第15話 転換、家族

「エヴァネス様~進化スキルを選びたいんですけど、迷ったときにこうすればいいよ的なありませんか?」


「進化選びね~迷うよね。人生一度きりだし、後戻りなんてできないもの。どんなスキル名なのかしら?」


「【闇夜より刈る者】【闇夜より歩く者】【闇夜より操る者】です」


「……驚いた。私が知らないスキルが世の中にあるなんて」


 宝物庫に置かれた大量の本は見掛け倒しではないはず。魔道具を作るための本だけならあれほどの量にはならない。


 前世の俺が“ワールドオブリバティー”の知識があるにせよ、エヴァネス様の知識量には敵わない気がする。


「珍しいスキルなんですか?」


「少なくとも私が知らないってことは、相当珍しいスキルよ。そうね。名前からして、刈る者が一番良さそうではあるわね」


「あはは……やっぱりそうなっちゃいますよね」


 俺も前世で悩みに悩んで選んだのがそれだったからな。


「でもどの選択肢からも魅力を感じるのならば――――迷ったときはいつも真ん中を選ぶといいわ!」


「真ん中……?」


「そうよ。上と下、右と左、どちらにも属さず、真っすぐ歩き続ける。悩んだら真っすぐ突っ切ってみるのも面白いかもね」


「そっか……真ん中か……」


 悩み過ぎてもう自分では選べなくなったし、どのスキルもしっかり強くなるってのは“ワールドオブリバティー”を鑑みれば明らかだし……今回は刈る者じゃなくて、歩く者にしてみようか。


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スキル【闇夜より歩く者】獲得により、職能が【農夫】から【リーパー】へ変更されました。

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職能【リーパー】により、スキル【大鎌の心得】、【大鎌展開】、【大鎌の呪い】を獲得しました。

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称号【転生者】により、スキル【闇夜より歩く者】の制限解除。スキル【闇夜より刈る者】、【闇夜より操る者】の転換が可能になりました。

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【スキル】

農耕の心得(-)

草刈り鎌達人(-)

大鎌の心得(-)

大鎌展開(-)

大鎌の呪い(-)

◇闇夜より刈る者(0/300000)

◆闇夜より歩く者(0/300000)

◇闇夜より操る者(0/300000)

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「ぬぁああああああ~!」


 お、お、俺の二か月がああああ!


 二か月前から悩みに悩んで夜しか眠れなかったのによ! ずっとどれを選ぼうか……これからの人生と家族の安寧が掛かってたからめちゃ悩んでいたのにいいいい!


 何だよ【転換】って! そんなシステム聞いたこともないよ! てか、そういうのあるならもっと早く教えてくれよ! 称号【転生者】さんよ! ねえ! ほんと、頼むよ!


「むひっ」


「うふふ。ベリルくんってとても面白いわね。新しいスキルは気に入らなかったのかな?」


「い、いえ……ある意味……すごく気に入りました……はあ……」


「それは良かった」


「エヴァネス様。職能が変わることってあるんですか?」


「もちろんあるわよ。唯一・・変わるのは――――進化ね。職能【剣士】のスキルを進化させ続けると、職能【剣豪】に進化したり、【剣聖】なんかになれたらとてもすごいわね。まあ……【剣士】だからといってみんなが【剣聖】になれやしないんだけどね。ふふっ」


「あはは……」


 エヴァネス様の黒い笑顔がちょっと怖い。


「だから生まれ持った職能が人生を左右すると言っても過言ではないわね。ベリルくんみたいな特殊な人もいるみたいで驚いたけれど」


「あれ? 他に変える方法はないんですか?」


「ないわ。生まれて農夫なら一生農夫。それが世の定めよ。剣士は進化しない限り、未来永劫剣士よ」


 えっ……? 教会で職能を変えるのは?


 ……エヴァネス様がそれを知らないとは思えない。


 まさか……【転職システム】がない……?


