第13話 ボス級魔獣、進化

 今日はプレイル平原ではなく、東の岩場にやってきた。


 平原で取れる素材は、食べられるし、皮とか爪とかいろいろ使い道があって金策としてはいい。しかし、岩場より一つだけ残念なのは、経験値の量だ。


 今のところ、経験値を稼ぐなら岩場でロックリザードが一番効率がいい。


 ということで、まだまだ解体できない素材はたくさんあるので、今日はロックリザードを倒しまくる。


 しばらく倒していると、レベルアップを知らせるウィンドウが表示された。


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【レベル】5

【 力 】41

【俊 敏】31+50

【器 用】21

【頑 丈】1

【魔 力】1

【抵 抗】1+50

【 運 】1+50

SPスキルポイント】30

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 ん~バランス悪いというか、逆にバランスいいんだけど、鎌使いとしてのステータスだとバランスが悪い。


 力を上げた理由は荷物を持ちやすくするためだったが、今ではマジックバッグもあるし、力は後回しでいいや。


 今回のスキルポイントは、器用に10と俊敏に20を振って、力41、俊敏51+50、器用31になった。


 遂に俊敏が大台の100を超えたことで、動きが驚くくらい速くなった!


 俊敏1の頃と比べたら、大体三倍くらいかな?


「ただの農夫とは違うのだよ! 農夫とは!」


 いや、農夫だが。


 職能【農夫】。


 ゲームでは教会に行けばいつでも変えられるのだが、うちの村には教会がない。


 その上……領主や騎士達の態度を見ていると、そう簡単に職能変更はできなさそう。そもそも教会で変更できるかも怪しい。


 だって、教会で職能が自由に変えられるなら……世の中から農夫が大量に消え、戦闘職能にして兵にした方が絶対得策だから。


 そこら辺は大きな街に行ったときにでも確認するとして、今はとにかくレベル上げを頑張ろう。レベル上げは税金取られないし。


 前世みたいに税金が国民のために使われているならいいのに……この世界では領主の私利私欲を満たすための税らしい。


 ちょっとむしゃくしゃするので、ロックリザードに八つ当たりだ!


 まあ、一撃で倒しちゃうんだけどね。


 それにしてもブラックサイズのおかげなのか、プレイル平原の魔物もロックリザードも一撃なんだよな。


 もしかして、岩場のボス魔獣エンシェントロックリザードを倒せたりするのか?


 もうちょっとレベルを上げて挑戦してみよう。


 俺はその日から、二日ロックリザード、一日平原に行きつつエヴァネス様のところでお茶を頂く三日ローテーションの日々を過ごした。



 ◆



 二週間後。


 俺の目の前には――――ひときわ大きい岩のトカゲが佇んでいる。


 敵を前にしても敵意を見せないのは、俺を敵だと認識すらしてないみたいだ。


 さすが……ボス魔獣!


 キングブラックウルフのようなレイドボス級とは違い、通常ボス級の魔獣だからか恐ろしさは感じない。


 では、試してみますかね……! 今の自分の力というやつをよ!


 最初はジャブのつもりで足を斬りつけてみる。


「ギャルァアアアアア~!」


「お~効いてる効いてる……って、さすがに足は一回で切り落とせないか」


 それとやはり裂傷は与えられない。岩系統魔獣に効かないのは当然といえば当然か。


 俺を敵だと認識した巨大岩蜥蜴エンシェントロックリザードは、全身をくるくると回しながら攻撃してくる。


 ただ、回っているだけなら脅威ではないんだが、ここは岩場。もちろん、岩も巻き込んで、上手い具合に俺に向けて飛ばしてくる。たぶんそういうスキルか何かだと思われる。


 だが! 今の俺のスピードなら止まって見えるぜ!


 岩を避けつつ、何度も斬りつける。


 また反撃されるがそれも冷静に見ながら、カウンターを合わせる。


 戦い始めて数分。


 巨体がその場に倒れ込み、ウィンドウが表示された。


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エンシェントロックリザードを倒しました。

経験値20000を獲得しました。

称号【転生者】により獲得経験値が1/10に下がります。

レベル差によるボーナスにより、追加経験値60000を獲得しました。

称号【転生者】により獲得経験値が1/10に下がります。

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称号【転生者】ボーナスにより、ボス級魔獣初討伐追加熟練度獲得しました。

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称号【魔王と呼ばれていた者】

(1/100)

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レベルが7から8に上昇しました。

ステータスポイントを3獲得しました。

称号【転生者】により獲得ステータスポイントが10倍になります。

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【スキル】

鎌を持つ者(50000/50000)

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 ちょっと待って! 一気にウィンドウが五つも表示されると何が何だかわからないよ!


 そのとき、後ろから物音が聞こえてきた。


 声がした方に振り向くと、四人の男性が呆然と立っていた。


「ひい!?」


 すぐに一人の男性が尻もちをつく。


「デ、デスが魔獣を倒した!?」


 ……あれ? このくだりどこかで……?


