第16話 検証、七歳

 職能が【リーパー】になってから数日が経過した。


 その間もプレイル平原や岩場を行き来しながら、いろいろ検証をしていた。


 検証結果としてわかったこと。


一つ目、使い魔のポチが倒した敵も俺が倒した判定になり、経験値が入る。但し、俺が武器を振り回していないので、熟練度は上がらない。これは当然だな。


 二つ目、転換システムは、【闇夜より刈る者】【闇夜より歩く者】【闇夜より操る者】をいつでも切り替えができるものだった。


 三つ目、転換システムのデメリットになる部分だが、転換した際に当然転換前のスキルは適用されない。その上で、熟練度もそれぞれであり共有されない。


 四つ目、転換システムの最も大きなデメリット。それは転換して全てのスキルが適用されるまでの謎のクールダウン時間と、再使用までの時間及び技が使えるようになるまでのクールダウン時間が存在する。


 これは最も大きなデメリットで、転換して【闇夜より刈る者】になった瞬間に技【ブレイクサイズ】は使えない。使えるようになるまでは、約三秒。


 戦闘中に転換した際のスキルが三秒間適用されず、技も発動できないのは致命的なデメリットである。共通スキルの【サイズスイング】なども使えなくなるため、戦いと戦いの間ならいくらでもいいが……戦闘中に転換はタイミングを見図る必要がある。


 せっかく三つのスキルを転換できるってことで、どのスキルがどんな感じなのかも検証が終わった。


【闇夜より刈る者】は、いわゆる近距離一点攻撃特化型と言えるスキルセットで、強烈な攻撃技【ブレイクサイズ】は、エンシェントロックリザードすら一撃で倒せると思う。まだ試せていないけど。


 【闇夜より歩く者】は、名前の通りに移動特化型という感じ。どういうことかというと、元々大鎌使いは攻撃が俊敏に依存していることもあり、高い俊敏で素早く動ける。【歩く者】はより速く動けるスキルセットになっている上に、【背後確定クリティカルヒット】というとんでもない強力なスキルを持ち、技【影移動】は魔獣に気配を悟られずに影になって攻撃ができる技と相性抜群だ。


