第21話 冒険者、ダンジョン

 翌日の朝食もお嬢様と一緒に食べる。


「お嬢様。今日の日程の聞いても?」


「これから夕方までレッスンが続くわ」


 あ~貴族だから英才教育か。なるほどな~。


「今日は全て同席させてください」


「いいけど……屋敷にいる間は護衛の任務はないのではなくて?」


「ないんですけど、お嬢様がどういう風に一日を過ごすのか知っておくと、遠出ができますからね」


「遠出をするつもりなの!?」


「はい。ダンジョンに」


 そう!


 うちの村や付近にはダンジョンなんてなかったし、フィールドの魔獣しか狩れなかった。それもメリットは多かったが……やはり、経験値効率を考えればダンジョンが一番いい。


 ここエンブラム大都市には、エンブラムダンジョンがあるので都市の外に出ずとも、すぐに行けるという利点もある。


「ダンジョン!? 貴方ってまだ十歳でしょう!?」


「お言葉ですが……俺は姫騎士です。お嬢様を守るために強くならなければなりません」


「えっ!? そ、それはそうだけど……その…………ふん! 勝手にすればいいわ! ちゃんと姫騎士の任務を務めてくれればいいのよ!」


「はい。そのつもりです」


 それからお嬢様のレッスンとやらに同席させてもらった。


 剣術。貴族マナー。ダンス。いろんなジャンルの座学。ありとあらゆる高等教育を受けるお嬢様。


 だが……どこか今一つ身が入っておらず、彼女の目には光はなく、ただただ言われた通り動く――――人形のようだった。




 翌日。


 今日も同じスケジュールということで、俺はさっそく――――冒険者ギルドにやってきた。


「こんにちは~」


 受付の可愛らしいお姉さんに声を掛ける。


「いらっしゃいませ」


「あの~冒険者になりたいんですけど~」


「登録ですね。冒険者ルールはご存知ですか?」


「いえ!」


「では説明させて頂きますね」


 それからお姉さんの丁寧な説明があったが、どれもゲームで知っている知識通りだった。念の為に違いはないか聞いてみたが、必要はなかったな。


 説明を聞き終えて、彼女が出してくれた黒いボックスの中に左手を入れる。


 どっちの手でもいいけど、右手には【大鎌展開】で紋章が刻まれているから。


 左手に何か不思議な感触があって、登録が終わった。


「これで登録は終わりました。魔獣から取れた素材や、ダンジョンで取れた魔石は向こうの買取カウンターで買取を行いますので、ぜひご利用ください。ランクが上がると買取額上昇や冒険者ギルド協力店での割引率も上がりますので!」


 冒険者にならずにダンジョンに潜っても問題はないのだが、買取額上昇も割引も非常に便利でそれを目当てで登録した。しかも登録料金も無料だし。


「冒険者初心者の方には、毎日朝に行われる初心者講習会をおすすめしております。本日は終わってしまいましたが、明日もやっておりますのでぜひ参加してみてください」


「ありがとうございます!」


 登録も終わったので――――さっそくダンジョンに入ろう!


 と、勢いよくギルドを出たとき、誰かにぶつかった。


「あん……?」


 そこにはいかにも柄が悪そうな男が俺を見下ろしていた。


「あう……ごめんなさい」


「俺様の服を汚しやがって……Fランク如きがよ!」


 そう言いながら、俺の胸元を掴む。


「洗濯代として銀貨十枚だ」


「え! 俺の服の洗濯代をくださるなんて、優しい先輩ですね!」


 すると男の頭にビキッと血管が浮かび上がる。


「てめぇが払うんだよ!」


「え? どうしてですか?」


「聞いてなかったのか! ガキが! 俺様の服を汚したのはてめぇだからだ!」


「そうですか? 俺の服の方が綺麗だと思うので、むしろ払って欲しいというか……」


「この……クソガキが! 舐めやがって!」


 男は太い腕を振り下ろす。


 的確に俺の顔面を捉えたパンチだったが、殴られる理由もないので、ひょいっと避ける。それと握られていた服も外してやった。


 男のパンチが宙を舞う間に足を引っかけて転ばせてやる。


 ズドン!と大きな音を立てて倒れた男に注目が集まる。


 人が多いところは得意じゃないので、人波に紛れてその場から速やかに去った。


 もちろん、相手を転ばせるときに――――洗濯代はちゃんと頂いた。


 使うことはないと思っていた【闇夜より歩く者】の技【スティールサイズ】。これは大人気職能【シーフ】が覚える【スティール】と似てて、大鎌を持っているときにだけ使える代わりに、通常スティールと同じく相手の持ち物を一つ盗むスキルの中では、リキャストタイムは長いが成功率は最高率を誇る。


