第17話 リベンジ
――――臆病者の目には、敵は常に大軍に見える。
どんなに強い敵にも準備を怠らずに挑めば、勝ち筋を見いだせる。そんな言葉があるが、こいつは……正真正銘の臆病者だ。
俺に目を潰され、一番の好機なのに逃げ出し、己を強くするためだけにディザシス山に籠り魔獣を狩り続けた。
驚いたことは、魔獣が魔獣を倒して強くなれるということ。
ゲームの世界ではありえない光景だったけど……俺がまだ見ぬクエストではあったのかもと、もっと積極的にやっておけば……と、少しばかり後悔している。
――――臆病者か。
俺もまた一人の臆病者だったのかも知れないな。
だが、自分のためではなく、家族を守るために俺は強くなることを決意し、ここにたどり着いた。
「お前も確かに強くなっていそうだが……自分を守るためだけじゃ、最も大事なことを見つけられないぜ。キングさんよ」
「グルァアアアアアア!」
咆哮と共に、巨大は恐ろしい程の速度で飛んでくる。
もしあの日、巨大黒狼が今の強さがあったのなら――――勝てなかったと思う。
いくら【死神覚醒】を使えたとしても、三秒間後には力尽きて食い殺されていただろう。
だが――――今は違う。
遥かに速くなった巨大黒狼の突進を、技【闇移動】ですり抜ける。
地面を抉る音がするが影移動中は攻撃を受けない。
すれ違いざまに影移動から飛び出て、黒い尻尾を一刀両断する。
「ギャアアアアアア!」
巨大な尻尾が地面に落とされ、おびただしい量の血が噴出する。
「その程度か?」
巨大黒狼の全身に黒いオーラのようなものが溢れる。
次の瞬間、大きく突き出した爪を使い、乱雑に俺を目掛けて振り続ける。
速度も相まって、これを避けるのは普通なら難しいだろうけど、今の俺にはそれほど難しい速度ではない。
爪に切られて吹き飛んでいく樹木が地面に落ちる度に周囲に轟音を鳴り響かせる。
「――――技【シャドウサイズ】」
ブラックサイズの刃に黒いオーラが灯り、斬撃となって放たれる。
一心不乱に両前足を動かしている巨大黒狼だったが、黒い斬撃が足から肩まで大きな傷をつける。
「ギャアアアア!」
悲痛な叫びをあげる巨大黒狼に攻撃を続ける。
四つ足はボロボロとなり立つこともできず、その場に倒れ込んだ。
残った右目は――――恐怖に支配されている。
さっきの威勢は既に消え、全身が震え上がっている。
「お前には感謝すらしているんだ。あの日……お前が現れなければ、俺は未だ強くなることを考えていなかった。お前のおかげで……強くなろうと決意できた」
「グルゥァァ……」
「大事な人を守れる力をくれてありがとうよ。キング。お前のことは一生忘れないぜ。そんなお前は前世で俺を支えてくれた一撃で葬ってやる」
これから新しい道を歩くため、
【闇夜より刈る者】に転換し、三秒待つ。
不思議だ。
あれだけ強いと思っていた巨大黒狼がより強くなったにも関わらず、こうして体を震わせているところとか、それを見ても可哀想だとか一切思わないとことか。
命を奪うことも大鎌を背負っていく者の宿命なのかも知れない。
三秒が終わり、技が使用可能になった。
「さらばだ。キング――――技【ブレイクサイズ】!」
ブラックサイズに赤いオーラが立ち上り、巨大な斬撃となり、目の前の巨大黒狼の体に大きな穴を空けた。
「刈り取ったぜ。お前の魂を」
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キングブラックウルフ(レベル40)を倒しました。
経験値140000を獲得しました。
称号【転生者】により獲得経験値が1/10に下がります。
レベル差によるボーナスにより、追加経験値420000を獲得しました。
称号【転生者】により獲得経験値が1/10に下がります。
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称号【転生者】ボーナスにより、レイドボス級魔獣初討伐追加報酬を獲得しました。
称号【ブレイカー】を獲得しました。
スキル【威圧】を獲得しました。
称号【転生者】ボーナスにより、レイドボス級魔獣初ソロ討伐追加報酬を獲得しました。
称号【覇道】を獲得しました。
スキル【限界突破】を獲得しました。
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称号【魔王と呼ばれていた者】
(2/100)
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【スキル】
農耕の心得(-)
草刈り鎌達人(-)
大鎌の心得(-)
大鎌展開(-)
大鎌の呪い(-)
◆闇夜より刈る者(117463/300000)
◇闇夜より歩く者(38491/300000)
◇闇夜より操る者(52916/300000)
威圧(-)
限界突破(-)
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レベルが10から12に上昇しました。
ステータスポイントを6獲得しました。
称号【転生者】により獲得ステータスポイントが10倍になります。
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【名 前】ベリル
【年 齢】7歳
【職 能】リーパー
【称 号】魔王と呼ばれていた者、転生者
ブレイカー、覇道
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【レベル】12
【 力 】41
【俊 敏】100+100
【器 用】33+50
【頑 丈】1
【魔 力】1+50
【抵 抗】1+100
【 運 】100+100
【
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◆
ポチに乗り村に戻る。
「兄ちゃん~!」
入口で小さな体で飛びながら手を振る妹の姿が見える。
他にも全ての村民達が集まっていて、俺の帰りを喜ぶ姿が見えた。
「ベリルッ!」
「みんな! ただいま!」
「「「「おかえり!」」」」
すぐに家族に囲まれて抱きしめられた。
今日はキングブラックウルフを狩りに出ると話していたから、ずっと心配してくれたんだ。
「みんな。キングブラックウルフを倒して来たよ。もう安心していい」
すぐに村民達が黄色い声を上げ、中には嬉し涙を流す者もいた。
もちろん――――また母さんを泣かせてしまった。
まあ! 嬉し涙なんだからいいよね!
