか、アルが端はまずいんじゃ……?」
「いまさら気にすることか?」
「そう言われるとそうだな。まあいっか」
離れたところからリサの羨望の眼差しが伝わってくる。
「アル。クゼリア伯爵令息はどうなったんだ?」
「ちょうどそれも伝えるつもりだった。彼は――――勘当になった」
「まじかよ……」
「ああ。決闘のルール違反は重罪にも等しい。貴族としての誇りを穢すものは、いわば王家の侮辱にも繋がる。勘当になった上にクゼリア伯爵は正式な謝罪までしなければならなくなったからな」
「思っていたよりも大事になってたな」
「その中心は君だぞ。ベリル」
「ああ。知ってる」
「それで、例の件はどうするんだ?」
「……もうちょっとだけ待ってくれ」
「ああ。だがあまり時間はないと思うぞ?」
「わかった。ありがとう」
アルが話した通り、俺達に残された時間は僅かなものだった。
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