 余談だが、技【影移動】中は何とも言えない不思議な感じで自分が影になって動くという……最初は慣れなくて酔ったからか、吐いてしまった。


 今はもう慣れたのでいつでも使える。


 移動できる距離は大体百メートルくらいしか移動できないし、再使用まで120秒とかなり長い。


 これと一緒に【ブレイクサイズ】が使えたら……とんでもないチートだったんだがな。


 最後の【闇夜より操る者】は、遠距離範囲攻撃特化型という感じ。【刈る者】とは真逆の戦いをするもので、これがまた非常に楽しい。


 というのも、念能力で物を動かす感じで大鎌を自由自在に操作して、周囲百メートルを自由自在に飛ばして攻撃することができる。


 いろいろ検証した結果として、【操る者】の弱点は装備者ではなく武器に大きく依存すること。


 技【テレキネシスサイズ】で投げ飛ばした大鎌は自由に動かして攻撃ができるが、代わりに俺のステータスが一切反映されず、純粋な武器の攻撃力での攻撃になる。


 この時点なら……残念ながら三種類の中では最弱と言えるが、上空にも投げられるので、どんなところでも活躍できて便利だ。


 さらに【テレキネシスサイズ】の再使用までのクールタイムは、脅威の0秒。つまり、無限に投げられるし、一度投げたら180秒間は自由に動かせる。


 いろいろ試してみて一番便利な組み合わせは、俺はポチの背中に乗り、ポチに狩りをしてもらいながら、【テレキネシスサイズ】を使って別方向の魔獣を狩る。


 遠く離れてもちゃんとマジックバッグに収納されるので、プレイル平原を縦横無尽に走り回りながら魔獣を狩り尽くした。



 ◆



 さらに半年が経過し、季節が移り変わる。


 俺は七歳になり、弟のルアンは六歳、妹のソフィアは五歳となった。


 ルアンは少し凛々しくなり、ソフィアは母さんに似て、ますます可愛くなった。


「ベリル……行くんだな」


「うん。父さん。母さん。ルアン。ソフィア」


 すぐにソフィアが俺に抱き付く。


「兄ちゃん……危なくなったら逃げてね?」


「もちろんだ。約束するよ。それにうちはポチもいるし、ポチが速いのも知ってるだろ?」


「うん! ポチ! 兄ちゃんをお願いね!」


「ガフッ」


「みんな。行ってきます」


「「「「いってらっしゃい」」」」


 みんなに見送られながら、俺はポチに乗り込み、真っすぐ北を目指した。


 いつものプレイル平原も懐かしいとさえ思う。


 昨日もここで狩りをしていたけど。


 そのままいつもの魔女の家にやってくると、誰よりも先にリサが寄ってくる。


「ベリルくん!」


「リサ。おはよう」


「おはよう!」


 一年も通っていると、リサも心を開いてくれて、以前のようなたどたどしい雰囲気はなく、普通に接してくれるようになった。


 ただ、ちょっとだけ距離感がバグってるが、ソフィアも一緒だしいいか。


「おばあちゃんも待ってるよ」


 家に入ると、お茶を淹れてテーブルにカップを置くエヴァネス様が笑顔で迎えてくれた。


 いつも通りお茶を楽しむと、エヴァネス様がテーブルに三つの瓶を乗せてくれた。


 赤色、青色、紫色。


「エヴァネス様? ポーションですか?」


「ええ。私が作れるのはせいぜい傷薬ポーションだけど、こちらの三つは上級ポーションよ」


 もちろん――――知っている。


 ゲーム内では水のごとく飲み干していた回復剤。


 青色のポーションは【ハイポーション】で減ったHPを大幅に回復させてくれる。赤色は【バーサーカーポーション】で回復ではなく能力値を底上げしてくれる。紫色は【キュアポーション】で全ての状態異常を回復した上で300秒間状態異常無効にしてくれるものだ。


「貴重なものじゃないんですか?」


「貴重だからって使わなければただの置物と同じよ。ベリルくんにはこれくらい持たせないと不安だからね~」


「あはは。ありがとうございます。ちゃんと勝ってお返ししますよ」


「お返しは元気な顔をまた見せてくれるだけでいいからね」


「エヴァネス様……はいっ!」


 たまに恐ろしい笑顔を見せるエヴァネス様だけど、基本的には心温かくて優しい方だ。


 魔女は恐ろしいという噂が流れているが、俺はそう思わない。エヴァネス様もリサもすごく優しいから。


「じゃあ、行ってきます」


「いってらっしゃい」


「ベリルくん! 待って!」


「ん? どうしたんだ? リサ」


「これを……」


 リサは小さな人形を渡してくれた。


 顔が大きくて体や手足はおまけって感じで、顔はちょっとブサイクだけど、不思議と愛着がわく。


「魔女の人形っていうの……私が頑張って作ったから!」


「そっか。ありがとう。リサには貰ってばかりだな」


「そ、そんなことないよ! 私も……ベリルくんからたくさん貰ってるから……だから、ちゃんと帰って来てね?」


「ああ」


 二人に手を振り、俺はポチの背中に乗り――――そこから真っすぐ西に向かった。


 うちのポロポコ村から北の森を抜けるとプレイル平原があり、そのさらに北に魔女の家があるオルリファスト山がある。そこから真っすぐ西に向かうとプレイル平原の最西端地域があり、そこをさらに西に抜けると、ディザシス山が現れる。


 この山はここら辺一帯では一番大きい山で、頂には竜が住んでいるなんておとぎ話があるが、そう言われるくらい強力な魔獣が住んでいる。


 そんな山に現在異変が起きている。


 何故なら――――本来姿を見せるだろう強力な魔獣達の姿がどこにもないのだ。


 その理由は既に知っているし、だから俺はここに来た。


 より速くなったポチのおかげで一気に山を駆け抜けて、ある気配がする場所にやってきた。


 ずっと探し続けた――――獲物ターゲットが佇んでおり、俺を見つけると鋭い眼光で、今まで感じたこともない殺気を向けてくる。


「よお……久しぶりだな。お前も……ずいぶんと強くなったみたいだな?」


「グラアアアアアアアアア!」


 左目には大きな傷があり目が潰された巨大黒狼が、残った片目で俺を睨みながら、怒りを露にして唸りを上げた。

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