その日は村で祭りを開くってことで、溜め込んだ食材を大量に出して、みんなが楽しそうに料理をする。
その間に俺は、ポチに乗り込み、魔女の家を訪れた。
結界を越えて畑に入るや否や、小さな何かが俺に突撃してきた。
「ベリルくんっ!」
「うわあ!? リ、リサ?」
「うぅ……おかえり……」
「あはは、心配してくれたんだな。ありがとうな」
「うん……」
エヴァネス様も嬉しそうな笑みを浮かべてくれた。
「二人とも、良かったら今からうちの村に来ませんか? これから祭りをするので食べ物とかたくさんありますよ!」
「祭り……?」
「あら、いいわね。リサちゃんは祭りとか初めてだろうし、きっと楽しいわよ~」
「それって……人がいっぱいいるんじゃ……」
「大丈夫。ベリルくんがずっと一緒にいてくれるって。ね?」
うっ……なにその意味ありげな笑顔は……。
「も、もちろんだよ! 俺が誘ったし、一人にはしないよ」
「うん……ベリルくんがそう言ってくれるなら……」
エヴァネス様は、魔女と言えばこれだよねっておなじみの空飛ぶ
ポチも俺の強さに比例して強くなって、今では村から魔女の家まで全速力で走れば数十分で着けるくらい速くなったのに、かなり余裕を持って追いかけてくる。
やっぱりエヴァネス様ってすごい魔女様なんだなと再認識した。
村に着くと、村民達が二人を見て不思議そうにしていたが、俺が連れてきたお客様だと話したらすんなりと受け入れてくれた。
「なっ! お、お、おい! ベリル!」
「どうした。グラン」
「そ、その可愛い子って……誰なんだ」
「この子はリサ。かなりの人見知りだからな」
「リサちゃんって言うのか……」
「ひい」
俺の背中に隠れるリサ。体が密着して彼女の体温すら伝わってくる。
「リサ~こいつはグランだよ。俺の唯一の友達だ。あ、リサ以外での意味な」
「ベリルくんのお友達……?」
「ああ。こう見えて実は涙もろいんだぜ」
「余計なこと言うな!」
顔を真っ赤にしたグランと一緒に広場に行くと、エヴァネス様を見つけたブライアンさんが嬉しそうに挨拶をした。
そういえば、二人の関係って、まだ幼かったブライアンさんが道に迷って魔獣に襲われたとき、たまたま通りかかったエヴァネス様が助けたそう。
「兄ちゃん。その女、誰よ」
「ソ、ソフィア……? 急に怖い顔をしてどうしたの?」
「むっ」
「えっと、こちらはリサ。俺の友達なんだ。人見知りだがいい奴だから仲良くしてくれると嬉しい。リサ~こちらは俺の弟のルアンと妹のソフィアだ」
びくびくしているリサをソフィアがじっと見つめる。
はは……女の子同士、仲良くして欲しいんだがな。
するとソフィアが俺の右手に抱き付いて、リサに向かって「ふん!」と敵意をむき出しにする。
「ソフィア。リサのおかげでポチを迎え入れることができたんだぞ?」
「えっ! ポチが?」
「そうだぞ~」
「う……リサ……お姉ちゃん?」
「ひょへ! え、え、えっと……はい……」
「うちのポチを選んでくれたのがリサお姉ちゃん?」
「う、うん……」
「そっか! リサお姉ちゃん! ありがとう!」
うちの妹はちゃんとお礼が言えて偉いなぁ~! ぬああ~! うちの妹、世界一可愛い!
それから祭りが始まり、みんなどんちゃん騒ぎを始める。
田舎村だけど、みんなで生きるために結束しているのもあって、みんな仲がいい。俺以外。
最近だと、子供組もルアンとソフィアを見て、解体を率先して手伝ってくれるようになった。まあ……目当ては肉なのが見え見えだが。
それも相まって、ルアンもソフィアも村では人気者になっている。俺とは大違いだぜ。
俺の中に二人と同じ血が流れているはずなんだながな……。
「むひっ」
「なんだよ。リサ」
「ベリルくんって……家族と似てないね」
「くっ……リサだってエヴァさんと似てないじゃないか」
エヴァネス様と言っちゃうと魔女だとばらすものなので、今日はエヴァさんと呼ぶことにしている。
「むう」
「むう~じゃありません」
「……ベリルくんってこういうところで住んでいたんだね」
「ああ。悪くない村だろ? まあ、俺はあまりこういう輪に入りたくはないが。ちょっと苦手なんだよな」
「むひっ。ベリルくんらしい~」
「褒めてるのかディスってるのかどっちだ~」
「両方~?」
「おい。可愛く言っても無駄だぞ」
リサの頭に優しくチョップを当てる。
「ちゃんと守れてよかったね」
「……ああ」
「偉い偉い~」
リサは――――初めて見る笑顔で俺の頭を優しく撫でてくれた。
いつもの不思議な笑い方じゃなければ、めちゃくちゃ可愛い女の子なんだがな。
はあ……まぁ、これも悪くないな。
お祭り騒ぎは夜が深まるまで続いた。
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