 狙いを定めて盗むのは難しいけど、高価な物で装着してないものが盗めるので、今回のように財布が手に入ったりするんだな。


 余談だが、ゲームでは人族型魔獣にしか使えなかったが、【スティール】を利用した金策は、かなり効率が良かったりした。


 まあ、これは悪用するつもりはないし、あの男がわざと・・・俺にぶつかってきたのはわかっていたから、そのお返しということで。


 中身はちょうど銀貨十枚だった。




 エンブラム大都市の西側にポツンとあるギリシャ神話に出てきそうな神殿。周りの建物と比べて明らかに人が建築したものとは異なる造りだ。


 中に入ると広い通路が広がっており、両脇には神殿に似つかわしくないテーブルやら椅子が置かれているが、利用している人は誰一人いない。


 まっすぐ正面に歩くと、青く澄んだ巨大クリスタルが宙に浮いている。


 久しぶりに見たな……【転移装置】!


 クリスタルからは淡い青色の光が灯って周りを照らしており、白い床はクリスタルの周りだけ青い光を受けて青色に染まっている。


 ゆっくり進んで青い床に立った。


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名前:ベリル

踏破階層:0

パーティーメンバー:なし

レベル:14

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 俺の情報画面が表示される。


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ダンジョンに入場されますか?(Y/N)

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 これもゲームと同じなんだな。


 強いて言えば、【名前】がゲームだと【プレイヤー名】なくらいか。


 ひとまずYを選ぶと、俺が立っている床が水のように波を打ち、スルっと床の中に落ちていった。


 全身が水の中に入っているかのような、穏やかな感触が全身を包み込む。


 まるで母さんの腹の中にいた頃のような、そんな優しさだ。


 ん……? それにしてもあまりにも感触が似てるな。息も普通にできるし。


 ほんの少しの間にゆったりとした時間を堪能していると、体を引っ張られる感覚からいつの間にか土の匂いがする洞窟に立っていた。


 世界にはいくつものダンジョンが存在する。どれも洞窟の景色は変わらないが、空気や壁の色が変わっていき、高難易度になればなるほどに暗くなる傾向がある。


 一番難易度が高いダンジョンなんて、前が見えない暗さだから、周りを明るくする必要があるけど、それのせいで……っていうのはまたいずれ。


 ダンジョンには一つ大きな特色がある。


 というのも、それぞれのダンジョンは無造作に魔獣が現れるわけではなく、現れる種族が決められている。


 ここ、エンブラムダンジョンの特色は――――牛巨人こと、ミノタウロス種族のダンジョンだ。


 それを証明するかのように、さっそく通路の向こうには二メートルくらいの牛の顔を持ち二足で立つ魔獣の姿が見えた。


 それにしてもダンジョンなんて久しぶりだな……! なんたって十年間村から出ていなかったから!


 興奮で自分の心臓が飛び跳ねる音が聞こえる。


「技【影移動】」


 【闇夜を歩く者】の熟練度が上がったおかげで、【影移動】で動ける速度がさらに上昇し、近距離戦での戦いがよりやりやすくなった。


 一気に距離を縮めてミノタウロスの後ろに向かい、飛び出しながらブラックサイズを呼び出して下から上に斬りつける。


 まるで豆腐を切っているかのようにサクッと斬れ、ミノタウロスが左右に分かれて倒れる。と同時に全身が黒い粒子になって消えた。


 そしてカラ~ンと紫色の小さな宝石が一つ地面に落ちた。


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劣種ミノタウロスを倒しました。

経験値3000を獲得しました。

称号【転生者】により獲得経験値が1/10に下がります。

レベル差によるボーナスにより、追加経験値9000を獲得しました。

称号【転生者】により獲得経験値が1/10に下がります。

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 うおおおお! ミノタウロス経験値うめぇ~!


 村近くの岩場のロックリザードの実に二十倍!


 これがダンジョンの利点の一つで、外の魔獣よりも強い魔獣が現れる代わりに、経験値効率は最高にいい。しかも、現れる個体数も常に一定に保たれていて、いわゆるリポップ時間はあれど、たくさん狩ることができる。


 さらにもう一つの利点は、地面に落ちた宝石。


 これは【魔石】というもので、ダンジョンの魔獣を倒すと、亡骸が消える代わりに魔石が残る。


 魔石は魔導機械のエネルギーになるから非常に需要が多い。


 この三年間、狩りは無理にせず、弟妹との時間を優先したからレベルも全然上げられなかったが……! 遂にこの時がきた! これから余った時間を全て費やしてレベル上げするぞ~!


 日が暮れるまで一層でミノタウロスを狩り続けた。

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