「に、逃げろ! デスに睨まれたら命がないぞ!」


 そう言いながら全力で逃げるおじさん達。


 止める気も起きないので放っておくが……落とした武器はどうしよう? 一応回収しておこうか……。


 これはあれだ。盗みとかではない。ただ地面に落ちていた武器を拾っているだけ。けっして、狙ってないし、窃盗罪とかには問われないはずだ。


 念のため周りを確認して、速やかに武器を回収して、エンシェントロックリザードも回収した。




 今日はいろいろ考えたいこともあって、狩りは切り上げ、そのまま全力疾走で魔女の家にやってきた。


 また畑でリサともう何度目かわからないやり取りをする。


 いや……いい加減、俺をデスだと勘違いするのはやめてくれよ。


「エヴァネス様~以前依頼があった品を持ってきました~」


「依頼があった品?」


「ほら、エンシェントロックリザード? 外に出して置きました。あ、お茶いただきます~」


 俺の言葉を聞くよりも早く、エヴァネス様は外に出てしまった。


 直後に「エンシェントロックリザードの魔石が手に入るわ~!」と嬉しそうに話す声が聞こえてくる。


 そして、残ったリサと目が合った。


 どうやらエヴァネス様が速すぎて、逃げるタイミングを外したらしい。


 すぐに涙目になったリサは、外に逃げようとする。


 ……なんかいつもデスだと勘違いされているし、少しだけいたずらをしてやるか。


 彼女が扉から出る寸前に、一瞬で移動して彼女の前を塞いだ。


「ひい!?」


 そして隣にある壁に追いつける。


 彼女はより涙目になりながら体を震わせて俺を見上げる。


 俺は――――右手を繰り出し、彼女の頭の隣に少しだけ音が立つように壁ドンをする。


「やあ、お嬢ちゃん」


「ひっ!?」


「俺はデスなんかじゃなくて、ベリルっていうんだ」


「し、知ってます……ふえぇ……」


「なんだ。知ってたんだ」


 彼女はコクリと首を縦に振る。


「なんか……悪かったな。ほら、もう行って大丈夫だから」


 するとリサは何度かパチクリすると、逃げ出すことなく、じっと俺を見つめた。


「ん? どうしたんだ? 行かなくていいのか?」


「え、えっと……はうぅ……私……おばあちゃん以外に……話すの初めてで……」


「そっか。俺も家族以外はあまり話さないから、上手く話せなくてごめんな」


「えっ……そ、そんなことは……」


 いたずらしなきゃよかったと少し後悔。


 はあ……体は幼児でも精神は成人男性が何やってるんだか。


 最近、子供らしく振る舞うために子供っぽいことをわざとやってたら、それが素で出てしまう現象が起きるんだよね。名付けて頭脳は大人、体は子供!


 名付けになっていないか。しかも俺が考案したやつじゃないし。


 ソファに戻りたいけど戻るタイミングを見失ったし、リサは困ったようにずっと俺を見ているし、どうしたらいいかわからなくなっていると、扉が開いてエヴァネス様が入ってきた。


「ベリルくん! 素晴ら……あら、お邪魔だったからしら」


 助かったあああああ!


「いえ! それより魔石は取れましたか?」


「ほら、これがエンシェントロックリザードの魔石ね」


 エヴァネス様の手には紫色に光る石が置かれていた。


 サッカーボールくらいのサイズで、思っていたよりも大きいんだな。


「意外と大きいですね?」


「そうね。キングブラックウルフはもっと大きいわよ。二倍くらいかしら?」


 ふむふむ。覚えておこう。


「さあ、魔道具と交換してあげるわ! 取引よ!」


「はい。その前に、もう少しお茶を飲んでも?」


「もちろんいいわよ」


 お茶をもう一杯淹れてもらい、ゆっくり飲む。


 ふと、ソワソワしているリサが目に入った。


「君も飲みたいの?」


「えっ……と……うん……」


「あら、リサちゃんも飲むなら淹れるわよ。そこに座って」


 俺の向かいにエヴァネス様、正面を見て左手にあるソファにリサが座る。


 顔を赤らめてちらちらと俺を見るが……いや、話すこととかないし。


 ちょっと気まずいが、俺はさっそくウィンドウを開いて時間を有効活用していく。


 その様子が面白いのかリサはずっと見ていた。


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【レベル】8

【 力 】41

【俊 敏】100+50

【器 用】31

【頑 丈】1

【魔 力】1

【抵 抗】1+50

【 運 】42+50

SPスキルポイント】0

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 レベル6の時点で俊敏が100になり、運を上げることにした。


 運はクリティカルヒットといって、与えるダメージが二倍のダメージになるスキルだ。


 異世界では数字は見えないけど、きっとクリティカルヒットもあるだろうと考えて運に振ってる。


 それと、俊敏を100をそれ以上にあげてないのには理由がある。


 それが――――ステータス上限。


 “ワールドオブリバティー”ではステータスは一つに付き、最大100までしか上げられない。異世界もそれと同じく100までしか上げられなかった。それ以上は、装備やスキルで上げるしかない。


 ゲームではレベルの最大は100で、得られるステータスポイントは297ポイント。三つのステータスを100にするのが定石だった。


 俺のレベルが24になると、全ステータスが100になる計算になる。


 本当……称号【転生者】ってぶっ壊れチートスキルだと思う。


 そして最後に――――


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鎌を持つ者(50000/50000)

 ┗闇夜より刈る者

 ┗闇夜より歩く者

 ┗闇夜より操る者

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 一つしか選べないからどれを選ぼうかな……。

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