 何となくうちの村での貴族と村人の差がわかった気がする。


 農夫はどれだけ体を鍛えたとして百人集まっても剣士一人に勝てない。それは圧倒的なスキルと技の差。


 装備でそれを上回ることもできるが、そもそも貴族が全てを支配している世界で、ただの農夫達が上級装備を手に入れることなど、夢のまた夢だ。


 だから……だからみんな従うしかできなかったんだ。


「エヴァネス様。今日はありがとうございました。そろそろ狩りに戻ります」


「ふふっ。新しいスキルを試したくて仕方がない顔ね」


「バレちゃいました? あはは~」


 いろいろ複雑な気持ちもあるが、今は前に進むことだけを考えよう。


 ――――悩んだら真ん中を突っ切る……か。うん。それもいいかもな。


 魔女の家を出ようと庭に刺したブラックサイズを持ち上げると、後ろから俺を呼ぶリサの声が聞こえた。


「ベリルくん!」


「うん? どうしたんだ? リサ」


「あの……また……遊びに来てね?」


「ああ! また遊びに来るよ~またな~」


「ま、また……」


 恥ずかしそうに手を挙げるリサに手を振り返して、俺はポチと一緒に魔女の家を飛び出した。




 走っているとポチが俺を背中に乗せてくれて、俊敏が150を超えた俺よりも速く走れて驚いた。


 そこで一つ思い出したことがある。いや、思い出したというより確証が持てなかった。


 “ワールドオブリバティー”に使い魔システムなんてものはない。召喚士などはあるが、それはあくまで召喚獣であり、使い魔とは言わない。


 ただ、今のポチに非常に似てるシステムが一つだけある。


 それが――――【ライディングシステム】だ。


 簡単に言えば、乗り物のシステムで、広大すぎるフィールドを歩きや走りだけで進むにはあまりにも時間がかかるので、乗り物が用意されている。


 魔導機械だと車とか飛行艇とかいろんなものがあったが、一番愛されていたのは魔獣の乗り物だ。


 乗り物を手に入れる唯一の方法は――――“課金”のみとなっていた。


 しかもカッコいい魔獣や乗り物となると値段が高くなり、ちょっとしたお金持ちアピールなんてのもできるくらいだったが、サービス終盤になると値段なんて関係なく、みんな様々なものに乗っていた。


 リサから使い魔と言われたときに頭をよぎったが、違う点をいうなら、乗り物システムは一緒に動いてくれたりしない。基本的に移動するとき現れて乗って、戦闘になると消える。


 でもポチはそうじゃない。


 その証拠に――――走っていて魔獣を見つけたポチは、俺を乗せたまま魔獣を攻撃して倒してくれた。


 ポチが倒した魔獣もちゃんと俺のマジックバッグの中に収納された。


 使い魔……便利! ありがとう! リサ!


 このポチ。なんと……餌も要らないらしい! ただただ俺の言うことを聞く人ぎょ――――じゃなくて仲間。大事な使い魔。大事なペットだ。


 そこから【転換】とかいう謎のシステムをいろいろ検証しながら魔獣を狩り続けた。




「わあ~! 大きいわんこ~!」


 家に帰ると、誰よりも先にソフィアがポチに抱き付く。


 俺が上に乗っていたから怖くないみたいだ。


 意外に家族みんな怖がったりはしないし、俺達を見かけた村人達も誰一人怖がらなかった。


 魔獣ではなく使い魔だから、それを間接的に受け止められてるのか?


「今日から僕のパートナーになったポチだよ。これからも仲良くしてあげてな?」


「うん! 可愛い~もふもふ~」


 可愛い!? どっちかといえば、カッコいいと思うんだけどな……。


 それと狼の毛なんて触ったことないけど、犬の毛みたいに毛自体はふわふわしている。乗っていてもお尻とか痛くならなくて助かる。しかも、不思議と乗り心地抜群なんだよね。


「もうベリルには驚かないぞ……」


 父さん。言っているわりには目が泳いでいるよ。


 家に入るときにポチを心の中にしまうと、ソフィアがあまりの衝撃を受けて泣き出したため、ポチにはずっと出てもらうことにした。


 今日も母さんが作ってくれた美味しい夕飯を食べる。


「兄ちゃん~」


「うん?」


「どうしてポチにはご飯をあげないの?」


「ポチはな、ご飯を食べないんだよ」


「どうして? お腹空いちゃうよ! うちにお肉いっぱいあるのに……兄ちゃん? ポチにもご飯あげようよ!」


 くっ! うちの妹……まじ天使!


「ポチ。ご飯食べられるか?」


「ガフ」


「ん? ご飯は食べなくてもいいけど、食べることはできる……なるほど。じゃあ、一緒に食べよう。今日ポチが倒してくれた魔獣も多いから、おかげで食材はたくさんあるから!」


「うふふ。すぐにポチの分も準備するから待っていてね~」


「母さん。ありがとう」


「ガフッ」


 使い魔がどういう存在かはわからないし、ポチに感情があるのかないのかまだわからない。でも、俺の言うことをちゃんと理解して、周りの言ってることも理解できるみたいだ。


 ポチは料理を作ってくれる母さんのところに向かって、母さんが作ってくれた料理が乗った皿を器用に鼻の上に乗せて持って来ては、俺とソフィアの間に置いて、食べ始めた。


 思っていたよりもポチって器用でいろんなことができるんだな。


「兄ちゃんは食べなくてもいいならと思って思いつかなかったよ。ありがとうな。ソフィア」


 妹の頭を優しく撫でてあげると「えへへ~みんなでご飯食べれて嬉しい~」と天使のような笑みを浮かべた。


 うちの妹……まじ天使!

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